こんにちは、YAMA-GO編集部のりょうです。関西を拠点に、北アルプスを中心にULスタイルで山を楽しんでいます。このブログ「YAMA-GO」では、実際に使ったギアのレビューや選び方、山のノウハウなんかを発信しています。
登った翌日、階段を下りるたびに太ももが悲鳴を上げる。休み明けの仕事に響いて、次の山に行くのが少し怖くなる。そんな経験、ありませんか。僕も本番の山だけ登っていた時期は、下りでいつも脚を使い果たしていました。
この記事では、公的な資料や研究の数字と、僕が北アルプスの下りで味わった実感の両方から、予防と回復の順番を整理します。先に結論を書くと、いちばん効くのは下りの歩き方を変えることです。理由と、下山後24時間の過ごし方まで順番に見ていきましょう。
- 筋肉痛の主犯は登りではなく下りのブレーキ動作
- 歩幅を狭くして斜めに下るだけで脚の負担は減らせる
- 下山後は効果の大きい順にマッサージ・糖質+たんぱく質・翌日の散歩
- 本番1週間前に5分だけ下ると次の筋肉痛が軽くなる
北アルプスの下りで知ったエキセントリック収縮

登山の筋肉痛の主な原因は、下りで脚がブレーキをかけ続ける動きです。力を出しながら筋肉が引き伸ばされる伸張性収縮(エキセントリック収縮)が、筋線維に細かい傷をつくります。登りのしんどさとは、体の中で起きていることが別物なんですよね。

登りのほうがつらいのに、痛くなるのは下りのせいなの?
僕も逆だと思ってました。でも筋肉の使われ方を見ると、下りのほうが傷はつきやすいみたいですよ。
へえ、そうなんだ! どうしてなの?
根拠が3つあるので、順番に見ていきましょう。まずは僕の失敗談からです。
それを最初に実感したのは、2017年の富士山でした。吉田ルートの下りは8合目からずっと砂利の坂で、階段がありません。3時間強、自分の脚だけでブレーキをかけ続けることになります。
下り終えたときには、両足で5か所も水ぶくれができていました。トレッキングポールを持っていかなかったことは、今でも後悔しています。当時は「下りはしんどいもの」としか思っていませんでした。
その1週間後に登った奥穂高岳は、下山だけで7時半から15時半までかかりました。翌年の槍ヶ岳は、登りの時点で余裕がありません。槍平小屋を10時15分に出て、山荘に着いたのが14時40分。標準4時間の区間を、4時間25分かけて登っています。運動不足がそのままこたえた山行でした。
その槍ヶ岳の下山は、終日雨のなかで合計6時間45分でした。8時25分に山荘を出て10時25分に槍平小屋、そこで55分休んで11時20分発。12時に滝谷、13時20分に白出沢、14時10分の穂高平小屋でまた20分とって、15時10分に下山しています。休憩の合計は1時間25分。下りで区切りごとに足が止まるのは、それだけブレーキをかけ続ける時間が長いからだと、いまなら分かります。
下りのきつさは、道の種類でも変わります。2021年の秋、涸沢からパノラマコースへ入ったとき、入口には「崩落箇所アリ 健脚者・熟達者のみ通行可 ストック使用禁」という手書きの看板が立っていました。路面はザレた石だらけ。同じ「下り」でも、休憩を刻んで脚をもたせる道と、ポールに頼れず自分の脚だけでブレーキをかける道があります。道が変われば、ブレーキの掛け方も変えることになります。
では、体の中では何が起きているのか。登りは筋肉が縮みながら力を出します。下りは逆で、体が落ちるのを止めるために、力を出しながら引き伸ばされる。同じ運動量でも張力が高くなり、筋線維に微細な損傷が起きやすくなります。
2つめは筋肉の活動量です。運動生理学者の安藤真由子さんの解説では、平地歩行と比べたときの活動量は、登りで大臀筋、下りでは腹直筋と大腿四頭筋が約1.5〜2倍になるとされています。太ももの前が痛くなる人が多いのは、この使われ方の差ですね。
3つめが着地衝撃。段差0.2mの階段を降りるだけで膝には体重の約3倍、0.5mを飛び降りて0.1秒で受け止めると約4倍の力がかかると見積もられています。公園で数回なら問題になりません。山ではこれを千回、数千回と繰り返すのが違いです。
成人15名を対象にした登山前後の測定でも、登山後に大腿四頭筋、なかでも内側広筋と外側広筋に疲労が出ることが示されています。単関節をまたぐこの2つが、下りで繰り返し使われるためと考察されています。
