こんにちは、YAMA-GO編集部のりょうです。関西を拠点に、北アルプスを中心にULスタイルで山を楽しんでいます。このブログ「YAMA-GO」では、実際に使ったギアのレビューや選び方、山のノウハウなんかを発信しています。
下山が予定より遅れて、気づけば日が傾いている。「このまま下って間に合うのか」「止まったほうがいいのか」と、急に焦りますよね。秋は日の入りが一気に早くなるので、夏と同じ感覚で歩くと日没に食い込みやすい季節です。
僕自身、初めての富士山では暗くなった岩場をヘッドライトで登りました。10月の北アルプスでは、雲海に沈む夕日を見ながら山荘へ向かったこともあります。そうした経験と、警察や山岳医療の公式情報をもとに整理しました。
先に結論を言うと、判断は日没の1時間前までに済ませ、日没後の下山は原則避けるのが基本です。そのうえで「今いる場所・残り時間・持っている装備」の3つを確かめます。ライトで確実に歩ける道なら下り、そうでなければ留まる、という考え方です。
暗くなってからの動き方、ビバークと連絡の段取り、次回の計画まで、時間の流れに沿って見ていきましょう。
- 日没1時間前に「下る・止まる」を決める3つの判断軸
- 暗くなった直後の初動と、ヘッドライトで道迷いしない歩き方
- ツェルトとエマージェンシーシートでビバークする最低限の手順
- 家族・警察へ連絡する目安と、日没から逆算する下山計画
登山で日没に間に合わない時は日没1時間前に決める

日没に間に合わないと感じたら、日没の1時間前を「下るか止まるか」の締め切りにします。判断材料は「今いる場所」「残り時間」「持っている装備」の3つ。暗くなってからでは、止まる場所を探すことさえ難しくなるからです。

ビバークの判断は、遅くとも日没の1時間前までが理想とされています(登山ガイド監修の解説)。灯火なしで歩ける市民薄明は、日の入り後30分程度しかありません。しかも樹林帯や東斜面、谷筋は、それより早く暗くなります。
1時間前って、まだ全然明るいよね。そんなに早く決めなきゃいけないの?
明るいうちじゃないと、止まる場所探しもツェルトの準備もできないみたいなんですよね。
暗くなってから慌てても遅いってことか。じゃあ3つの材料を一緒に見ていこう!
3つの材料を並べると、下の表のようになります。3つすべてが「下る」側にそろった時だけ、ライトを点けて下る。1つでも欠けたら、止まる・引き返す方向で考えるのが僕の基準です。
| 判断軸 | 下ってもよい条件 | 止まる・引き返す条件 |
|---|---|---|
| 今いる場所 | 整備された一般登山道や林道が残るだけ。分岐が少なく、歩いたことがある道 | 岩場・鎖場・ハシゴ・沢沿いの道・渡渉が残る。踏み跡が不明瞭、すでに迷った兆候がある |
| 残り時間 | ライトを点けて下る時間が2時間前後(累積標高差600m程度)に収まる | 夜の下りが2時間前後を大きく超える。疲れでペースが落ちている |
| 装備 | ヘッドライトと予備電池があり、残量も十分 | ライトがない・電池が心もとない。ツェルトや防寒着があれば、止まる選択肢が現実的になる |
表はあくまで一般的な目安です。天候や体調が悪い時は、迷わず止まる・引き返す側を選んでください。
今いる場所|岩場や沢筋が残るなら止まる
最初に確かめたいのは、この先の道に何が残っているかです。岩場・鎖場・ハシゴ・沢沿いの道・渡渉が残っているなら、暗くなる前に止まる方向で考えます。暗闇では足場の確認が難しく、踏み外した時の代償が大きい場所だからです。
逆に、下ってもよいのは整備された一般登山道や林道歩きが残るだけの場合。分岐が少ない道や、一度歩いたことがある道も下る側の条件です。スマホのGPSで予定ルートとのずれを確かめられるなら、なお安心材料になります。
