こんにちは、YAMA-GO編集部のりょうです。関西を拠点に、北アルプスを中心にULスタイルで山を楽しんでいます。このブログ「YAMA-GO」では、実際に使ったギアのレビューや選び方、山のノウハウなんかを発信しています。
登り始めは元気だったのに、後半でぱったり足が止まる。同行者の背中がどんどん遠くなって焦る。山ではよくある失速ですよね。原因の多くは体力より、歩き出しの速さと休憩の取り方にあります。
僕自身、槍ヶ岳で前半を標準より2割ほど速く飛ばして、最後の登りで失速しました。この記事では初心者がバテずに歩き切るためのペースの型を、そのときの区間タイムを開きながら説明します。
- 序盤30分・会話が続く強度・50分歩いて10分という3つの型
- 僕が槍ヶ岳で前半0.8倍から最終区間1.10倍へ失速した実測タイム
- 心拍計がなくても速すぎに気づける3つのサインと確かめる順番
- 荷物・下り・グループなど、ペースだけでは取り返せない場面の対処
登山のペース配分は基準と型3つで決める
登山のペース配分は、最初の30分はゆっくり・会話が続く強度・50分歩いて10分の休憩の3つで決まります。難しい計算は要りません。この3つを守るだけで、後半の失速はかなり減らせます。

ペース配分って、時計とにらめっこしながら歩くってこと?なんだか難しそう…
いえいえ、覚えるのは3つだけですよ。しかも2つは道具なしで、歩きながら確かめられます。
3つに分けるのは、使うタイミングが違うからです。序盤の入り方は歩き出しの30分だけ。強度は行動中ずっと。休憩は区切りごと。出番が別々なので、まとめて覚えると混乱します。
| 型 | いつ使うか | 判断のしかた |
|---|---|---|
| 序盤はゆっくり | 歩き出しの30分 | 「物足りない」と感じる速さ |
| 会話が続く強度 | 行動中ずっと | 文章で話せるかどうか |
| 50分歩いて10分 | 1時間ごと | 時計と、休憩の中身 |
型を守るのは我慢ではなく、後半に余力を残すための投資です。
細かい数字は、この後の小見出しで一つずつ見ていきます。まずは自分の速さを何で測るのか、その物差しから。
自分の基準はコースタイム比で決める
自分のペースを測る物差しは、区間ごとのコースタイム比がいちばん使いやすいです。標準の時間に対して何倍かかったかを見るだけ。地図と時計があれば足ります。
運動生理の世界では、1時間に稼ぐ標高差でペースを見ます。ただ、歩きながら自分が何m/hで登っているかを測るのは難しいですよね。現場ではコースタイム比、下山後に登高速度、という使い分けになります。
| 物差し | 必要なもの | 使うタイミング |
|---|---|---|
| 会話・汗・息 | なし | 歩きながら常時 |
| コースタイム比 | 地図・時計 | 区間の切れ目ごと |
| 登高速度(標高差/時間) | 地図・アプリ | 下山後の振り返り |
登高速度の目安は、資料によって評価が割れます。技術解説では350〜400m/hを「慣れれば疲れずに歩けるペース」とします。一方、運動生理学の側から見ると400m/hは約7メッツで安全圏外。安全圏は300m/h前後、約6メッツとされています。
初心者は低いほう、つまり登り300m/h前後を基準に取るのが安全側です。日帰りの短い行動と、何時間も続く行動では、耐えられる強度が変わるからですね。
やっかいなのは、速いことに自分では気づけない点です。中高年の一般登山者の92%が400m/h以上で歩いていた、という調査もあります。自分の感覚に任せていると、無意識のうちに安全圏の外へ出てしまうということですね。