登りでバテた記憶が強くても、筋肉痛の材料をつくっているのは、たいてい下りのほうです。
ちなみに「乳酸がたまるから筋肉痛になる」という説明は、いまは支持されていません。乳酸は運動後1〜2時間で消えてしまうので、1〜2日遅れて出る痛みの理由にならないからです。
筋肉痛を防ぐ最大の鍵は下りの歩き方

予防でいちばん効くのは、下りの歩き方を変えることです。歩幅を狭くする、斜めに下る、飛び降りない。あとで紹介するポールの実験では、傾斜25度の下りで膝まわりにかかる力のピークが12〜25%減りました。歩き方を変えるのは、それを道具なしで狙う方向の工夫です。

装備や栄養より先に歩き方を置く理由は単純で、お金がかからず今日から変えられるからです。もちろん歩き方だけで全部は防げません。順番に見ていきます。
歩幅を狭くして斜めに下る
国立登山研修所の資料が挙げる省エネ歩行の基本は3つ。足裏全体で着地するフラットフッティング、小さい歩幅、後ろ足で蹴らないことです。下りではここに「後傾しない」が加わります。
後傾、いわゆるへっぴり腰になると、足が前に滑って尻餅をつきやすくなります。やや前傾なら足は後ろに滑るので、傾斜地でも止まりやすい。怖いときほど腰が引けるので、意識して直したいところです。
日本山岳ガイド協会認定国際ガイドの熊田光治さんは、斜めに(ジグザグに)下って筋肉への負荷を分散することを勧めています。同じ歩幅を延々と続けないのもコツ。段差や階段では体の向きを変えて、関節の曲げ伸ばしに変化をつけます。
| 場面 | やること |
|---|---|
| ふつうの下り | いつもの歩幅から一足分だけ詰める。かかとから落とさず、足裏全体で置く |
| 同じ下りが長く続くとき | 同じ歩幅を延々と続けない。歩幅と歩調をときどき入れ替える |
| 同じ段差が続く階段 | 斜めに下る・体の向きを変えて使う筋肉を変える |
| 50cm以上の大きな段差 | 飛び降りず、重心を落としながら足首と膝を柔らかく使う |
| 急な下りで怖いとき | 後傾せず、やや前傾を保つ |
| ザレた石の多い道 | 歩幅をさらに狭め、惰性で加速しない |
飛び降りないのは、着地の一瞬に衝撃が集中するからです。上手な人ほど重心を一定の速度で落とし続けていて、一歩ごとに止まりません。段差では太ももの前だけでなく、前脛骨筋(すねの前)も意識して使うと、膝への集中が減ります。
ただし熊田さんは「歩き方だけでは脚のガクガクは防げず、筋力強化は不可欠」とも釘を刺しています。歩き方は今日からできる応急処置で、根本は脚づくり。そちらは次の章で扱います。
ポール・着圧・行動食は重さの元が取れる
軽さを優先する僕でも、下りの長い山ではポール・着圧タイツ・行動食の3つは持つ価値があると考えています。消費エネルギーの式では荷物1kgが体重1kgと同じ重みで効くので、増える重さの元が取れるかどうかが判断軸になります。
ポールの効果は実際に測られています。Schwameder らが1999年に報告した実験では、傾斜25度の下りで地面反力・膝関節モーメント・関節にかかる力のピークが12〜25%減りました。被験者は男性8名の小規模な実験なので、数字はあくまで目安として読むのが正確です。
使い方にもコツがあります。下りでは体重を乗せすぎず、4本の足で進むイメージでバランスを取る。医師の取材記事でも勧められている使い方です。乗せすぎると腕が疲れ、かえってバランスを崩します。
価格は公式ページで8,000円台から3万円台まで。軽い折りたたみ式には長さが固定のモデルもあり、その場合は身長で選ぶ必要があります。仕様と価格は変わるので、購入前に公式サイトでご確認ください。
着圧ウェア(コンプレッションタイツ)は、筋肉痛への効果量が -0.92 と報告されていて、マッサージと軽い運動に次ぐ大きさです。ただしこの数字は運動が終わったあとに着用したときの回復効果をまとめたもので、登山中に着けたままにすれば筋肉痛を予防できる、というところまでは確かめられていません。行動中から翌日まで続けて着けられる手軽さが利点で、効果量が出ているのは回復の側、と分けて読むのが正確です。