沢沿いの道が要注意なのは、地図にない崖や滝があって滑落しやすいから。服が濡れれば体が冷えますし、電波も途切れがちです。明るいうちなら通れる道でも、暗くなると条件が一気に悪くなります。
僕は奥穂高岳の山頂へ向かう早朝、はしごのある岩場をヘッドライトで登ったことがあります。ただそれは、山荘から1時間弱の短い登りでした。しかも時間がたつほど明るくなっていく行動です。
日没後の下りは、その逆。進むほど暗く、寒く、疲れもたまっていきます。同じ岩場でも、夜明け前に登るのと日没後に下るのとでは、まったく別物だと考えています。
明るい時間でも、岩場やガレ場は時間が読めません。ジャンダルムから岳沢小屋へ下った日は、アイゼンを着けていても急な雪渓で5mほど滑落し、そこでかなり時間を取られました。その先も浮き石だらけのガレ場で、何度も転びかけています。
残り時間|夜の下りは2時間前後が限界の目安
残り時間は「日没後、何時間ライトを点けて下ることになるか」で考えます。ナイトハイキングを実践する山岳会の経験則では、夜間の下りは累積標高差600m・2時間前後が限界とされています。それを超えると、目の疲れと精神的な疲れがたまっていくそうです。ただし同じ山岳会も、慣れていない人だと40分〜1時間が限界のこともあるとしています。夜道に慣れていないなら、もっと短く見積もってください。
到着時刻は、残りのコースタイムに自分のペースを掛けて計算し直します。地図やアプリのコースタイムは休憩を含まない数字なので、休む時間は別に足してください。登山アプリの到着時刻予測も、遅れをつかむのに役立ちます。
僕の槍ヶ岳では、最後の槍平から山荘までの登りが、標準4時間のところ4時間25分かかりました。運動不足がこたえた区間です。疲れが出た後半は、計算どおりには進みませんでした。
警察庁の統計でも、疲労による遭難者は令和2年の170人から令和7年は356人へ、約2.1倍に増えています。下山の遅れは、疲れてペースが落ちて起きることが多いもの。遅れている時点で、体力の残りも少ないと考えたほうが安全ですよね。(出典:警察庁『令和7年における山岳遭難の概況等』)
時刻ごとにやることを整理すると、次のようになります。
| 時点 | 起きていること | やること |
|---|---|---|
| 下山予定時刻を過ぎた | コースタイムより遅れている | 残りのコースタイムと自分のペースから、到着時刻を計算し直す |
| 日没1時間前 | まだ明るい。判断の締め切り | 到着が日没30分後を超えそうなら、下るならライト前提、止まるなら場所探しを始める |
| 日没〜30分後 | 市民薄明。樹林帯はすでに暗い | ヘッドライトを早めに点灯し、予備電池と残量を確かめる |
| 日没30分後以降 | ライトなしでは行動できない | 下ると決めていても、ライトで確実に歩ける道か見直し、不安があれば留まる |
| 動けない・道が分からない | 道迷い・疲労・けが | その場で動かず、電波があれば110番か119番へ |
装備|ツェルトがあるかで止まる選択肢が決まる
装備は、下る・止まるの両方の選択肢を左右します。ヘッドライトがなければ下る選択肢はほぼなく、ツェルトや防寒着がなければ止まる選択肢も厳しくなるからです。
静岡県警が公開している「遭難者の声」には、ライトを持たずに愛鷹山系で暗くなり始めた30代女性の例があります。近道をして道に迷った20代男性は、スマホの電池も減り、ヘッドライトも持っていませんでした。「低山だからと甘く見た」「装備は車中では意味をなさない」という言葉が残っています。
持っていても安心とは限りません。2024年11月、愛鷹山系の前岳から下山中の64歳男性が日没で動けなくなり、19時半ごろに救助を要請しました。約2時間半後に発見されましたが、持っていたヘッドランプと懐中電灯は、どちらも電池切れだったそうです。