僕も2021年に前穂高岳を歩いたとき、ヤマレコの歩くペース表示は0.8〜0.9の「速い」でした。当時は褒められている気がしていましたが、あれは速すぎのサインでもあったなと今は思います。
コースタイム比なら、平坦な道でも下りでも同じ物差しが使えます。登高速度は登りにしか使えないので、区間の性格で持ち替えてください。
最初の30分はゆっくり入る
歩き出しの30分は、「物足りない」と感じる速さでちょうどいいです。体が温まるまではウォーミングアップの時間だと考えてください。
点検のタイミングは、歩き出して20分ごろ。ここで汗が流れるほどかいていればオーバーペースです。軽く汗ばむ程度なら適正。息がはずんできたら速度を2/3に落とし、それでもはずむならもう一度2/3に落とします。
序盤で速くなる理由は、だいたい決まっています。テンションが上がっている、街と同じ速度で歩いてしまう、後ろから来た人に抜かれて焦る。どれも気合いでは直らないので、最初から遅く入るしかありません。
山道の適正な水平速度は、平地の1/4から1/2ほど。普通の山道なら、流れていく景色が半分の半分の速さになります。体感ではかなりのろいのですが、それで合っています。
速さと同じくらい、足の運び方も効きます。省エネで歩く原則はこの4つです。
- 足裏全体で着地する(フラットフッティング)
- 歩幅は小さく保つ
- 後ろ足で蹴らない
- 腕の振りは最小限にする
ピッチは1分間に60〜80歩が無理のない範囲とされます。段差を上がるときは、一段20cmくらいの足場を選んで前足に重心を乗せてください。腰が引けた後ろ足荷重は、膝を痛める原因になりますよ。
強度は会話が続く範囲に固定する
行動中ずっと使える物差しが会話です。文章で話せれば適正、単語しか出てこないなら速すぎ。判断はこれ一本で足ります。
感覚の尺度で言うと、きつさを感じる手前が主観強度12、ややきついが13。実験では13以上で乳酸がたまり始めるという結果が出ています。登りは11〜13の範囲に収めるのが目安です。
もっと厳しい基準もあります。「声に出して歌える程度」という説で、軽く汗ばむペースよりさらに1〜2割遅い速さ。行動が長い日は、こちらに寄せたほうが最後まで持ちます。
ひとりで歩くときは会話が使えませんよね。代わりに、鼻歌や独り言が途切れずに続くかを見ます。20秒ほどしゃべって少し息が切れるくらいが、限界の手前の目安とされています。
関連記事:登山のためのトレーニング|バテない体力づくりを実践から解説
休憩は50分歩いて10分が基本
休憩の型は、歩き始め20〜30分で1回目、その後は50分歩いて10分です。複数の資料で2回目以降はほぼ一致していて、割れているのは1回目を20分にするか30分にするかだけ。
1回目は休むというより、点検の時間です。やることを決めておくと短く切り上げられます。
- 靴ひもの締め直し
- ザックのショルダー・ウエストベルトの調整
- 服の脱ぎ着(歩き始めは寒くても20分で暑くなる)
- 汗の出方と息のはずみ方の点検
- 水分とエネルギーの1回目の補給
休憩には種類があります。立ち休憩が2〜3分、小休止が5〜10分、大休止が30分ほど。型で言う10分は小休止にあたるので、昼食の大休止は別枠と考えると計画が立てやすいです。
速く歩いて30分ごとに休むより、ゆっくり会話しながら歩いて50分ごとに休むほうが疲れにくい。ウサギとカメにたとえた説明が知られていますが、実感としてもそのとおりだなと思います。
暑い時期は型より休憩を増やし、水分を頻繁に取ってください。この型は好天・適温を前提にした目安です。
僕が槍ヶ岳で失速した実測タイム

2018年8月、槍ヶ岳の新穂高温泉ルートで、僕は前半を標準の約0.8倍(速い区間は0.71倍)で飛ばし、最後の登りで1.10倍まで落ちました。稼いだ時間を最終区間で吐き出した、典型的な失速です。