僕が槍ヶ岳に行ったときは、1,200円ほどの安いスポーツタイツを化繊のウェアの下に履いていました。半ズボンでも岩で脚をすりむかない、という程度の役割です。テーピング原理のモデルとは設計思想が別物なので、普段あまり運動していない人ほど、そちらを検討する価値があります。
| タイプ | 主な役割 | 公式価格(税込) |
|---|---|---|
| 段階着圧のみ | ふくらはぎ側を強めに圧迫する | 6,600円 |
| ひざ・股関節サポート | テーピング原理で関節まわりを支える | 11,000〜13,200円 |
| 下半身フルサポート | 腰やおしりまで含めて支える | 18,700〜20,900円 |
サポート範囲が広いほど高くなり、ひざ・股関節帯と下半身フル帯では6,000〜9,000円の差がつきます。下りの筋肉痛が主な悩みなら、まずひざ・股関節帯で足りるかを考えると無駄がありません。
CW-X(ワコール)サポートタイツ
ひざ・股関節まわりをテーピング原理で支えるタイプ。下りの脚のダメージが悩みなら、まずこの帯から検討すると選びやすいです
価格目安:11,000円〜(公式ストア・税込)
行動食も脚を守ります。体に貯めておける糖質は1,500〜2,000kcal程度で、日帰りでも足りなくなる場面があります。エネルギーが切れると足がもつれ、判断力まで落ちる。切れてから食べても30分〜1時間は動けませんので、1〜2時間に1回、こまめに口に入れるのが基本です。
プロテインは下山後1回より数日前から
プロテインやアミノ酸は「効果あり、ただし条件付き」です。研究で差が出ているのは運動後24〜72時間の痛みで、飲んだ直後ではありません。
BCAA(分岐鎖アミノ酸)のメタ分析では、24・48・72・96時間の時点で痛みが軽くなったと報告されています。1日あたりの量が多いほど、また摂った期間が長いほど効果が大きい傾向。つまり下山後に1回だけ飲んで劇的に変わるものではありません。
効果が確認されている条件は、どちらかといえば事前からの継続寄りです。数日前から続けるほうが、研究の条件には近い。ただし未訓練の人での効果や、単発で飲んだときの効果は結論が出ていません。
下山直後に摂るなら、たんぱく質だけより糖質:たんぱく質=3〜4:1のほうが効率的とされています。おにぎりとプロテイン飲料、菓子パンと牛乳。難しく考えず、この組み合わせで十分です。
アミノ酸の形なら消化分解が要らず、吸収が約30分と速いのも特徴です。たとえばアミノバイタルGOLDは1本にBCAAを2,470mg含み、公式ストアでは30本入で6,804円。1本あたり約227円なので、毎回使うと出費もそれなり。大事な山の前後に絞る使い方が現実的かなと思います。
アミノバイタル GOLD(味の素)
1本でBCAAを2,470mg。運動後向けの製品です。本文で挙げた研究の数字はBCAA全般のもので、この製品で同じ効果が出ることを示すものではありません
価格目安:6,804円/30本入(公式・税込)
「飲めば筋肉痛にならない」ではありません。報告されているのは「軽くなる」までで、体質や体調による差もあります。
次の山に備えて下りに強い脚をつくる
次の山の筋肉痛は、当日よりその前の1〜2か月と、直前の1週間でだいぶ決まります。しかも直前にやることは、驚くほど少なくて済みます。

準備というと体力づくりを思い浮かべますよね。ただ下りには「動作に慣れておく」という別の軸があります。まずはそこから。
5分の下りで痛みが約半分に減った実験
未鍛錬の若い男性36名を対象にした実験があります。本番は傾斜マイナス28%のトレッドミルを、体重の10%を背負って40分下るという内容。何もしなかったグループと、1週間前に5分だけ下っておいたグループを比べました。(出典:Maeo ら『PLoS ONE』2017年)
| 指標 | 何もしない群 | 1週間前に5分下った群 |
|---|---|---|
| 筋力の低下 | -19.2% | -9.9% |
| 血中CK(筋損傷の指標) | 635 U/L | 339 U/L |
| 痛み(VAS) | 81mm | 28mm |