反対に、止まる装備があって持ちこたえた例もあります。大無間山で道迷いを繰り返した60代男性は、テントと予備食でビバークしてしのぎました。ツェルトや防寒着があれば、「今夜は動かない」という判断を落ち着いて選べるんです。
装備は「持っていれば止まれる」。日没前の判断を楽にしてくれるのは、ザックの中身です。
暗くなったらどうする?初動とヘッドライトの夜道
暗くなってしまったら、まず立ち止まってヘッドライトを点け、現在地を確かめるのが最初の一手です。焦って歩き続けるほど、分岐の確認を飛ばして道迷いにつながりやすくなります。

初動は、次の順番で進めると落ち着いて判断できます。
- その場で立ち止まる(歩きながらライトを探さない)
- ヘッドライトを点け、予備電池の場所と残量を確かめる
- 地図とスマホのGPSで、現在地と予定ルートのずれを確かめる
- 汗で濡れているなら、冷える前に防寒着を着る
- 電波があるうちに、家族へ遅れと現在地を伝える
- この先の道と残り時間から、下る・留まるを決める
止まって地図を見るたびに、体は冷えていきます。日没後は気温も下がるので、防寒着は「寒い」と感じる前に着ておくのがコツかなと思います。
まず止まって点灯・現在地確認|富士山の教訓
ヘッドライトは、暗くなりきる前に点けるのが基本です。灯火なしで歩ける限界は日没後20〜30分が目安で、樹林帯はもっと早く暗くなります。
北アルプスで10月上旬に行われた登山メディアの検証でも、日没25分後には登山道がはっきり見えなくなりました。石や木につまずく危険を感じて、そこで点灯したそうです。暗くなってからザックの底を探すと、手間取るうえに体も冷えます。
僕が初めて富士山に登った時は、7合目から8合目の岩場の段差が続く区間で暗くなり、ヘッドライトを点けて登りました。約2時間かかり、休憩を何度も挟んだ一番つらい区間です。ツアーのガイドさんが「レンタルでも良いから絶対つけろ」と言っていた理由が、よく分かりました。
ご来光に向けて深夜2時半に歩き出した時は、人が多く、道幅2人分ほどの道が渋滞しました。進まない時間がつらかったのを覚えています。道がはっきりしていて登山者も多い富士山でさえ、暗闇の岩場はこたえる区間でした。
そのとき感じたのは、遠くを照らす強い光より、足元を自然に照らす配光のほうが歩きやすいということ。暗い段差では、次の一歩を置く場所が見えるかどうかがすべてです。ヘッドライト選びで迷っているなら、照射距離と中間モードの点灯時間をセットで見るのがおすすめです。
点灯したら、地図とスマホのGPSで現在地を確かめます。携帯が圏外でも、衛星の電波で位置を測ること自体はできます。ただし地図の画像は電波がないと取得できないので、入山前のダウンロードが前提です。
明るさは、中間モードを基本にするのがおすすめです。FL1表記の機種の例では、最大モードは2〜2.5時間ほどしか続きません。100ルーメン前後の中間モードなら、約7〜10時間持つモデルがあります。分岐やルート確認の時だけ強モードにすれば、電池を長持ちさせられます。
予備電池は、体温で温まる内ポケットへ入れておきます。アルカリ乾電池はメーカー推奨の使用温度が5℃以上で、秋冬の夜は不利です。−40℃まで使える1.5Vリチウム乾電池が有利ですが、ライトが対応しているかは説明書で確かめてください。
スマホは、GPSと救助要請の命綱です。ライト代わりに使うと肝心な時に電池が残らないので、照明はヘッドライトに任せましょう。
暗闇の落ち葉と分岐で道迷いしない歩き方
暗闇で道を外さないコツは、分岐と目印のたびに立ち止まり、迷ったら最後に目印を見た地点まで戻ることです。道迷いは令和7年の遭難で最も多い態様で、全体の30.9%を占めています。
秋は特に注意が必要です。落ち葉が登山道を覆って、踏み跡が消えやすい季節だからです。しかも頭につけたライトは光源と目の位置が近く、足元の凹凸の影が出にくいという弱点があります。
- 足元を照らしながら、一歩ずつ確実に踏み込む
