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登山のコースタイム目安とは?初心者の倍率と実測比較で解説

登山地図のコースタイムをどう見積もるかを解説するイメージ

こんにちは、YAMA-GO編集部のりょうです。関西を拠点に、北アルプスを中心にULスタイルで山を楽しんでいます。このブログ「YAMA-GO」では、実際に使ったギアのレビューや選び方、山のノウハウなんかを発信しています。

地図やアプリに「4時間30分」と書いてあっても、それが自分にとって速いのか遅いのか、判断できませんよね。休憩が入っているのか、誰が歩いた時間なのかも、地図には書いてありません。

僕は北アルプスを歩くたびに通過時刻をメモして、標準のコースタイムと自分の実測を突き合わせてきました。この記事では自分専用の倍率を出して行動時間に落とし込む手順を、実測タイムを開きながら説明します。

  • コースタイムが誰の・どんな条件の時間なのか
  • 初心者が使う倍率の目安と、休憩の足し方
  • 北アルプス4ルートで実測した倍率(0.73〜1.10)
  • 自分のコースタイム比を測って行動時間を決める手順

登山のコースタイム目安は初心者で1.2〜1.5倍

結論から言うと、登山を始めたばかりの人は標準コースタイムの1.2〜1.5倍で歩行時間を見積もると安全側に寄せられます。そのうえで休憩を別に足すのが、計画づくりの基本形です。

登山のコースタイムに掛ける初心者向けの倍率1.2〜1.5倍を中心に、ソロ登山は0.9倍・悪天候時は1.2倍・子ども連れは1.5〜2倍など条件別の倍率をまとめた早見表
ゴウ
ゴウ

1.2倍とか1.5倍って、どうやって決まってるの?誰かが決めた数字なの?

決まりというより、公的な資料と現場の感覚が重なったところの目安みたいですよ。まずは安全側の1.5倍から入るのが無難かなと思います。

りょう
りょう

1.2〜1.5倍という幅は、複数の登山情報サイトで共通して示されている目安です。近い一次資料としては、長野県山岳総合センターの説明があります。標準の1.5倍の時間をかければ、体への負荷を5メッツ程度まで落とせるという内容です。

条件倍率出どころ
初心者・体力に自信がない1.2〜1.5倍登山情報サイトで共通して示される目安
体力が6メッツ未満の人が難易度A・Bを歩く1.5倍長野県山岳総合センター
ソロ登山0.9倍山と高原地図の運営元が示す補正
悪天候時1.2倍同上
子ども連れ1.5〜2倍登山ガイドによる目安

倍率をかける相手は「歩行時間」です。休憩は倍率とは別枠で足します。

ここを取り違えると、計画の時間が足りなくなりやすいです。標準コースタイムには休憩が1分も入っていないからです。倍率で歩く速さのズレを埋め、休憩でその外側を埋める。この二段構えが要点です。

自分の倍率が分かってくれば、1.2〜1.5倍という幅は自分の数字に置き換えられます。倍率をどう測るのか、休憩をどう足すのかは、この後で順番に見ていきましょう。

コースタイムに休憩は含まれない

コースタイムに休憩は含まれません。昼食も、写真を撮る時間も、景色を眺める時間も、すべて別枠です。地図の数字は「歩き続けた場合の時間」だと考えてください。

穂高岳山荘の公式ルートガイドにも「コースタイムはあくまでも目安です。また、休憩時間は含まれていません」と明記されています。山小屋が出す数字も、地図と同じ前提だと分かりますね。

よくある誤解実際
初心者向けのゆっくりした時間だ40〜60歳の登山経験者が2〜5名で歩く時間
休憩が入っている入っていない。昼食も撮影も別枠
どの地図・アプリでも同じ数字が出る算出の出どころが違うので値がずれる

