こんにちは、YAMA-GO編集部のりょうです。関西を拠点に、北アルプスを中心にULスタイルで山を楽しんでいます。このブログ「YAMA-GO」では、実際に使ったギアのレビューや選び方、山のノウハウなんかを発信しています。
夏の山って、登り始めて30分もすると汗が止まらなくなりますよね。水はちゃんと持ったし帽子もかぶった。それなのに樹林帯の途中で足が重くなって、休んでも回復しない。そういう日を一度経験すると、次の夏山がちょっと怖くなります。
この記事では、僕が槍ヶ岳や奥穂高岳を歩いてきた中でたどり着いた「水と塩を同時に入れる」という結論を軸に、当日までの準備から、めまいが出たときの引き際までをまとめます。診断や治療の話には踏み込まず、登る側が自分で決められることだけを扱いますね。
- 山の熱中症が街より厄介になる理由と、樹林帯が一番危ない仕組み
- 体重と行動時間から出す水の量と、塩タブレットの現実的な使いどころ
- 暑熱順化・前夜の睡眠・出発時刻という登山口に着く前の準備
- めまいやこむら返りが出たときの対処と、救助を呼ぶ判断の目安
夏山遭難の3割は病気と疲労

夏の山で怖いのは、滑落やケガより体の内側で起きるトラブルです。警察庁の集計では、令和7年夏期(7〜8月)の遭難者917人のうち、病気が142人、疲労が124人。合わせると全体の約3割を占めています。(出典:警察庁『令和7年夏期における山岳遭難の概況』)
岩場を越える技術より先に、体調を落とさない準備が効いてくる世界なんですよね。しかも山の熱中症が厄介なのは、なりやすさより「なったあと」のほうです。
街なら冷房の効いた店に入って座っていれば、たいていは立て直せます。でも山にあるのは日陰と風だけで、自力で歩けなくなった時点でそれは遭難になります。
| 場面 | 街 | 山 |
|---|---|---|
| 涼しい場所 | 屋内・冷房・コンビニがすぐ近くにある | 日陰と風のある場所しかない |
| 水の補給 | いつでも買える | 携行した分がすべて。水場と山小屋の位置に依存する |
| 発症後の移動 | 座って休める・タクシーで帰れる | 自力下山が前提。動けなくなると救助待ちになる |
| 医療までの時間 | 救急車で数十分 | 救助要請から接触まで数時間。天候が悪ければヘリは飛べない |
| 冷やす手段 | 氷・保冷剤・シャワー | 沢水・濡らしたタオル・残りの飲料水くらい |
山では軽い段階で止められなかった時点で、行動不能に直結します。だから対策は「治す」より「入り口で止める」に全振りするのが現実的です。
無風の樹林帯は街より熱中症から逃げにくい
危ないのは山頂ではなく、標高の低い樹林帯です。登山口から中腹までを詰める序盤と、下山後半の樹林帯が一番きつい。そう思っておくくらいでちょうどいいかなと思います。
気温は標高が100m上がるごとに0.6℃前後下がるのが目安です。1,000m登っても差は5〜6℃なので、平地が35℃なら標高1,000mでもまだ30℃前後にとどまります。
つまり「山だから涼しい」は半分しか当たっていません。しかも日射は標高が上がるほど強くなるので、気温の数字だけを見ていると足をすくわれます。
熱中症の危険が上がる条件は、湿度が高いこと・風がないこと・日射が強いことの3つとされています。樹林帯は風が通りにくいうえ、植物の蒸散で湿度も高く、条件が重なりやすい場所です。
暑さ指数(WBGT)という指標は湿度の重みが最も大きく作られていて、気温28℃でも湿度90%で無風の樹林帯は、日向の稜線より危ないことがあります。梅雨明け直後は特に湿気が残っています。
僕が上高地から奥穂高岳へ向かったときも、明神から徳沢にかけて川沿いに木のない区間があって、まだ朝のうちなのに暑かったのを覚えています。逆に本谷橋の雪解け水は青くて冷たく、顔を洗うと一気に生き返りました。
日陰と水のある場所は、行動計画の段階で休憩地点として拾っておくと安心です。どこで涼めるかを知っているだけで、暑い区間の歩き方が変わります。
僕の答えは水と塩を同時に入れる

結論から言うと、水と塩分は必ずセットで入れます。汗で出ていくのは水だけではないので、真水だけを足しても体は元に戻りません。僕がザックから塩タブレットを外さなくなったのも、ここが理由です。

水をたっぷり持っていけば大丈夫なんじゃないの?