差はおよそ47〜64%。しかも先行して行った5分の下りは、それ自体では筋損傷の指標がまったく動かない軽さです。同じ5分でも、平地歩行では効果がありませんでした。効いているのは「下る」という動作そのものだと分かります。
登山者向けに翻訳すると、本番の1週間前に階段や近所の坂を数分“下るだけ”。エレベーターの下りを階段に変える、くらいでも方向は合っています。体力をつけるのではなく、下る動作を体に思い出させる準備ですね。ただし確かめられているのは40分の下り歩行に対する効果まで。数時間続く実際の登山にどこまで効くかは、この研究からは分からないと論文自身が断っています。
これは山本正嘉さんが勧める「残存効果」とも方向が一致します。本番の1〜2週間前に、本番の半分くらいの負荷の登山を1回。1〜2か月のあいだに2〜3回できれば、慣れの効果も足し算になります。
土台になる量の目安もあります。安全に登るには月に±2,000mの登下降が推奨され、月1回でまとめて稼ぐより週1回±500m程度の低山に分けるほうが安全とされています。平地のウォーキングだけでは、この量の代わりにはなりません。
| 種目 | 1週間の目安 | 獲得ポイント |
|---|---|---|
| 登山 | 上り500m・下り500m | 500 |
| 坂道ウォーキング | 上り500m・下り500m | 400 |
| 階段昇降 | 上り3,125段・下り3,125段 | 400 |
| ウォーキング | 7万歩 | 250 |
| スクワット | 135回(15回3セット×3回) | 165 |
週500ポイント・月2,000ポイントを目標にした換算表です。読み取れることはシンプルで、1日1万歩を7日続けても低山1回の半分にしかならないということ。あくまで目安の換算ですが、優先順位を決めるには十分に使えます。
筋電図の測定でも、普通に歩いたときの大腿四頭筋の活動は最大筋力の5%程度。早歩きや階段でも10〜15%どまりです。筋力を保つには30%以上が必要とされるので、平地の歩行だけでは水準に届きません。
自宅で足す種目ならスクワットです。体を降ろす局面で大腿四頭筋が伸張性収縮するので、下りと同じ様式の負荷がかかります。初期は10回×3セット、目標は15回×5セットを週2〜3回。腹筋と合わせて苦にならなくなれば、一般的な登山に必要な筋力の目安に届いたと見なせます。
筋肉痛予防より入浴後のストレッチで可動域を保つ
残念なお知らせですが、ストレッチでは筋肉痛は防げません。12研究・2,597名をまとめたコクラン・レビューでは、運動前・運動後・その両方のどれで行っても、意味のある軽減は確認できませんでした。(出典:コクラン・レビュー(Herbert ら, 2011))
よく勧められる方法だけに、期待していた人には残念な話ですよね。効果量で見ても、ほかの回復手段が軒並みマイナス側(良い方向)に並ぶなかで、ストレッチだけがプラス側でした。
では無駄かというと、そうではありません。価値は柔軟性と関節可動域のほうにあります。足首と股関節の可動域が広がると、下りで後ろ足を使えるようになり、膝と太ももへの集中が減ります。目的を置き換えると、続ける意味がはっきりします。
- 大腿四頭筋: 片足で立ち、反対の足首を持ってかかとをお尻へ引き寄せる。20〜30秒キープ、壁に手をついてよい
- ハムストリングス: 足を前に伸ばして座り、つま先へ上体をゆっくり倒す。膝は軽く曲がっていてよい
- レッグエクステンション: 座って片脚を伸ばし、かかとを高く上げて少し止め、ゆっくり下ろす。左右2〜3セット
- タイミング: 静的ストレッチは入浴後に。1日2〜3セットを目安に続ける
原則は「運動前は動的ストレッチ、運動後は静的ストレッチ」です。静的ストレッチを直前に長くやると、発揮できる筋力が下がるという報告もあります。登る前は関節を回しながら体を動かすほうへ寄せましょう。
予防として本当に効くのは、歩き出しの30分をゆっくり歩くことです。物足りないくらいでちょうどよく、20分ほどで体が温まります。そこで汗が流れるほどかいていたら、少し速すぎるサインですね。
下山後24時間は筋肉痛に効く順にやる
下山後にやることは多いようで、効果の大きさで並べると順番がはっきりします。上位はマッサージ、翌日の軽い運動、着圧ウェアの3つです。

下りたあとって、まずお風呂だよね?