この3つが分かると、地図の数字との距離感がつかめます。それぞれの中身を見ていきましょう。

想定は40〜60歳の経験者パーティ

山と高原地図のコースタイムは、40〜60歳の登山経験者が2〜5名のパーティで歩く時間として設定されています。初心者がゆっくり歩く前提の数字ではありません。

項目条件
想定する登山者40〜60歳の登山経験者
パーティ構成2〜5名
装備山小屋利用を前提とした装備
季節・天候夏山(無雪期)の晴天時
休憩時間含まない

昭文社が地図の執筆者に出す基準文も公開されています。「通常の天候の下で、一般的な登山者が行動する実際の時間に若干の余裕を持たせた物、ただし、休憩時間は含まない」。最速値でも平均値でもなく、多数派の実績に少し余裕を足した値ということですね。

装備の前提が「山小屋利用」である点も見落としがちです。テント泊の重い荷物では、この前提から外れます。荷物が重くなるほど、同じコースタイムで歩く負荷は上がります。

コースタイムは固定値でもありません。山と高原地図は毎年の現地調査で改訂されていて、登山者層の変化を受けて数字が延びた区間もあります。東日原から横スズ尾根経由で一杯水へ至る区間は、2時間から2時間半に見直されました。

つまり昔の地図の数字と、今のアプリの数字を同じ物差しでは比べられません。手元の地図がいつの版なのかは、一度見ておくといいですよ。

山と高原地図とアプリで値が違う

同じ区間でも、サービスによってコースタイムは変わります。算出の出どころが違うからです。どれかが間違っているわけではありません。

サービスコースタイムの出どころ
山と高原地図各山域の調査者による実踏調査。毎年改訂
ヤマタイム国土地理院の数値地図に『ヤマケイアルペンガイド』の地図情報を重ねたもの
YAMAP2023年9月13日以降、自社の標準コースタイムモデルで地形から算出
ヤマレコ計画機能「らくルート」の標準コースタイムが基準値

YAMAPが2023年に採用したモデルは、利用者の大量のGPSログから作られています。無理のないペースで歩いている人だけを抽出し、斜度と歩く速さの関係を式にして地形から時間を出す方式です。

この算出方法は論文として公開されていて、斜度と距離から時間を出す式まで示されています。実際に歩いて測るのではなく、地形のデータから機械的に決まる方式ですね。公式には、著名なガイドブックのコースタイムとよく一致するとされています。

気をつけたいのは、YAMAPが表示する「標準ペース」と地図上のコースタイムが完全には一致しないと公式に注記されている点です。アプリを乗り換えた直後に数字がずれても、故障ではありません。

僕はヤマレコに記録を残しながら歩いていますが、地図の数字とアプリの数字が少し違うのは珍しくありません。計画の段階では、長いほうの数字を採るのが安全側かなと思います。

僕が歩いた4ルートの実測タイム

僕の実測では、歩行だけなら標準の0.73〜0.93倍、休憩を足した総行動時間は標準の1.00〜1.08倍でした。歩くのが速くても、1日の行動時間は結局コースタイムどおりに収まったということです。

北アルプス4ルートの実測タイムを標準コースタイムと比べた一覧図。上高地から穂高岳山荘の小屋泊は歩行0.74倍・0.73倍、重太郎新道から奥穂高岳のテント泊は歩行0.90倍、新穂高温泉から槍ヶ岳山荘の小屋泊は歩行0.93倍で、いずれも休憩を足した総行動時間は標準の1.00〜1.08倍になっている様子を示す
ゴウ
ゴウ

0.7倍で歩けたのに、1日の時間はコースタイムどおりなの?どうして?