僕も最初はそう思っていました。でも、水だけだと足りない場面があるみたいなんですよね。
へえ、じゃあ何を足すの?
塩です。どれくらい必要なのか、一緒に見ていきましょう。
水の量は体重で出し一気に飲まない
携行量は感覚ではなく式で出すのがおすすめです。登山でよく使われる目安は「5 × 体重(kg) × 行動時間(h)」で推定の脱水量(mL)を出す形で、気温の高い時期は係数を6〜8に上げます。
体重60kgの人が6時間歩けば、単純計算で1.8L前後が体から出ていくことになります。数字にしてみると、思っていたより多いなと感じる人が多いんじゃないでしょうか。
| 体重 | 行動4時間 | 行動6時間 | 行動8時間 |
|---|---|---|---|
| 50kg | 1,000mL(夏 1,200〜1,400) | 1,500mL(夏 1,800〜2,100) | 2,000mL(夏 2,400〜2,800) |
| 60kg | 1,200mL(夏 1,440〜1,680) | 1,800mL(夏 2,160〜2,520) | 2,400mL(夏 2,880〜3,360) |
| 70kg | 1,400mL(夏 1,680〜1,960) | 2,100mL(夏 2,520〜2,940) | 2,800mL(夏 3,360〜3,920) |
表の数字は「体から出ていく量」の推定です。食事や代謝でも水は入るので、行動中に飲むのは推定量の7〜8割が目安。あとは水場や山小屋の位置、エスケープの取りやすさで上乗せを決めます。
僕が新穂高温泉から槍ヶ岳へ向かったときは、途中で給水できるルートだったので1.5Lで足りました。当時の持ち物メモにも「2Lは重くて疲れる原因」と書き残しています。
水の量は体重と時間だけでなく、水場とセットで決めるものだなと思います。同じ体重でも、水を汲める山と汲めない山では持つべき量がまるで違いますよね。
飲み方も同じくらい大事です。500mLの飲料を一気に飲んでも、15分後にはそのうち200〜250mLがまだ胃に残っていたという報告があります。
山頂で一気飲みしても、しばらくは重りを背負っているのと変わらないわけです。休憩のたびに150〜250mLずつ、500mLペットボトルの3分の1から半分を目安に入れていくほうが体には届きます。上の表で出した推定量の7〜8割を、行動時間で割って配ると考えると量の感覚がつかめます。逆に、汗をかいていないのに飲み続けるのも体液が薄まる側に振れるので、量を増やせばいいというものでもありません。
喉が渇いてから飲むのでは遅い、というのは山でも同じです。そして山では「トイレがないから飲まない」という制限が入りやすく、これが実際の発症要因になっています。
トイレを気にして水を控えるのは、山では一番やってはいけない我慢です。パーティで歩くなら、3時間ごとにトイレ休憩を先に決めておくと防げます。
塩タブレットだけでは足りない
塩タブレットは僕にとって必需品ですが、タブレットだけで汗の塩分を埋めるのは無理です。ベースは塩分の入った飲料にして、タブレットは濃度の底上げと行動中の即時補給に使う。この位置づけが現実的かなと思います。
槍ヶ岳の山行から戻ったあと、僕は自分の持ち物メモに「塩タブレットは熱中症対策に必須」とわざわざ書き残していました。それくらい行動中に効いた実感があった、ということなんだと思います。もちろんこれは僕個人の感想で、タブレットだけで熱中症を防げるという話ではありません。水分・休憩・冷却と組み合わせて、はじめて意味が出てくる道具です。
数字で見ると、この道具の限界がはっきりします。1時間に1Lの汗をかくとナトリウムを約1g(食塩に換算して約2.5g)失う一方で、塩タブレット1粒の食塩相当量は0.1g前後です。(出典:カバヤ食品『塩分チャージタブレッツ』商品情報)
同じ量を粒だけで戻そうとすると1時間で20粒以上という計算になり、さすがに現実的ではありません。行動食のおにぎりやスープ、昼食からも塩は入るので、一日の総量で考えるほうが自然ですよね。
| カテゴリ | 1回量あたりの塩分 | 長所 | 注意したいところ |
|---|---|---|---|
| 塩タブレット | 食塩相当量0.1g前後/粒 | 軽い・個包装で溶けにくい | 糖質を含む。水なしでも食べられるが、水分補給の代わりにはならない |