標準コースタイムは合計8時間30分。結果は9時間ちょっとでした。同行者3名のうち1人は登山が初めてでしたが、無事に登り切っています。
| 区間 | 標準 | 実測 | コースタイム比 |
|---|---|---|---|
| 新穂高温泉 5:30発 → 穂高平小屋 6:25 | 1時間弱 | 55分 | 約1.0 |
| 穂高平小屋 → 白出沢出合 7:20 | 1時間10分 | 50分 | 約0.71 |
| 白出沢出合 → 滝谷出合 8:25 | 1時間20分 | 65分 | 約0.81 |
| 滝谷出合 → 槍平小屋 9:35 | 1時間10分 | 50分 | 約0.71 |
| 槍平小屋 → 槍ヶ岳山荘 14:40 | 4時間 | 4時間25分 | 約1.10 |
数字だけ見れば前半は快調です。歩いていて苦しくもありませんでした。問題は、その快調さが体力ではなく「まだ疲れていないこと」だった点にあります。
前半4区間はならして0.8倍で飛ばした
0.8倍は、標準の8割の時間で歩いたという意味です(所要時間が2割短い)。前半4区間のうち、歩き出しの1区間はほぼ標準どおりでした。速かった3区間は0.71〜0.81倍で、ならすと約0.8倍です。標準コースタイムは休憩を含まない多数派の行動時間なので、そこを2〜3割短い時間で歩けば、はっきりしたオーバーペースになります。
ただ、登高速度で見ると印象が変わります。白出沢から滝谷は標高差200mを65分で約185m/h。滝谷から槍平は標高差250mを50分で約300m/hでした。標準より速く歩いても、安全圏の範囲には収まっています。
つまり、傾斜が緩い区間は速く歩いてもm/hが伸びません。逆に森林限界を越えた急登では、同じ体感でm/hが跳ね上がります。同じ「速い」でも、区間によって体への負担はまるで違うということですね。
休憩の取り方も型から外れていました。穂高平で5分、滝谷で撮影に20分、槍平で40分。行動9時間強のうち休憩は合計65分で、回数が少なく1回が長い形です。
槍平で40分も休んだのは、しっかり食事をするつもりだったから。実際にはカップ麺しか提供されておらず、当てが外れました。休憩の中身を現地任せにすると、こうして時間だけが延びます。
当時の僕の記録には「運動不足がこたえた」と書いてあります。序盤で速く入れたのは体力があったからではなく、単にまだ疲れていなかったからでした。
最終区間だけ1.10倍に失速した
槍平小屋から槍ヶ岳山荘は、標準4時間に対して4時間25分。前半で稼いだ約55分のうち、25分をここで吐き出しました。区間としては最も長く、最も急な場所です。
山荘に着いたのは14:40。食事の提供は14:30までで、10分間に合わず注文できたのはおでんだけでした。冷えた体には十分ありがたかったのですが、笑い話にするには惜しい10分です。
ペース配分は速く着くための技術ではなく、予定した時刻に着くための技術です。
この日は出発30分の地点で、穂高平夏道というショートカットにも入りました。入口が分かりにくいうえに時短にならず、道も険しい。序盤で体力を使う選択をしないのも、ペース配分の一部だと思っています。
前年の奥穂高岳でも、似た歩き方をしていました。当時の僕の総括は「誰にも抜かれないペースで6時間歩いて涸沢あたりまでだった」。オーバーペースの自覚がまるでない言い方ですよね。
速すぎるサインは道具なしで3つ順に確かめる
速すぎのサインは、会話・汗・息の3つを順に確かめるだけで分かります。心拍計もアプリも要りません。

心拍計を持ってないと、ちゃんと管理できないと思ってた!