休憩と写真の時間が、まるごと外に置かれているからみたいですよ。数字で並べるとけっこう驚きます。

りょう
りょう

以下はすべて、自分の山行記録とヤマレコの記録、当時のブログから拾った数字です。普段は軽い筋トレ程度で、スポーツマンでも体力自慢でもありません。ごく普通の体力で歩いた記録です。

ルート(装備)標準歩行のみ総行動時間
上高地〜穂高岳山荘 2017年8月(小屋泊)8時間30分6時間15分=0.74倍8時間30分=1.00倍
同ルート 2019年7月(小屋泊)8時間30分6時間11分=0.73倍8時間53分=1.05倍
重太郎新道〜奥穂高岳 2021年10月(テント泊)9時間30分8時間31分=0.90倍10時間14分=1.08倍
新穂高温泉〜槍ヶ岳山荘 2018年8月(小屋泊)8時間30分8時間05分=0.93倍※9時間10分=1.08倍

※槍ヶ岳のルートは、通し表示の標準は8時間30分ですが、区間ごとの標準を足すと約8時間40分になります。歩行の0.93倍は区間合計に対する数字、総行動時間の1.08倍は通し表示に対する数字です。

小屋泊0.74倍は2年後も再現した

上高地から穂高岳山荘までを2017年と2019年に歩いて、歩行だけの倍率は0.74と0.73でほぼ同じ値になりました。同じルートを近い条件で歩くなら、一度測った自分の倍率は次の計画の参考値として使えるということです。

2017年8月は登山歴2回目、初めての富士山の1週間後でした。区間ごとの実測はこうなっています。

区間標準実測(歩行)倍率
上高地〜横尾3時間00分2時間05分0.69
横尾〜本谷橋1時間10分50分0.71
本谷橋〜涸沢ヒュッテ2時間00分1時間20分0.67
涸沢〜穂高岳山荘約2時間20分2時間00分0.86
合計8時間30分6時間15分0.74

ところが時計の上では、6時前に歩き始めて山荘に着いたのは14時30分ごろ。休憩や撮影、食事を入れた総行動時間は8時間30分で、標準コースタイムとぴったり同じでした。

2年後の2019年7月にも、同じルートを歩いています。このときはヤマレコの記録が残っていました。

山行6時間11分・休憩2時間42分・合計8時間53分。休憩が総行動時間の3割を占めていました。歩き方はほとんど変わっていないのに、休むほうで時間が積み上がっていたわけです。

歩くのが標準より速くても、休憩の取り方しだいでその日はコースタイムどおりに終わります。ここは意外と盲点ですよね。2回の記録は、僕にとって基準になっている数字です。

テント泊装備の重さで0.9倍に落ちた

同じ北アルプスでも、テント泊装備で重太郎新道を登った日は歩行の倍率が0.90まで落ちました。小屋泊の0.73〜0.74と比べると、はっきりした差です。

2021年10月、上高地から岳沢を経て前穂高岳・奥穂高岳を越え、穂高岳山荘のテント場まで歩いた行程です。距離は短いのに、ひたすら登り続けるルートでした。

ヤマレコの記録では山行8時間31分・休憩1時間43分・合計10時間14分。標準の9時間30分に対して、歩行は0.90倍、総行動時間は1.08倍でした。距離6.8kmに対して、登りは1,889mあります。

要因として考えられるのは2つです。ひとつは荷物の重さ。登山の消費エネルギーは体重とザックの重さの合計に比例するので、テント泊装備では同じ道でも負荷が上がります。

裏を返せば、荷物を削れば負荷が下がり、倍率も戻りやすくなります。僕がUL寄りの装備にしているのは、この関係を体で知ったからです。ただ軽くするのではなく、必要な安全を残したうえでの軽量化。レインウェアやヘッドランプまで削る話ではありません。

もうひとつは、手を使う区間の多さです。重太郎新道は鎖やハシゴが続く道で、足だけで登る道のようには進めません。ヤマレコが表示した歩くペースも0.8〜0.9(速い)で、自分で計算した0.90と一致していました。

怖かったのは到着時刻のほうです。テント場に着いたのは17時04分で、10月上旬の長野の日の入りとほぼ同時刻でした。歩行が標準より速くても、休憩を足すと日没ぎりぎりまで行動することになります。