| 塩飴・塩キャンディ | 製品差が大きい | 携行しやすく味の選択肢が多い | 夏は袋の中で溶けて固まりやすい |
| 経口補水液 | ナトリウム50mEq/L | 吸収が速く、回復用として設計されている | 重い・味が塩辛い・予防目的の常飲は想定外 |
| 粉末タイプ | 製品差 | 軽く、水場で作れるので携行水量を減らせる | 溶かす水が必要。ボトルが甘くなり洗いにくい |
| 梅干し・味噌汁 | 梅干し1粒で1〜2g程度 | 食事として摂れて行動食と兼用できる | 塩分量のばらつきが大きい |
使い方で外せないのが、タブレットは水なしでも食べられますが、水分補給の代わりにはならないということ。メーカーも「水なしで摂れるタブレットタイプ」と案内していて、粒だけで塩分を入れても、汗で出ていった水分は別に飲まないと埋まりません。
濃度で言うと、メーカーは「水100mLに対して1粒」が同等になるとしているので、500mLのボトルなら5粒で一般的なスポーツドリンクくらいの塩分濃度になる計算です。ただしこれはあくまで濃度の換算で、メーカー自身「汗の量や濃度は個人差や環境によって異なるため、本製品の明確な摂取量を提示することはできない」としています。
何粒摂るかは、その日の発汗量と食事から入る塩分に合わせて自分で調整するもの。行動食や昼食からも塩は入るので、粒数だけを追いかけないほうがいいと思います。
カバヤ 塩分チャージタブレッツ
1粒あたりの食塩相当量は0.119gで、カリウムも15.7mg入っています。個包装で溶けにくく、ザックの雨蓋に入れっぱなしにしておけるのが山向きだなと思います。
価格目安:実売237円〜243円(税込)が目安
医師からナトリウムやカリウムの摂取量に制限を指示されている方は、塩分補給アイテムの使い方も含めて主治医にご相談ください。
経口補水液とスポーツドリンクの違い
ざっくり言うと、スポーツドリンクは予防、経口補水液は立て直しです。経口補水液は電解質が濃く、吸収を速めるために糖の濃度を下げた組成なので、脱水が起きたときの切り札として1本だけ持つ、というのが僕の使い方です。(出典:大塚製薬工場『オーエスワン』よくあるご質問)
| 項目 | 経口補水液 | スポーツドリンク | 水・麦茶 |
|---|---|---|---|
| ナトリウム | 50mEq/L | 9〜23mEq/L | ほぼ0 |
| カリウム | 20mEq/L | 3〜5mEq/L | ほぼ0 |
| 糖質濃度 | 2.5% | 6〜10% | 0 |
| 味 | 塩味が強くやや飲みにくい | 甘くて飲みやすい | 飲みやすい |
| 向いている場面 | 過度の発汗や脱水を伴う熱中症 | 行動中の水と電解質の補給 | 日常の水分補給 |
行動中のベースをスポーツドリンクにするのは、糖質があってエネルギー補給も兼ねられるからです。暑い時期に水で薄めて飲むのは避けたほうがよくて、薄めると肝心の電解質が足りなくなります。
飲み物の温度も地味に効きます。冷たい飲料のほうが体の深部の温度を抑えられて、疲れきるまでの時間が延びたという報告もあるんですよ。
僕は凍らせたペットボトルを1本入れておくことが多いです。溶ければそのまま飲み水になりますし、休憩のときは首や脇に当てて冷やす道具にもなります。
下山後の1杯も、できれば塩分入りで。運動のあとに水だけを飲んだ場合は1時間経っても血液の量が戻らなかったのに対し、食塩を含む飲料では20分以内に戻ったという実験があります。
経口補水液は常飲しない
メーカーは「脱水症でない場合には飲む必要はない」と明記しています。腎臓・血圧・心臓の治療を受けている方は、飲む前に必ず医師にご相談ください。組成や注意書きの正確な情報は、各メーカーの公式サイトでご確認いただくのが確実です。
熱中症対策は登山口に着く前から
当日の頑張りより、前の2週間と前日の過ごし方のほうが効きます。暑さに体を慣らして、しっかり寝て、樹林帯を涼しい時間に抜ける行程を組む。この3つは装備を買い替えるより確実で、しかもお金がかかりません。

熱中症対策でいちばん費用対効果が高いのは、実は当日ではなく「登山口に着くまで」に仕込む部分です。
暑熱順化はいつから始めるか