最初の3つは体ひとつで確かめられますよ。数字の道具は、その次の話かなと思います。
| 順 | 見るもの | 判定のしかた |
|---|---|---|
| 1 | 会話 | 文章で話せる=適正/単語しか出ない=速すぎ |
| 2 | 汗 | 歩き出し20分で流れるほど=速すぎ/軽く汗ばむ=適正 |
| 3 | 息 | はずんだら速度を2/3に落とす |
| 4 | 主観のきつさ | きつさを感じる手前(11〜13)に収める |
| 5 | 心拍数 | 計算式は割れるので幅で見る |
| 6 | コースタイム比 | 区間の切れ目ごとに確認する |
上の3つは歩きながら常時使えます。4以降は休憩中か、下山後の振り返り。現場で使える順に並べておくと、判断に迷いません。
気づかないうちに速くなるのは、誰にでも起きます。山岳遭難のうち疲労を原因とするものは、令和2年の170人から令和7年の356人へ増えました。全体に占める割合も6.3%から9.8%へ上がっています。(出典:警察庁『令和7年における山岳遭難の概況等』)
同じ期間に、道迷いの割合は下がりました。地図アプリの普及で説明されることが多い変化です。道は道具が教えてくれても、ペースは誰も管理してくれないということかなと思います。
富士山でも同じ傾向が出ています。静岡県側の開山期の遭難は、疲労によるものが2021年夏の2件から2022年夏の22件へ増えました。準備不足と長時間の無理が重なった結果だと、注意喚起の資料は説明しています。(出典:富士山における適正利用推進協議会『準備不足による疲労遭難者、増えています!』)
心拍数の目安は式より自分の実測値
心拍数を使うなら、計算式は入口、自分の適正はきつさを感じる手前で測った実測値という順番がおすすめです。式の値は、出典によってかなり割れます。
| 考え方 | 式 | 40歳の値 |
|---|---|---|
| 最大心拍数の75% | (220−年齢)×0.75 | 135拍/分 |
| 山岳ガイドの解説 | (208−年齢×0.7)×0.75 | 135拍/分 |
| 体力に自信がなければ低めに | 180−年齢 | 140拍/分 |
| ある山岳会の基準ペース | (220−年齢)×0.80 | 144拍/分 |
| カルボーネン法による推定 | {(220−年齢)−安静時}×0.5+安静時 | 120拍/分 |
40歳なら120〜144拍/分と、20拍以上の開きが出ます。どれが正しいという話ではなく、年齢だけでは決められないということですね。
実際、同じ60歳でも最大心拍が130の人から190の人までいるとされます。だから、きつさを感じる手前で歩いたときの心拍を一度測っておく。その数字が、自分にとっての目安になります。
計測は、首の動脈で6秒間の脈を数えて10倍するだけでもできます。数値はあくまで目安なので、持病や体調に不安がある方は事前に医師へご相談ください。
息が上がったら呼吸は吐くのが先
息が上がったときは、吸うより先に吐き切るのが正解です。苦しいとつい吸おうとしますが、順番が逆になっています。
- 立ち止まらず、歩幅を狭めて速度を落とす
- 力を抜いて、大きく吐き切る
- 口をすぼめて「フーフー」と吐きながら歩く
- 腹式呼吸に切り替え、横隔膜を大きく動かす
- それでも整わなければ立ち休憩を2〜3分取る
大きく吐くと、肺に残っていた空気を出せます。その分だけ次に吸える量が2割ほど増えるとされます。口をすぼめて吐く方法も、一度に取り込める酸素量を増やす狙いです。
腹式呼吸は体幹の安定にも効きます。重いザックを背負っているときほど、違いを感じやすいかなと思います。
休憩が延びると所要時間は1.5倍
休憩が延びると、同じ行程でも所要時間は1.5倍近くまで膨らみます。ゆっくり歩いて休憩を短くするほうが、速く歩いて長く休むより早く着きます。

正味110分の登りを、休憩のパターン別に試算した表があります。
| 歩行+休憩 | 所要時間 |
|---|---|
| 55分+5分 | 120分(2時間) |