槍と富士は後半で倍率が反転した

倍率は行程の後半で悪くなることがあります。前半は0.71〜0.81で歩けたのに、最後の区間で1.10に落ちたのが槍ヶ岳の記録でした。

2018年8月、新穂高温泉から槍ヶ岳山荘までの1泊2日です。序盤の区間はどこも標準より速く歩けていました。

区間標準実測(歩行)倍率
新穂高温泉〜穂高平小屋1時間弱55分ほぼ1.0
穂高平小屋〜白出沢出会1時間10分50分0.71
白出沢出会〜滝谷出会1時間20分1時間05分0.81
滝谷出会〜槍平小屋1時間10分50分0.71
槍平小屋〜槍ヶ岳山荘4時間00分4時間25分1.10

最後の4時間は登り一辺倒で、そこだけ標準を超えました。当時のメモにも「運動不足がこたえた」と残しています。序盤の貯金で「今日は速い」と判断すると、終盤で足が出なくなります。

この日は14時40分に山荘へ着きました。ところが食事の提供は14時30分まで。10分間に合わず、頼めたのはおでんだけでした。コースタイムの読み違いは、小屋のサービス時間にも直結します。

富士山の吉田ルートでも同じことが起きています。五合目から七合目は公式のモデルプラン2時間10分に対して約1時間、倍率0.46。ところが七合目から八合目は1時間30分の区間に約2時間かかり、1.33まで反転しました。

七合目から上は岩場の段差が多く、暗くなってヘッドライトを使うことになった区間です。初めての登山だったこともあって、ここが一番つらかったと記憶しています。

もうひとつ、山頂へ向かう道では渋滞もありました。道幅が2人分しかなく、待つ時間が積み上がります。渋滞待ちは標準コースタイムにも自分の歩く力にも紐づかない、まったく別の要素ですよね。

同じコースタイムでも体力度は違う

コースタイムが同じでも、きつさは同じではありません。行程の長さを測るのがコースタイム、大きさを測るのがコース定数と体力度です。両方を見ないと、ルートの実像はつかめません。

合計コースタイムがほぼ同じ涸沢・上高地ルートと前穂高岳・重太郎新道ルートを左右に並べ、距離・累積登り標高差・ルート定数・体力度・技術的難易度がそれぞれ大きく異なることを対比した図
ゴウ
ゴウ

コースタイムが同じなら、同じくらい疲れる山だと思ってた。

僕もそう思っていました。距離と登る高さで、体の減り方がぜんぜん違うみたいですよ。

りょう
りょう

コース定数は、鹿屋体育大学の山本正嘉教授が考案した計算式です。登り・下り・平坦路を歩くときの消費エネルギーを実測して導かれました。

コース定数の計算式

コース定数 = 1.8×標準コースタイム(時間) + 0.3×歩行距離(km) + 10.0×累積登り標高差(km) + 0.6×累積下り標高差(km)

自分で計算しなくても、値を調べる方法があります。信州 山のグレーディングの一覧表は長野県が無償で公開していて、ルートごとの合計コースタイム・ルート長・累積標高差・ルート定数・体力度・技術的難易度がまとまっています。計画の前に体力度を確かめるだけなら、アプリの課金も表計算も要りません。(出典:長野県『信州 山のグレーディング』)

係数を見ると、累積の登り標高差だけが10.0と突出しています。距離が短くても急登が続くルートは、この式で大きな数字になります。登る高さこそが体力を削るという構造が、そのまま式に表れているんですね。

コース定数目安
10前後初心者向き
20前後一般的な登山者向き
30前後日帰り登山で健脚者向き
40以上1泊以上の計画が必要

「健脚向き」という言い方をよく見かけますが、数字にするとコース定数30前後の帯です。信州 山のグレーディングでは体力度4にあたり、燕岳の合戦尾根がルート定数31.9でここに入ります。

コースタイムがほぼ同じルートを2本並べると、差がはっきりします。

ルート合計CT距離累積登りルート定数体力度難易度
涸沢(上高地)11.3時間30.6km1.17km42.05B
前穂高岳(重太郎新道)10.3時間12.5km1.62km39.54D

この差は僕の実感とも合います。上高地から涸沢を経て奥穂高岳へ向かった日は、体力的にはしんどい一方で、難易度そのものは思ったほど高く感じませんでした。逆に重太郎新道から前穂高岳へ登った日は、距離が短いのに本当にしんどかったです。