気持ちはいいですよね。ただ効果の大きさで並べると、先にやることが別にあるみたいですよ。
へえ、順番があるんだ! 一緒に確かめてみたいな。
| 手段 | 効果の大きさ(数字が小さいほど痛みが減る) | 登山者の実行しやすさ |
|---|---|---|
| マッサージ(20〜30分) | -2.26 | 帰りの車内や自宅で自分でもできる |
| 翌日の軽い運動 | -0.94 | 翌日の散歩でよい |
| 着圧ウェア | -0.92 | 登山中から翌日まで続けて使える |
| 冷やす(冷水浴など) | -0.47〜-0.53 | 下山後の入浴施設の水風呂 |
| 交代浴(温冷交代) | -0.40 | 下山後の温泉で実行しやすい |
| ストレッチ | +0.15(効果なし) | やるなら別の目的で |
99の研究をまとめたメタ分析の数字です。ここで注目したいのは金額のほう。自分でやるマッサージと翌日の軽い運動は、どちらも無料です。道具を足す前に、この2つが埋まっているかを見るほうが先かなと思います。(出典:Dupuy ら『Frontiers in Physiology』2018年)
下山1時間以内はマッサージと糖質+プロテイン
まず下山直後。いきなり座り込まず、平坦な道を5分ほどゆっくり歩いて心拍を落ち着けます。ここからの1時間が、いちばん打ち手の多い時間帯です。
マッサージは運動直後から2時間以内に20〜30分が推奨されています。ただし効果量 -2.26 が出ているのは施術を受けたマッサージを集めた研究で、自分でさするセルフマッサージが同じだけ効くかまでは確かめられていません。悪影響の報告は無いので、太ももの前と外側、ふくらはぎをさするところから始めて構いません。帰りの車の助手席や、家に着いてからでも十分間に合います。
フォームローラーは、そのマッサージの自己版という位置づけです。メタ分析では柔軟性が約10%向上し、疲労の指標が受動的な回復より約15%低下したと報告されています。悪影響は確認されていないので、道具を1つ足すならここが無難ですね。
同じ時間帯に、糖質とたんぱく質を3〜4:1で入れておきます。運動直後の糖質はグリコーゲンの回復に有利で、2時間後に摂るより回復量が多いとされています。下山後の食事は、ごほうびであると同時に回復の一部です。
直後は冷やす、翌日からお風呂で温める
いちばん質問が多いのがここだと思います。答えは処置するなら下山後1時間以内。冷やす効果は初日まで、温めるほうが翌日以降まで届く。32件のランダム化比較試験・1,098名をまとめたメタ分析が比べたのは、どちらも運動後1時間以内に行った冷却と加温で、冷却は24時間以内の痛みだけを、加温は24時間を超えた痛みまで軽くしていました。ただし冷却と加温のあいだに有意な差はなく、「直後は必ず冷やす」と言い切れる線までは引けません。
| 下山後1時間以内の処置 | 24時間以内の痛み | 24時間を超えた痛み |
|---|---|---|
| 冷やす(冷水浴など) | ○(軽減) | 明らかな効果なし |
| 温める(入浴・温熱) | ○(軽減) | ○(軽減) |
冷やすなら冷水浴で11〜15℃・11〜15分が最適域とされています。下山後の入浴施設なら、水風呂と湯船の交代浴にすると冷やす側と温める側を両方拾えます。なお翌日以降にお風呂で温めること自体は、このメタ分析では試されていません。悪影響の報告も無いので、翌日からの入浴は気持ちよさで選んで構いません。ただし単発の短い加温・冷却では差が出なかった研究もあるので、これだけで治ると考えないほうがいいです。