| 50分+10分 | 132分(2時間12分) |
| 25分+10分 | 154分(2時間34分) |
| 25分+15分 | 176分(2時間56分) |
一番上と一番下で、約1.5倍の差です。しかも休憩が多いほうが疲れないかというと、そうでもありません。同じ資料は「上昇速度を10%落とすだけでも極めて楽になる」としています。
休憩が延びるのには理由があります。腰を下ろすとまずほっとして、10分ほどしてから水や菓子を出し、地図を見始める。気づけば15分たっている、という流れですね。
だから、休む前に「この休憩で何をするか」を決めておきます。水を飲む、行動食を口に入れる、次の区間の時間を確認する。それだけで10分に収まります。
補給の頻度も、この型に重ねられます。水分は30分から1時間に1回、エネルギーは1〜2時間に1回。休憩のたびに水分、2回に1回はエネルギーも、という運用ですね。喉が渇いてから、お腹が空いてから取るのでは遅いのです。
エネルギー切れは戻すのに時間がかかる
急に力が入らない、足がもつれるといった症状が出たら、その場に座って補給し15〜20分待ちます。糖質を入れても30分から1時間は動けないとされるので、お腹が空く前に少しずつ取るのが前提です。改善しない場合は別の原因も考えられるため、引き返す判断に切り替えてください。
1日の時間設計も、ペース配分の一部です。下山は遅くとも日没の2時間前、山小屋泊なら午後3時前の到着が原則。標準コースタイムに休憩は入っていないので、コースタイム6時間の山は実質7時間前後の行動になります。
初心者のうちは、1日の歩行時間4時間以内・標高差600mまでのコースが無難とされます。時間に追われない行程を選ぶことが、結局いちばん確実なペース配分ですよ。
荷物が重い日はペースでは取り返せない
荷物が重い日は、ペースを落としても取り返せない部分が残ります。荷物1kgは体重1kgと同じ重みでエネルギー消費に効くからです。
そもそもバテは1種類ではありません。原因を分けると、打つ手も変わります。
| バテの種類 | 主な原因 | ペースを落とすと効くか |
|---|---|---|
| 強度が高すぎるバテ | きつい強度で歩き続けた | 直接効く |
| エネルギー切れ | 糖質の不足 | 効くが、補給の型も要る |
| 脱水によるバテ | 水分の不足 | 効くが、こまめな補給が要る |
| 下りの筋のダメージ | 筋が伸ばされながら力を出す | 歩幅と着地の問題 |
行動中の消費エネルギーは「コース定数×(体重+ザック重量)」で見積もれます。コース定数30のコースなら、荷物10kgで約300kcalの上乗せ。体重60kgの人が10kgを背負うと合計2,100kcal、という計算例が示されています。
つまり、ペースを落とすことと荷物を減らすことは同じ方向の対処です。体力が足りないルートへの公式な対処も、標準より遅く登る・不要な荷物を減らす・悪天候では登らない、の3つでした。
背負える重さの個人差は、思った以上に大きいです。高校生の山岳部員に聞いた調査では、余裕を持てるのは5kg以下と答えた生徒から、20kg以上と答えた生徒までいました。同じ学年・同じ性別でも3〜4倍の幅があります。
だから、他人の荷物を基準にしないほうがいいですね。「みんなこれくらい背負っている」は、自分に当てはまらないことのほうが多いです。
僕はULスタイルで歩いていますが、軽ければ正義とは思っていません。必要な安全装備は残したうえで、見直せるものから減らす考え方です。水は1Lで約1kgあるので、給水できる場所を調べて持つ量を決めるのが効きます。
槍ヶ岳のときも、途中で汲める前提にして水は1.5Lにしました。2L担ぐと、それだけで疲れる原因になります。ただし汗を多くかく時期は脱水量も増えるので、減らしすぎはかえって危険です。
下りはペースより一歩の大きさで決まる
下りは速さより、一歩の大きさと着地の仕方で決まります。歩幅を狭め、重心を一定の速度で落とし続けるのが基本です。

膝を痛める主因は着地衝撃です。力にすると、こんな目安になります。