コースタイムは11.3時間と10.3時間でほぼ同じ。ところが距離は2.4倍違い、技術的な難易度はBとDで2段階離れます。コースタイムという1つの数字では、この差はまったく見えません。

体力度宿泊数の目安
1〜3日帰りが可能
4〜51泊以上が適当
6〜71〜2泊以上が適当
8〜102〜3泊以上が適当

この表には公式の但し書きが付いています。体力度3以下でも、人によっては日帰りが難しい場合がある。体力度4で途中に小屋やテント場が無いルートは、日没までに下山できなくなる恐れがある。

体力度も難易度も、ルート固有の地形だけで決められています。気象条件・残雪・体調・偶発的な要因は含まれていません。数字が低い山でも遭難は起きています。

始めたばかりのうちは、1日の歩行時間4時間以内・標高差600mまでのコースが無難とされています。早めに出発しておけば、この範囲なら多少ペースが崩れても日没までの余裕を確保しやすくなります。

関連記事:登山のためのトレーニング|バテない体力づくりを実践から解説

自分のコースタイム比を測る手順

自分の倍率は、通過時刻をメモして区間ごとに割るだけで出ます。特別な道具は要りません。時計と地図があれば、次の山行から測れます。

登山中に通過時刻をメモして自分のコースタイム比を計算する4ステップの手順図。地点ごとに到着と出発の時刻を記録し、区間の歩行時間を標準コースタイムで割って倍率を出す流れを示す

測り方は大きく3系統あります。自分で記録する方法と、アプリに計算させる方法です。

方法測るもの必要なもの出てくる数値
区間タイムを自分で記録区間の実測 ÷ 標準コースタイム時計と地図0.7倍・1.1倍などの倍率
ヤマレコの「歩くペース」GPSログと標準コースタイムの比ヤマレコでGPSログを記録して登録1.0が標準(小さいほど速い)
YAMAPの「歩行ペース表示」YAMAP独自の標準ペースとの比YAMAPプレミアム100%が標準(大きいほど速い)

ここで気をつけたいのが数値の向きです。ヤマレコは数字が小さいほど速く、YAMAPは大きいほど速い。同じ山行でも、表示のされ方が逆になります。

通過時刻を記録して区間ごと割る

自分で測るときは、地図に区間の区切りとして載っている地点の通過時刻を残します。到着時刻と出発時刻の両方をメモするのがポイントです。

  • 出発時刻と、山小屋・分岐・沢の出合など区切り地点の通過時刻を、通るたびにメモする
  • 各地点で到着時刻と出発時刻の両方を残す(休憩を切り分けるため)
  • 下山後に「区間の歩行時間 ÷ その区間の標準コースタイム」を計算する
  • 全区間を合計して「歩行の合計 ÷ 標準コースタイムの合計」を出す。これがそのルートでの自分の倍率
  • 別に「総行動時間 ÷ 標準コースタイムの合計」も出す。2つの差が休憩の重み

歩行時間と総行動時間を分けて記録するのが要点です。コースタイムは休憩を含まないので、休憩込みの数字と比べると自分の歩く力を低く見積もってしまいます。

アプリに任せる場合、ヤマレコの「歩くペース」には表示条件があります。記録が非公開でないこと、手書きではなくGPSログであること、時刻が正常に記録されていること、ペースが極端でないこと。

2024年3月以前にリリースされた古いアプリでは表示されません。GWやお盆など記録が集中する時期は、計算されるまで時間がかかることもあります。翌朝まで待つのが公式の案内です。

測った倍率の使い方も決めておきましょう。安定して1.0を下回るなら、標準コースタイムに休憩を足した計画で足ります。1.2〜1.5に張り付くなら、1.5倍で組むほうが安全です。