見落とされがちなのが、冷やしすぎの副作用です。トレーニング後に10℃の冷水浴を10分、12週間続けた研究では、大腿四頭筋の筋量増加が通常の約+15%に対して約+2%にとどまりました。痛みを消す処置が、強くなる分を削ってしまうことがあります。
そこで使い分けです。翌日仕事に響かせたくない大事な山の後は冷やす、トレーニングのつもりで登った低山の後は冷やさない。毎回しっかり冷やすのは、その山で得られるはずの筋量・筋力の伸びを削ることになりかねません。なお冷水浴で確かめられているのは筋トレの適応が鈍るところまでで、下りの「慣れ」(繰り返し効果)まで消えるかどうかは分かっていません。
翌日仕事に響かせない過ごし方
痛みのピークは運動後24〜72時間です。日曜に下山したら、つらいのは月曜から水曜。山は火曜ごろに来ることが多いです。前倒しして消すことはできず、コントロールできるのはピークの高さだけです。
だからこそ当日の3つ、糖質+たんぱく質・マッサージ・睡眠に投資します。睡眠は筋肉の修復に欠かせず、足りないと回復が遅れるとされています。眠るのが一番安い回復手段、という身も蓋もない結論ですね。
翌日は完全休養より、軽く歩くほうが効果は大きくなります。散歩程度で十分。効果の大きさでも -0.94 と上位に入ります。
| 時点 | やること |
|---|---|
| 下山直後 | 座り込まず、5分ほどゆっくり歩く |
| 1時間以内 | 糖質+たんぱく質。冷やすならここ。マッサージも2時間以内に |
| 当日の夜 | 入浴と睡眠を最優先。着圧ウェアは履いたまま続けてもよい |
| 翌日 | 温める。軽い散歩。寝込まない |
| 翌々日 | 痛みのピーク。ここが最大でも通常の経過 |
| 3〜7日 | 徐々に消えていく |
痛み止めについては、我慢する必要はありません。ただ「回復を早めるために飲む」根拠は乏しく、市販量のイブプロフェンなどが運動後の筋タンパク質合成を抑えたという報告もあります。持病のある方や常用している方は、医師や薬剤師にご相談ください。
痛みが軽くても筋力は落ちています。翌日に急な階段や重い荷物の作業をすると、思ったより脚が効かず転びやすいので気をつけてください。
登山の筋肉痛は何日で治る?受診の目安
一般的な経過は、8〜24時間で出はじめ、24〜72時間がピーク、5〜7日で消えるです。48時間前後にいちばん強くなるという報告が多くなっています。

「登山なら何日」という登山だけの実測値は、公的な資料では見つけられませんでした。ネット上には「日帰りなら1日、きつめなら2〜3日」といった数字もありますが、出所がはっきりしません。出所の分からない数字よりも、一般的な経過のほうを目安にしておくのが安全です。
参考になるのが、山と溪谷オンラインの読者アンケート(483名)です。膝の痛みについての調査ですが、数時間で引くが37%、1〜3日で引くが41%。合わせて78%が3日以内に収まっています。下山のダメージは多くが数日で落ち着く、という肌感覚とは合いますよね。
気をつけたいのは、筋肉痛と呼んでいるものに別のトラブルが混ざる場合です。太ももの前が張るのと、膝の一点が痛むのとでは、対処がまったく違います。
| 症状 | 考えられること | 対応 |
|---|---|---|
| 太ももの前が階段の下りでつらい | 大腿四頭筋の筋肉痛 | 通常の経過。数日で軽くなる |
| 膝の皿の周りや外側が痛む | 関節まわりのトラブルの可能性 | 筋肉痛の対処では治らない。整形外科の領域 |
| 下山中に脚がガクガクする | 筋疲労で支える力が落ちた状態 | 筋肉痛の前段。転倒に注意 |
| ふくらはぎが攣る | 筋けいれん | 遅れて出る筋肉痛とは別物 |