| 状況 | 膝にかかる力 |
|---|---|
| 0.5mの段差を飛び降り、0.1秒で受け止める | 体重の約4倍 |
| 階段(段差0.2m)を降りる | 体重の約3倍 |
公園で数回飛び降りる程度なら問題になりません。山では同じ衝撃を千回から数千回繰り返すので、蓄積がまるで違います。「脚がガクガクになる」のは、この積み重ねの結果です。
下りではバランス能力そのものも落ちます。閉眼片足立ちの実験では、平らな地面でほぼ全員が2分以上立てるのに、高度2,000m相当の下り坂ではその3割以下でした。疲れた下りで転ぶのは、注意力だけの問題ではありません。
遭難の内訳も、それを裏づけています。令和7年は転倒19.2%・滑落17.3%・転落2.2%で、足元のトラブルが合わせて約39%。最多の道迷い30.9%より多い割合です。
- 飛び降りない。やむを得ないときは膝と足首を柔らかく使う
- 歩幅を広げすぎない。惰性のついた前のめりの着地を避ける
- 後傾(へっぴり腰)にならない。前傾なら足は後ろに滑る
- 段差ごとに止まらず、重心を一定の速度で落とし続ける
- トレッキングポールで衝撃を分散する
ポールは万能ではありません。膝の負荷をどれだけ減らせるのか、数値的な裏づけはまだ研究途上とされています。長さを合わせずに使うと逆に疲れるので、登りは短め・下りはやや長めに調整してください。
僕が槍ヶ岳を下ったときは、終日雨のなかで6時間45分かかりました。うち休憩85分、正味の歩行は5時間20分。登りの9時間強より短いだけで、楽だったわけではありません。
初めての富士登山では、下りでトレッキングポールを持っていませんでした。砂利の坂を自分の足だけでブレーキをかけ続けた結果、両足に5箇所の水ぶくれ。歩幅を狭めてポールに衝撃を分けていれば、あそこまでにはならなかったかなと思います。
下りで膝が痛くなる仕組みと、一歩の大きさ・着地・ポールでの減らし方は下記でさらに詳しく解説しています。
関連記事:下山で膝が痛い原因と対策
関連記事:登山の筋肉痛を防ぐ予防と回復法
ペースが合わないグループは配置で直す
グループでペースが合わないのは、体力差だけの問題ではありません。隊列とペース設定の設計ミスなので、並び順とペースの決め方で直せます。

| 位置 | 誰が入るか | 役割 |
|---|---|---|
| 先頭 | 最も経験のある人 | 最も経験のない人に合わせてペースを作る |
| 2番目 | 最も体力・経験のない人 | 先頭のペースをそのまま受け取る |
| 最後尾 | 2番目に経験のある人 | 全体の様子を見て、遅れに気づく |
原則は、ペースを一番遅い人に合わせること。その日の調子が悪い人がいれば、その人が基準です。最初の10〜15分で速さを調整し、全員が無理なく進めるか確認しておくと、後で崩れません。
置いていかれる側にも、できることがあります。遠慮して黙って耐えるのが、いちばん危ないやり方です。
- ペースを合わせようと無理をしない。無理は結局グループ全体を遅らせる
- 遅れても焦らない。声が届く距離なら伝え、無理なら合流したときに「速い」と伝える
- 1人でぽつんと歩かない。歩調の合う人と一緒に行動する
- 荷物を軽くする。ペースを落とすのと同じ方向に効く
- 先頭のすぐ後ろに入る。遠慮ではなく、それが正しい配置
隊列を離れるときは、必ず声をかけます。1人になった状態が事故につながるからです。遭難の統計でも、単独の遭難は複数人より死者・行方不明者の割合が高くなっています。
槍ヶ岳へ行ったときは、同行者3名のうち1人が登山初めてでした。それでも問題なく登り切っています。初心者だからといって行かないのは、すごくもったいないというのが、そのときの実感です。
とはいえ、どうしてもペースを合わせられない組み合わせもあります。そのときは人に合わせるのではなく、コースのほうを易しくする。そのほうが、みんなで楽しく帰ってこられますよ。
登山のペース配分についてよくある質問
標準コースタイムより速いのは、どこからが問題ですか?