始めるなら山行の直前2週間に寄せるのが効率的です。順化にかかる期間は数日から2週間ほどで個人差があり、しかも数日暑さから遠ざかると効果は薄れていきます。
環境省は、やや暑い環境でややきついと感じる程度の運動を毎日30分ほど、あるいは40℃くらいの湯船に10〜15分浸かる方法を2週間ほど続ける、という説明をしています。追い込む必要はなくて、少し汗ばむ程度で足ります。
| 方法 | 1回の時間 | 頻度の目安 |
|---|---|---|
| ウォーキング | 30分 | 週5日程度 |
| ジョギング | 15分 | 週5日程度 |
| サイクリング | 30分 | 週3回程度 |
| 筋トレ・ストレッチ | 30分 | 週5回〜毎日 |
| 入浴(湯船に浸かる) | 湯温により調整 | 2日に1回程度 |
体の中では、汗をかき始めるのが早くなり、血液の液体成分が増えて心拍が上がりにくくなる、といった変化が起きます。同じコースを同じペースで歩いても、体温が上がりにくく脱水も減るわけです。
ここで見落としがちなのが順化の順番です。汗の塩分濃度が下がる適応は、いちばん最後にやってきます。つまり「数日でちょっと楽になった」段階では、塩分の損失はまだ減っていません。
梅雨で2週間ほとんど外に出ていないまま7月の山に入るのは、体としてはぶっつけ本番に近い状態です。冷房の効いた部屋で過ごす日が続いている人ほど、順化は消えていると考えたほうが安全ですね。
熱中症になりやすい人の特徴と前夜の寝不足
体質より効いてくるのは、当日の体の状態です。寝不足・前日の深酒・朝食抜きは、登山口に立った時点でハンデを背負っているのと同じ形になります。
| 項目 | 望ましい状態 | 崩れるとどうなるか |
|---|---|---|
| 睡眠 | 7時間以上 | 自律神経が乱れ、体温調整や発汗の働きが鈍る |
| 飲酒 | 前日の深酒を避ける | 利尿作用で脱水が進み、睡眠の質も下がる |
| 朝食 | 出発前に摂る | 水分・塩分・糖質が低い状態で行動を始めることになる |
| 出発前の給水 | 500mL以上 | 登山口に立った時点で軽い脱水 |
体質の面では、太めの人・持病があって薬を飲んでいる人・高齢の人がリスクを上げやすいとされています。脂肪が厚いと熱が体表へ逃げにくく、体内の水分量も相対的に少なくなるためです。
夏山の遭難者は50代以上が6割前後を占めていて、全国の熱中症の救急搬送でも高齢者が半数を超えています。親を誘って山に行くときは、自分のペース感覚をそのまま当てはめないほうがいいですよね。
見落としやすいのが前泊の睡眠環境です。夏に眠りやすいのは室温26〜28℃・湿度50〜60%あたりとされますが、登山口の駐車場での車中泊は、この条件から一番遠い場所だったりします。
窓を2か所開けて風の通り道を作る、標高が上がる駐車場を選ぶ、といった工夫で少しは変わります。前夜に眠れたかどうかは、翌日の暑さへの耐性にそのまま効いてきます。
糖尿病・高血圧・心疾患・腎臓の病気などで治療中の方は、夏山の行程や水分の摂り方について事前に主治医にご相談ください。
夏山の早朝出発と休憩間隔は暑さ指数で決める
早朝に出る理由は午後の雷雨だけではありません。風の通らない樹林帯の登りを、気温が上がりきる前に抜けてしまうのが、熱中症対策としては一番効きます。
目安としてよく言われるのが「14時までに下山、または山小屋着」。トラブルが起きても明るいうちに動ける余裕が残りますし、午後の暑い時間に行動する量も自然と減ります。
僕が新穂高から槍ヶ岳へ入った日は5時半に歩き出して、山荘に着いたのが14時40分でした。奥穂高のときも6時前に出て14時半に山荘着。狙って組んだというより、朝早く出た結果として午後に長く行動せずに済んでいた、というのが正直なところです。
ちなみに槍ヶ岳では、山荘のランチタイム14時半に10分間に合わず、注文できたのはおでんだけでした。早着はごはんの選択肢まで変えます。
むしろ危ないのは下山の後半です。午後のいちばん暑い時間帯に、疲れて水も残り少ない状態で、風の通らない樹林帯を下ることになります。
対策はシンプルで、下山用の水を必ず残すこと、午後は休憩の間隔を詰めること、下山を始める時刻を先に決めておくこと。この3つで防ぎにいきます。