標準の2倍かかる場合は、その山が今の自分に合っていない可能性を示す資料として扱います。逆に標準の半分で着くようなペースは速すぎで、次の区間で疲れが出ます。速すぎず遅すぎず、ちょうどいい速さを探す作業。そう考えてもらえるといいですね。

同じ人でも倍率は一定になりません。荷物の重さ、天候、パーティの人数、行程の前半か後半か、渋滞、残雪やぬかるみ。僕の記録でも、区間ごとに見れば0.67から1.33まで動いています。

1時間に標高差300m登れるか

体力の側から測る方法もあります。1時間あたりに何m登れるかで、自分が耐えられるきつさが分かります。長野県山岳総合センターが公開している、マイペース登高能力テストです。(出典:長野県山岳総合センター『「マイペース登高能力テスト」について』)

やり方は単純です。単調な登りが500m以上続くルートを、マイペースで登る。かかった時間から1時間あたりの登高標高差を計算する。ここでいうマイペースとは、息がはずまず話しながら登れる速さのことです。

1時間あたりの登高標高差メッツ体力面の評価
500m以上8メッツ台グレーディングのどのルートでも体力的リスクは少ない
400m以上7メッツ台難易度A・Bは体力的リスクが少ない。C・D・Eはもう少し体力を付けてから
300m以上6メッツ台A・Bでも少し体力的リスクがある。標準より時間をかければリスクを下げられる
300m未満6メッツ未満A・Bでも体力不足でリスクが大きい。標準の1.5倍程度の時間をかける

「1時間に標高差300m」は、一般的な歩行ペースの目安としてもよく登場します。ただし判定表を見ると、余裕のある水準ではありません。標準コースタイムどおりに歩き続けるなら、400m/hの余力があると安心という読み方になります。

YAMAPの標準コースタイムモデルも、最大登高速度350m/hを上限に設計されています。標準の数字そのものが、無理のない負荷で組まれているわけです。

このテストの良いところは、山行の前に測れることですね。コースタイム比は歩いてみないと出ませんが、こちらは近所の里山でも確かめられます。他人と比べる数字ではなく、自分の変化を追うための数字です。

評価の前提は、体重の10%程度の荷物で歩く場合。1時間程度ならもっと速いペースで登れてしまうので、それではチェックになりません。毎回同じペースで登ることが条件です。

関連記事:登山のペース配分|初心者がバテない歩き方を実測タイムで解説

倍率と休憩を足して行動時間を決める

計画に落とすときの式はシンプルです。行動時間 = 標準コースタイム × 自分の倍率 + 休憩 + 寄り道。この合計が日没までに収まるかを確かめます。

日没時刻から逆算して登山の下山目標時刻とマージンタイムを求める計算手順の図。行動可能時間に75%を掛けて行動予定時間を出し、下山目標時刻と日没までの余裕時間を導く流れを示す

倍率だけで組むと、たいてい足りなくなります。僕の記録がまさにそうで、歩行は標準より速いのに総行動時間は標準と同じか少し超えていました。足りない分は、ほぼ休憩と寄り道です。

順番としては、先に下山の目標時刻を決めるほうが安全です。出発時刻から積み上げていくと、遅れがそのまま日没に食い込みますよね。

休憩は1時間に5〜10分を別枠で足す

休憩は倍率とは別に足します。目安は1時間に1回、小休止5〜10分。歩き始めて20〜30分以内に1回目を入れるのが一般的です。

休憩の種類長さの目安
立ち休憩2〜3分
小休止5〜10分
大休止(昼食など)30分程度

標準コースタイム8時間の行程で計算してみます。1時間ごとに小休止5〜10分なら40〜80分、これに昼食の30分を足すと1時間10分〜1時間50分の上乗せです。

つまり8時間のコースは、実際には9時間以上の行程として考えることになります。ここを見落とすと、下山が日没後にずれ込むおそれがあります。

公式のモデルプランも同じ考え方です。富士登山オフィシャルサイトのモデルプランには「1時間ごとに10分休憩を含む。食事は30分」という注記があります。休憩を別枠で足しているわけですね。