| 尿が赤褐色・安静時も痛む | 横紋筋融解症を疑う場面 | 直ちに医療機関へ |
激しい運動は、まれに横紋筋融解症の原因になります。骨格筋が壊れて成分が血中に流れ出す病態で、患者の15〜50%が急性腎障害を起こすとされています。典型的な症状は筋肉痛・筋力低下・紅茶色の尿ですが、3つそろうのは全体の10%未満です。
尿の色が濃い、尿量が減る、安静にしていても痛む、力が入らない。こうしたときは通常の筋肉痛の枠を外れます。直ちに医療機関にご相談ください。
厚生労働省のマニュアルでも、「筋肉が痛い」「こわばる」「全身がだるい」「尿の色が赤褐色になる」といった症状に気づいたら、すぐ医師や薬剤師に相談するよう求めています。1週間を超えて強い痛みが続くときも、自己判断はせず受診してください。ここに書いたのはあくまで一般的な目安で、最終的な判断は専門家にご相談いただくのが確実です。(出典:厚生労働省『重篤副作用疾患別対応マニュアル 横紋筋融解症』)
関連記事:下山で膝が痛い原因と対策
筋肉痛にならない人は何が違うのか
答えは3層に分かれます。いちばん大きいのは体質ではなく「慣れ」で、次に個人差、そして加齢では説明できない、という順番です。
同じ山を歩いても平気そうな人がいると、自分の体力を疑いたくなりますよね。でも多くは、その動作にどれだけ慣れているかの差です。
体質の差もあります。同じ運動をしてもほとんど痛みが出ない人がいて、そういう体質の人がいるというだけの話。痛みが出ないから強い、という意味ではありません。
ここが大事なところで、痛みの強さと筋肉のダメージの大きさは比例しません。近年の研究では、痛みは筋肉の痛覚受容器が過敏になることで生まれるとされ、損傷や炎症が必ずしも必要ではないと分かってきました。痛くなくても筋力は落ちていることがあります。
「年をとると筋肉痛が遅れて出る」もよく聞きます。ただ、これには明確な根拠がありません。専門家の解説でも、加齢で出る時期が遅くなるとは言い切れないとされています。仮説はあるものの、証明はされていない段階です。
慣れの効果は約6か月、空けば戻る
一度同じ様式の運動を経験すると、次からダメージが小さくなります。これを繰り返し効果と呼びます。保護は少なくとも6か月続き、9〜12か月のあいだに失われると報告されています。
実験では2回の運動を6か月・9か月・12か月あけて行い、6か月後には効果が残り、12か月後には消えていました。シーズン初回の山で筋肉痛がひどいのは、だからごく正常です。前のシーズンから間隔が空くほど、体はリセットされていきます。
ここから、頻度についての答えが出ます。痛いのが嫌で山から遠ざかる、は悪循環です。慣れの効果は半年ほどで薄れはじめ、9〜12か月あくと消えるので、シーズンをまたいで間隔が空くほど次がまた痛くなります。ただし今まさに強い痛みや腫れがあるときは別で、そこは休むほうが先です。
山本正嘉さんも、毎日ジムでトレーニングしている人より、2週間に1回山に行っている人のほうが下山時のトラブルが少ないとしています。処方は「軽い山を高い頻度で」。前に挙げた目安は週1回±500mでしたが、そこに届かなくても効果がゼロになるわけではありません。標高差の小さい低山を月2回から始めて、慣れてきたら週1回に寄せていく。その順番で、次の北アルプスの下りは変わってきます。
ただし繰り返し効果は成人男性で最もはっきり現れ、少年や高齢の男性では弱かったという報告もあります。家族や仲間と登るときは、同じペースで慣れると考えないほうがいいですね。
登山の筋肉痛のよくある質問
ふくらはぎが攣るのも筋肉痛の一種ですか?