| 暑さ指数(WBGT) | 区分 | 運動時の目安 |
|---|---|---|
| 31以上 | 危険 | 運動は原則中止 |
| 28以上31未満 | 厳重警戒 | 体温が上がりやすい運動は避け、10〜20分おきに休憩して水分・塩分を補給 |
| 25以上28未満 | 警戒 | 積極的に休憩をとる。激しい運動では30分おきくらいに休憩 |
| 25未満 | 注意 | 運動の合間に積極的に水分・塩分を補給 |
登山は数時間続く持久系の運動なので、この指針の「激しい運動」に近い扱いで読むのが実態に合います。休憩は長く取るより短くこまめに。最初の休憩は歩き出して20〜30分以内、あとは40〜60分ごとが基本形です。
熱中症警戒アラートは、翌日または当日の暑さ指数が33以上と予測されるときに、前日17時頃と当日5時頃に発表されます。前日の発表は、行き先を変える・出発を早める・やめる、を決められる最後のタイミングですね。(出典:環境省『令和8年度熱中症特別警戒アラート及び熱中症警戒アラートの運用を開始します』)
休憩そのものも、ただ立ち止まるのではなく体温を下げる時間にします。日陰で風が抜ける場所を選んで、ザックを下ろして背中に風を通すだけでも放熱は進みます。
関連記事:登山のペース配分|初心者がバテない歩き方を実測タイムで解説
帽子と首の冷却グッズは買う前に代替で足りるか

冷却グッズを選ぶ基準は、僕は「山の中で再生できるか」だと思っています。濡らした手ぬぐいは水場のたびに、凍らせたペットボトルは溶けきるまでの数時間、山の中でも使い続けられます。逆に冷凍庫でしか戻せないグッズは、冷やし直す当てがないと2日目以降ただの重りになります。

最近よく見るネッククーラーって、山でも効くの?
日帰りなら効くと思いますよ。ただ、ぬるくなったあとに冷やし直す当てがあるかは考えておきたいですね。
たしかに。山に冷凍庫はないから、冷たい沢があるルートかどうかで変わりそうだね。
| 種類 | 冷たさの持続 | 山での使い勝手 |
|---|---|---|
| 濡らしたタオル・手ぬぐい | 濡らすたびに復活 | 最も軽く、沢や水場で何度でも再生できる |
| 冷感タオル | 乾くまで | 軽いが、水のある区間でしか使えない |
| ネックリング(PCM) | おおむね数十分〜2時間程度 | 製品差はあるが、28℃以下の冷水でも凝固し直せるものが多い。冷たい沢水があれば山でも再生できる |
| 凍らせたペットボトル・保冷剤 | 数時間 | 重いが、溶けたら飲み水になるのが山向き |
| 瞬間冷却パック | 使い切り | 軽く長期保管できる。発症時の緊急用に1個 |
| 日傘 | 常時 | 日陰のない稜線や林道で強い。樹林帯や強風では使えない |
| ファン付きウェア | バッテリー依存 | 無風の樹林帯で効く。重量とバッテリーがトレードオフ |
冷やす場所にもコツがあって、効くのは首の両側・脇の下・脚の付け根の3か所です。太い血管が体表の近くを通っているので、ここを冷やすと体に戻っていく血液ごと冷やせます。
ネッククーラーの類も、製品が血管の位置に当たっていないと効果が出にくいとされています。首に掛けて満足せず、位置を一度確認しておきたいところです。
逆に、額に貼るジェルタイプの冷却シートは体を冷やす効果がないとされています。気持ちよさはあるので使うのは自由ですが、熱中症の処置としては当てにしないほうが安全です。
帽子は日焼け対策の道具というより、頭に入る熱を遮りつつ蒸れを逃がす道具だと考えています。つばは7cm以上が目安で、首の後ろを覆えるか、通気孔があるか、顎ひもが付くか。通気のない帽子は日射を防いでも熱がこもります。
ただしつばが長すぎると足元の視界が狭くなるので、岩場や鎖場のあるルートでは形も見ておきたいところです。そのうえで、手持ちの手ぬぐいやネックゲーターで代用できないかを一度考えると、荷物を増やさずに済みます。
| 買おうとしがちなもの | 代わりになるもの | 判断の目安 |
|---|---|---|
| PCMネックリング | 濡らした手ぬぐい/凍らせたペットボトル | 日帰りなら有効。1泊以上や水場のある山なら濡れタオルで足りる |
| 冷却スプレー | 日陰での休憩+濡れタオル | 体感が下がるだけで深部体温には効きにくい |