実測でも、休憩は総行動時間の1〜3割を占めていました。槍ヶ岳の登りで12%、重太郎新道で17%、上高地から穂高岳山荘までで30%。山頂でゆっくりした日は、もっと増えます。

見落としやすいのが寄り道です。パノラマコースで涸沢から上高地へ下ったとき、屏風岩の三角点まで往復して1時間10分を使いました。休憩40分と合わせた1時間50分は、標準コースタイムには一切入っていません。

歩くだけなら0.81倍で下れています。それでも標準5時間50分のコースに6時間32分かかった主因は、この上乗せ分でした。寄り道・渋滞・小屋の営業時間はすべて別枠だと考えておくと、計画がぶれません。

下山目標は日没の2時間前に置く

下山の目標時刻は、遅くとも日没の2時間前に置きます。山小屋泊なら、午後3時前の到着が原則とされています。

日没から逆算する手順は次のとおりです。

  • 登山開始時刻を決める(登山口到着の10〜20分後)
  • その日の下山地点の日没時刻を調べる(国立天文台の暦計算室など)
  • 行動可能時間=日没時刻−登山開始時刻
  • 行動予定時間=行動可能時間×75%(マージンを25%取る)
  • 下山目標時刻=登山開始時刻+行動予定時間
  • マージンタイム=日没時刻−下山目標時刻

山梨県の滝子山で計算した実例があります。開始8時07分・日没17時09分なら、行動可能時間は9時間02分。行動予定時間は6時間47分で、下山目標は14時54分、マージンは2時間15分になります。開始が遅い日は25%のマージンが2時間を切ることもあるので、この計算結果と「日没の2時間前」のうち早いほうを下山目標にしてください。

この計算をすると、選べるコースが自然に絞られます。標準コースタイムに倍率と休憩を足した数字が行動予定時間を超えるなら、そのコースはその日には向いていないということですね。

季節も効きます。日の入りは6月中旬と10月中旬で約2時間違います。(出典:国立天文台 暦計算室『日の出・日の入り』)

日付東京の日の入り長野の日の入り
6月15日18:5819:03
8月15日18:3118:36
10月15日17:0617:11

同じコースでも、10月は6月より2時間早く出発するか、行動時間を2時間短くしないと同じ余裕は取れません。しかも日の入りは太陽の上辺が地平線に一致する時刻で、谷筋や樹林帯では実際にはもっと早く暗くなります。

僕自身、テント泊の日にテント場へ着いたのが17時04分でした。歩行の倍率は0.90と悪くなかったのに、休憩を足したら日没と同着です。余裕は歩く速さではなく、出発時刻と行程の長さで作るものだと痛感しました。

暗い中の行動は、視界が落ちるぶん道迷いや転倒に気をつけたい時間帯です。時間帯別の内訳は公表されていませんが、令和7年の山岳遭難を態様別に見ると、道迷いが30.9%と最多、次いで転倒19.2%、滑落17.3%でした。暗さが効きやすい態様が、そのまま上位に並んでいます。(出典:警察庁『令和7年における山岳遭難の概況等』)

単独での行動は、さらに慎重にしたいところです。単独登山の遭難者に占める死者・行方不明者の割合は15.3%で、複数人の5.5%を9.8ポイント上回っています。警察庁も遭難防止対策として、登山計画書の提出と家族・職場との共有を挙げています。予定より遅れたときに、誰かが気づける状態にしておくための備えですね。

ヘッドランプは日帰りでも必ず入れておきたい装備です。奥多摩駅前の聞き取りでは、携帯している人は半数に満たなかったという報告もあります。

行動時間の見積もりと装備は、セットで考えるものです。時間に余裕がなくなった日ほど、明かりと防寒が効いてきますよね。

登山のコースタイム目安についてよくある質問

下りもコースタイムの倍率は同じですか?