別物として扱ってください。攣りは筋けいれんで、行動中や夜間に急に起こります。遅れて出る筋肉痛は、下りのブレーキ動作(伸張性収縮)のあと8〜24時間かけて現れるもので、仕組みが違います。伸張性収縮は筋線維に微細な傷をつくりやすい動きですが、痛みそのものは筋の痛覚受容器が過敏になることで生まれるので、傷の大きさと痛みの強さは必ずしも一致しません。原因を一つに決められる症状ではないので、繰り返すようなら医師にご相談ください。
登山の前日は何をしておくといいですか?
睡眠を最優先にしてください。睡眠不足は運動後の回復も妨げます。エネルギー面では、2〜3日前から炭水化物中心の食事にして糖質を蓄えておく方法もあります。前日の追い込みトレーニングは逆効果になりやすいですし、長い静的ストレッチは発揮できる筋力を下げるという報告もあるので、体を動かしながら関節をほぐす程度にとどめるのが無難です。
筋肉痛が残っているうちに次の山へ行っても大丈夫ですか?
痛みが軽くても筋力は落ちているので、下りでの転倒には注意してください。行くなら行程を短くして、下りの少ないコースを選ぶと安心です。ただし強い痛みが続く、腫れている、安静にしていても痛むといったときは見送って、医療機関にご相談ください。
膝サポーターを着ければ筋肉痛も防げますか?
膝サポーターは筋肉痛の道具ではありません。膝の皿の周りや外側の痛み、左右のぐらつきを抑えるためのもので、価格帯はソフト〜ミドルサポートで1,430〜5,720円ほど。太ももの筋肉痛が悩みなら、効果量が報告されている着圧タイプのタイツのほうが目的に合います。悩みの場所で選び分けてください。
本番まで1か月を切っていたら、もう間に合いませんか?
できることは残っています。1〜2週間前に本番の半分くらいの負荷の登山を1回、1週間前に5分だけ下る。この2つは短期間でも成立します。加えて荷物を減らす、標準のコースタイムの1.2〜1.5倍を見込んだ計画にすると、体への負担そのものを下げられます。ちなみに2か月前から準備した事例研究では、42〜57歳の3名が脚の筋力を10〜18%伸ばしています。
登山の筋肉痛は下りの歩き方と24時間で決まる
結局いちばん大事なのは、下りだったんだね。
そうみたいです。歩き方を変えて、下山後の順番を守る。あとは山の間隔を空けすぎない、ですね。
登山の筋肉痛は、下りで脚がブレーキをかけ続けることで起こります。予防も回復も、そこを起点に組み立てると迷いません。要点をまとめておきます。

- 主因は下りの伸張性収縮。下りでは大腿四頭筋の活動量が平地の約1.5〜2倍になる
- 歩幅を狭く、斜めに下り、飛び降りない。後傾せずやや前傾を保つ
- ポールは傾斜25度の下りで膝への力を12〜25%減らしたと報告されている(被験者8名の実験)
- 着圧タイツは登山中に着けたまま予防に回せる数少ない手段
- 下山後1時間はマッサージと糖質+たんぱく質。翌日は寝込まず軽く歩く
- 処置は下山後1時間以内に。冷やす効果は初日まで、温めるほうが翌日以降の痛みまで届く。毎回冷やしすぎると筋量・筋力の伸びを削る
- 本番1週間前に5分だけ下ると、次の山のダメージが半分近くまで減った実験がある
- 慣れの効果は約6か月。間隔を空けるほど戻るので、軽い山を高い頻度で
僕自身、間の時期はほとんど登らず本番の山だけ登っていた頃は、下りでいつも脚を使い切っていました。唯一の例外が2019年で、ジャンダルムを目指す前に西穂高岳へ日帰りの慣らしに行っています。この記事で書いた「本番前に一度、下りを踏んでおく」は、僕がたまたま一度だけ実行できていたやり方でもありました。次の山を楽しむための準備だと思って、下りの練習から始めてみてください。
なお、ここで紹介した数値はいずれも一般的な目安です。体調や持病によって適切な対処は変わりますし、製品の価格や仕様は変わることがあるので公式サイトでご確認ください。強い痛みや体の異変があるときは、自己判断せず専門家にご相談ください。