| 高価な冷感タオル | 一般的な手ぬぐい | 水場が多いルートでは差が出にくい |
| ハイドレーション | ショルダーに付けるボトルホルダー | 本質は「歩きながら飲めるか」 |
最後のハイドレーションの話は、僕自身が実感しているところです。槍ヶ岳で使っていたミレーのサースフェー30+5は、サイドのボトルポケットに横からも手が入る作りで、体の固い僕でもザックを下ろさずに水を取り出せました。
飲む回数は、道具の性能より水の置き場所で決まります。ザックの奥にしまうと出すのが面倒になって、結局こまめに飲めなくなるんですよね。
綿をやめてドライレイヤーを1枚
ウェアでいちばん効くのは、綿をやめることです。そのうえでメッシュのドライレイヤーを肌に1枚はさむと、汗を上の服へ受け渡して肌が乾いた状態を保てます。
綿は汗を吸うと乾かず、濡れたまま肌に張りつきます。休憩のたびに冷え、稜線で風に吹かれると夏でも体温を奪われるので、登山では避けたい素材です。
| 素材 | 特徴 |
|---|---|
| ポリエステルなどの化学繊維 | 吸汗性・速乾性が高く、最も乾きが速い |
| メリノウール | 化繊より乾きは遅いが、匂いがつきにくく温度調節がしやすい |
| 綿 | 乾かない。登山では非推奨 |
富士山に登ったときは、化繊の半袖に長袖を足す組み合わせで、8合目で着替えました。休憩に入るとすぐ冷えるので、乾きやすい素材を多めに持っていったのは正解でしたね。
逆に槍ヶ岳の2日目は雨で寒く、フリースかインナーダウンを持っていなかったことを後悔しました。夏山でも山頂は5℃くらいまで下がることがあるので、暑さ対策と汗冷え対策はセットで考えたいところです。
サイズはジャストか、やや小さめ。肌に沿ってこそ吸汗の性能が出るので、ゆったり選ぶと汗の処理がうまくいきません。日射の強い日は、薄手の長袖に薄いメッシュを合わせたほうが、半袖より涼しく感じることもあります。
倒れるのは行動中より小屋到着後
山岳診療所の記録を読むと、倒れたのが行動中ではなく小屋に着いたあとという事例が目を引きます。以下に挙げるのは北アルプスの診療所に残っている2例で、統計ではありませんが、行動中にじわじわ溜まった脱水が到着後の一杯で一気に表面化する、という共通点があります。もちろん行動中に発症することもあるので、着いてからが本番という意味ではありません。

北アルプスの三俣山荘の診療所には、槍ヶ岳から西鎌尾根を縦走してきた30〜40代の女性が、到着後にビールを飲んだ直後に目を回して倒れた、という事例が記録されています。背景にあったのは、ルート途中にトイレがないため水分を制限していたことでした。
同じ診療所には、小屋に着いてワインで乾杯した直後に「目の前が真っ暗になった」という大学生の事例もあります。その日は雨で寒く、水分補給を怠っていたそうです。
どちらも点滴や休憩で回復していますが、引き金になったのは暑さと無関係な理由で水を控えたことでした。トイレがない、雨で寒い。そういう日ほど油断してしまうんですよね。
僕も富士山の山小屋で、寝る前にビールを飲んで軽く高山病のようになり、しんどい思いをしたことがあります。達成感で飲みたくなる気持ちはよく分かるんですけどね。着いてすぐの一杯より先に、水と食事を入れる順番にしたほうが安全かなと思います。
脱水した状態での飲酒は、血管が広がって相対的な水分不足が加速し、血圧が急に下がるリスクがあります。山小屋の乾杯は、水を飲んで落ち着いてからにしてください。
めまいとこむら返りは初期サイン
めまい・立ちくらみ・生あくび・こむら返りは、まだ現場で戻せる段階のサインとされています。ここで止められるかどうかが、山では大きな分かれ目です。
| 段階 | 症状の例 | 一般的な対応の目安 |
|---|---|---|
| I度 | めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、こむら返り(意識障害はない) | 通常は現場での対応が可能とされる |
| II度 | 頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下 | 医療機関での診察が必要とされる |