下りは分けて考えるほうが安全です。無理のないペースの目安は登りが1時間に標高差300m、下りが400mとされていて、登りと同じ倍率で歩けるとは限りません。僕が涸沢からパノラマコース経由で上高地へ下ったときは、歩行だけなら0.81倍でした。それでも寄り道と休憩を足すと、標準5時間50分のコースに6時間32分かかっています。下りは疲れが出ている時間帯でもあるので、時間は多めに見ておくと安心ですよ。

ソロで歩くときも、パーティと同じ倍率でいいですか?

山と高原地図の運営元は、ソロ登山に0.9倍、悪天候時に1.2倍という補正を示しています。標準が2〜5名のパーティ想定で、待ち合わせの時間が減るためです。ただし単独は万一のときのリスクが上がるので、時間の余裕はむしろ多めに取るほうが安心かなと思います。

残雪期や雪の残る時期も、コースタイムどおりで大丈夫ですか?

前提から外れるので、そのままでは使えません。山と高原地図も信州 山のグレーディングも、無雪期・天気良好時の条件で作られています。僕もGWに上高地から涸沢へ入ったとき、チェーンスパイクを使っても緩んだ雪で思うように進めませんでした。雪のある時期は、時間も装備も別に考えてください。

体力が足りないコースでも、ゆっくり歩けば大丈夫ですか?

ゆっくり登るのは公式に挙げられている対処のひとつですが、それだけでは足りません。挙げられているのは、標準よりゆっくり登る・不要な荷物を減らして軽量化する・悪天候の日は登らない、の3つです。ただしゆっくり登ると、明るいうちに下山できない、山小屋に着けないという別のリスクが出てきます。悪天候を避ける話ともぶつかるので、ゆっくり歩く分だけ出発を早めるか、行程そのものを短くしてください。

渋滞や寄り道はどれくらい見ておけばいいですか?

決まった目安はないので、行程に合わせて別枠で積むしかありません。僕の場合、屏風岩の三角点まで往復しただけで1時間10分を使いました。富士山の吉田ルートでは山頂へ向かう道の幅が2人分しかなく、渋滞の待ち時間がそのまま積み上がります。どちらも標準コースタイムには入っていない時間です。人気の山や連休に歩くなら、この分を見込んだうえで下山目標時刻を決めておくと安心ですよ。

登山のコースタイム目安と自分の倍率まとめ

ゴウ
ゴウ

結局、最初はどうやって時間を見ればいいの?

まずは標準の1.2〜1.5倍に休憩を足して、1回歩いたら自分の倍率に置き換える。この順番が、僕にはいちばん確実でした。

りょう
りょう

コースタイムは、歩き続けた場合の時間です。自分の倍率と休憩を足して、はじめて1日の行動時間になります。要点をまとめておきます。

登山のコースタイムの考え方をまとめた図。コースタイムは休憩を含まない歩行だけの時間であること、初心者は1.2〜1.5倍で計画すること、自分の実測倍率を通過時刻の記録から出すこと、倍率と休憩を足して行動時間を決め日没の2時間前を下山目標にすることの4つの要点を俯瞰する
  • コースタイムは40〜60歳の経験者が2〜5名で歩く時間で、休憩は含まない
  • 初心者は標準の1.2〜1.5倍で歩行時間を見積もり、休憩は別枠で足す
  • 僕の実測では歩行0.73〜0.93倍でも、総行動時間は標準の1.00〜1.08倍になった
  • 装備が重いほど、行程の後半ほど倍率は悪くなりやすい(0.73→0.90、0.71→1.10)
  • 自分の倍率は通過時刻をメモして区間ごとに割れば出る。到着と出発の両方を残す
  • コース定数と体力度を見ると、同じコースタイムでもきつさの違いが分かる
  • 下山目標は日没の2時間前。寄り道・渋滞・小屋の営業時間は別枠で考える

コースタイムも日没時刻も変わります。計画の前に、地図やアプリ・山小屋の公式サイトで最新の情報をご確認ください。体力や持病に不安がある場合は、専門家にご相談のうえで無理のない計画を立ててくださいね。

数字はあくまで目安です。迷ったときは、引き返す判断のほうがいつでも正解に近いかなと思います。

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