目安として、標準の半分で着くようなペースは速すぎです。次の区間で疲労を招くとされています。逆に標準の2倍かかるなら、その山が今の体力に合っていない可能性があります。僕の槍ヶ岳は前半でならして0.8倍。極端に速いわけではありませんでしたが、それでも最終区間で失速しました。1日の平均ではなく、区間ごとに見るのがコツですよ。
ペース管理のために、アプリや心拍計は買ったほうがいいですか?
歩きながら数値を見たいかどうかで決めてください。YAMAPの場合、歩行ペース表示や到着時刻予測は有料プランの機能ですが、無料でもログは残せます。下山後に区間タイムを標準と突き合わせる使い方なら、課金しなくても足ります。心拍計付きの時計は、会話テストが使えないソロで価値が上がります。料金は改定されるので、契約前に公式サイトでご確認ください。
自分に合ったペースで登れる山かどうか、事前に分かりますか?
マイペース登高能力テストという自己診断があります。単調な登りが500m以上続くルートを、きつさを感じる手前の速さで登り、1時間あたりの登高標高差を出す方法です。300m/h未満なら、標準コースタイムの1.5倍の時間をかけるとリスクを下げられるとされています。長野県ではルートごとの体力度も公開されているので、計画づくりの参考になりますよ。(出典:長野県『信州 山のグレーディング』)
富士山のような高い山では、ペースを変えるべきですか?
はい、平地の感覚のままだと高山病のリスクが上がります。公式に挙げられているのは、五合目付近で1〜2時間休んで高度に慣らすこと。そしてゆっくりした一定のペースで歩くこと、お腹からしっかり息を吐く深呼吸です。僕は初めての富士登山で、山小屋でビールを飲んで軽い高山病になりました。標高の高い場所では判断も体も鈍る前提で、体調に不安があるときは無理をせず専門家にご相談ください。(出典:富士登山オフィシャルサイト『健康と安全』)
子どもや、体力差のある家族と登るときはどうしますか?
まず時間の見積もりから変えます。子ども連れは標準コースタイムの1.5〜2倍を想定したスケジュールが必要とされています。歩く速さを落とせば体への負担は下がりますが、その分だけ行動時間が延びて、天候の変化に当たるリスクは増えます。時間を足すより、行程そのものを短くするほうが安全ですよ。
登山のペース配分は型と実測で決まる
結局、次の山では何から気をつければいいの?
最初の30分をゆっくり入る。それだけでも、後半のしんどさがぜんぜん違いますよ。
ペース配分は、速く歩くための技術ではありません。予定した時刻に、余力を残して着くための段取りです。要点をまとめておきます。

- 歩き出しの30分は「物足りない」と感じる速さで入る
- 強度は会話が続く範囲。文章で話せなくなったら速すぎ
- 休憩は歩き始め20〜30分で1回目、その後は50分歩いて10分
- 僕の槍ヶ岳は前半0.8倍・最終区間1.10倍。貯金は最後に吐き出す
- 速すぎのサインは会話・汗・息の順に、道具なしで確かめられる
- 荷物が重い日はペースだけで取り返せない。減らすほうが効く
- 下りは速さより一歩の大きさ。飛び降りず、歩幅を狭める
- グループは隊列で直す。置いていかれるのは配置の問題
ここで挙げた数値は、いずれも一般的な目安です。コースタイムも日没時刻も変わるので、計画の前に地図や山小屋の公式サイトで最新の情報をご確認ください。持病や体力に不安がある場合は、専門家にご相談のうえで無理のない計画を立ててくださいね。
長い岩稜を歩いたときにいちばん効いたのも、技術ではなくペースを守って余力を残すことでした。迷ったら遅いほうを選んでおく。それで間違いないかなと思います。