| III度以上 | 意識障害、けいれん、手足の運動障害など | 入院・集中治療の対象。山ではただちに救助要請 |
この分類は日本救急医学会のガイドラインをもとにした整理で、自分で診断するためのものではありません。山で使えるのは「Ⅰ度で止められているか、それとも先へ進んでいるか」という一点だけかなと思います。
特に覚えて帰ってほしいのが、水は飲んでいるのに足がつるのは、水ではなく塩が足りていないサインだということ。この段階で塩分を入れれば戻せることが多いとされています。
本人より周りが先に気づくこともあります。歩みが遅くなる、口数が減る、急に汗が止まる。パーティで歩くなら、こうした変化を声に出して確認したいところです。
紛らわしいのが高山病で、こちらは頭痛が主体で、標高2,500m前後より上に上がってから出ることが多いとされます。水を飲みすぎて起こる低ナトリウム血症も症状が似ていて、行動したのに体重が減っていないのが手がかりになります。
とはいえ現場で見分けきるのは難しく、併発することもあります。迷ったら決め打ちせず、標高を下げて涼しい場所で休む。それでも良くならないなら、医療につなぐ判断に切り替えます。ただしこれは意識がはっきりしていて、自分で歩けて水も飲める場合の話です。頭痛や吐き気が出ている、受け答えがおかしい、飲ませても吐くといったときは、休んで様子を見るのではなく、次に挙げる救助要請の目安のほうに切り替えてください。
日陰で冷やして救助を呼ぶ目安
現場でやることは3つだけです。涼しい場所へ移す・冷やす・飲めるなら水分と塩分を入れる。ここから先は自分たちで背負わず、医療と救助に渡します。
- 風が抜ける日陰へ移動する。稜線なら風のある側、樹林帯なら沢筋など気温の低い場所を選ぶ
- 衣服をゆるめ、首の両側・脇の下・脚の付け根を冷やす。保冷剤や氷はタオルでくるんで当てる
- 濡らしたタオルを体に当て、うちわや帽子で風を送って水を蒸発させる
- 意識がはっきりしていて自分で飲めるなら、冷たい水と塩分を本人のペースで飲んでもらう
山では冷たいペットボトルと濡らしたタオルが、現実的な冷却手段になります。濡らして風を当てる方法は特別な道具が要らないので、いちばん再現しやすいですね。
逆に、呼びかけへの反応がおかしいときに無理に水を飲ませてはいけません。吐き気があるときや吐いているときも同じで、この状態はすでに医療の領域です。
救助を呼ぶ判断の目安
意識が混濁している・受け答えが鈍い/自力で水分を摂れない、飲ませても吐く/涼しい場所で冷やして補給しても良くならない/けいれんや手足の運動障害がある/自力で歩けない。ひとつでも当てはまるなら、山では自力解決を諦めて救助要請に切り替える目安になります。
要請は110番か119番へ。北アルプスのように警察の山岳救助隊がある山域では110番が使われることが多く、どちらにかけても警察と消防で連携されます。通報したあとは無理にその場を動かないこと。動くと現在地が分からなくなって捜索が難航します。救助を待つ間も冷却は続けます。
令和7年の統計では、山岳遭難3,122件のうち76.3%が遭難現場から携帯電話や無線機を使って救助を要請しています。現場からの通報はほぼ携帯電話頼みというのが実態で、バッテリーが切れれば連絡手段ごと失うことになります。予備バッテリーは持っておきたいところです。
費用のことも現実として知っておきたいですね。警察や消防のヘリは原則として費用請求されませんが、民間ヘリは1分あたり1万円が相場とされ、1時間の出動で45万〜80万円程度という目安が示されています。
熱中症で動けなくなった場合も、ケガのときと同じで、民間ヘリや民間の救助隊が動けば費用は発生します。「病気だから対象外」ということはありません。負担の有無や金額は救助の主体や地域の制度、加入している保険によって変わるので、山岳保険の補償範囲を一度確認しておくといいと思います。
なお、ここまで挙げてきた数値はあくまで一般的な目安です。体調や持病によって適切な対応は変わりますし、最終的な判断は医師などの専門家にご相談ください。制度や運用の最新情報は、環境省や気象庁、各自治体の公式サイトでご確認いただくのが確実です。
登山の熱中症対策でよくある質問
山では暑さ指数(WBGT)が分かりません。何を見て判断すればいいですか?
前日17時頃と当日5時頃に発表される熱中症警戒アラートと、登山口周辺の予報を組み合わせるのが現実的です。山の中では、湿度が高い・風がない・日射が強いという3つの条件がそろっていないかを体感で確認します。黒球付きの携帯型の指数計もありますが、まずは「蒸して風が止まった区間に入ったら休憩を詰める」という判断で十分だと思いますよ。
塩タブレットと塩飴、梅干しはどれを持てばいいですか?
軽さと溶けにくさで選ぶなら個包装の塩タブレット、食事と兼ねるなら梅干しやスープ、という使い分けが素直かなと思います。梅干しは1粒で食塩相当量1〜2g程度と製品差が大きいので、パッケージの表示を一度見ておくと総量を把握しやすくなります。どれを選ぶにしても、水と一緒に摂るのが前提です。
熱中症警戒アラートが出たら、登山は中止したほうがいいですか?
中止しなければならないという決まりはないので、最後は自分たちで決めることになります。僕は、風の通るルートに行き先を変える、出発を早めて主要な登りを午前中に終える、それが難しければやめる、という順で考えています。同行者に暑さが苦手な人や高齢の方がいるなら、中止側に倒すのが安全です。
日傘は登山でも使えますか?
日陰のない稜線や林道、砂礫地では強い味方になりますが、樹林帯では枝に引っかかって使いにくいです。風が強い場所でも使えませんし、ストックとの併用も難しくなります。ルートの半分以上が日陰のない道かどうかを、持っていくかどうかの目安にすると失敗が少ないと思います。
高齢の親と夏山に行きます。特に気をつけることはありますか?
加齢とともに体温調節の働きと体内の水分量が下がり、暑さや喉の渇きを感じにくくなるとされています。本人の「大丈夫」を鵜呑みにせず、時間を決めて水と塩分を促すほうが安全です。持病があったり薬を飲んでいたりする場合は、行程と水分の摂り方について事前に主治医にご相談ください。
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登山の熱中症対策は水と塩と時間帯で決まる
けっきょく、いちばん大事なのはどれだったの?
水と塩を一緒に入れることと、涼しい時間に樹林帯を抜けることかなと思います。
熱中症は、山では「治す」より「入り口で止める」ほうが圧倒的に楽です。しかもその大半は、当日の頑張りではなく、2週間前からの体づくりと前夜の睡眠、そして出発時刻で決まります。

- 夏山の遭難は病気と疲労で約3割。山では軽い段階で止めないと行動不能に直結する
- 危ないのは山頂より、無風で湿った樹林帯と、疲れた状態で下る午後の樹林帯
- 水は「5×体重×行動時間」で見積もり、夏は係数を上げる。一気に飲まず、休憩のたびに150〜250mLずつ分ける
- 塩タブレットは必須。ただし塩分入りの飲料や行動食と合わせて総量をつくる
- 経口補水液は予防の常飲用ではなく、脱水したときの立て直し用に1本だけ
- 暑熱順化は直前2週間に寄せ、前夜は7時間以上の睡眠を確保して深酒を避ける
- 冷却グッズは山で再生できるかで選ぶ。濡れタオルと凍らせたペットボトルが基本
- めまいやこむら返りが出たら日陰で冷やす。良くならないなら救助要請に切り替える
そのうえで、ここに書いた数値はあくまで一般的な目安です。体質や持病によって必要な備えは変わるので、不安があれば専門家にご相談のうえ、最新の情報は公式サイトでご確認くださいね。無理をせず引き返す判断も、立派な熱中症対策だと思います。