- 時々立ち止まり、周囲を照らしてコースを外れていないか確かめる
- 赤テープ・標識・ペンキ印・ケルンを意識して探す
- 目印が見えなくなったら、最後に見た地点まで戻る
- 登山アプリと紙の地図・コンパスを併用して、予定ルートとのずれを確かめる
迷ったと感じたら、沢へは下らず、来た道を登り返すのが基本です。長野県警察山岳遭難救助隊は、救助されていない行方不明者が沢で見つかることが多いと注意を呼びかけています。警察庁も、闇雲に進まず、歩いてきた道を辿って正規の登山道まで戻るよう求めています。
複数人で下る時は、照らし方にも工夫ができます。後ろの人が上から下へ照らして、先頭の視界を広げる。先頭は振り返って下から上へ照らし、後ろの人の足元を助けます。
暗闇では、段差や濡れた岩、木の根も見落としやすくなります。遭難の態様では転倒が19.2%、滑落が17.3%と、道迷いに次ぐ多さです。急ぎたい気持ちは分かりますが、夜道では「速く」より「確実に」を優先してくださいね。
ビバークで一晩しのぐ最低限の装備と手順
ビバークで一晩しのぐ基本は、ツェルトで風雨を遮る空間を作り、その中でエマージェンシーシートにくるまる形です。どちらもなければ、レインウェアやザックで熱の逃げ道をふさぎます。ただし代わりの物は、あくまで代替だと考えてください。

ツェルトとエマージェンシーシートって、どっちか一つじゃダメなの?
防げるものがそれぞれ違うみたいなんですよ。役割の違いから一緒に見てみましょう。
うん、どっちを持っていけばいいのか、ちゃんと知っておきたいな。
| 項目 | ツェルト | エマージェンシーシート |
|---|---|---|
| どんな物か | 緊急用の簡易テント。被る・張るなど使い方を選べる | アルミ蒸着フィルムなどの薄いシート |
| 防ぐもの | 風・雨・雪を遮り、体の周りに小さな空間を作る | 体から放射される熱の損失を減らす |
| 重さの目安 | 約105〜585g | 約50〜115g |
| 注意点 | 使い方を練習していないと、いざという時に張れない | 単体では風でばたつき、破れやすい。風雨を遮る空間は作れない |
シートだけでは、風で体の周りの空気が入れ替わってしまいます。ツェルトで空間を作り、その中でシートにくるまると、組み合わせの効果が出るわけです。
止まる場所は、風が強い山頂や尾根の上、崩れそうな崖の下、増水しうる沢の近くを避けます。選ぶのは、平らで風雨が弱まる樹林帯の中や岩陰、くぼ地。避難小屋や山小屋が近ければ、そちらを優先します。
電波が届くかどうかも、場所選びの大事な条件です。家族への連絡や救助の要請ができる場所なら、それだけで打てる手が増えます。
ULでも削らないツェルトとエマージェンシーシート
UL志向の僕の考えでも、ツェルトとエマージェンシーシートは削らない側の装備です。軽いものを選べば、2つ合わせて約150〜170g程度。ヘッドライトを足しても、300g前後に収まります。
モンベルの公式の登山装備ガイドは、日帰り登山でもヘッドランプ・救急セット・エマージェンシーシートを必携としています。神奈川県警察も、一般携行品にヘッドランプやツェルト、ホイッスルを挙げています。
国立登山研修所のテキストが挙げる軽量化も、減らす対象はあくまで「不要な」荷物です。削るなら、着替えの枚数や重複する防寒着から。安全装備は、同じ機能のより軽い物に置き換えるのが筋かなと思います。
最小セットの目安をまとめると、次のとおりです。
| 装備 | 役割 | 重さの目安 |
|---|---|---|
| ヘッドライト+予備電池 | 移動・設営・救助への合図 | 約50〜100g |
| エマージェンシーシート | 体から放射される熱の損失を減らす | 約50〜115g |
| ツェルト | 風雨を遮る空間を作る | 約105〜280g(座って被るソロ用〜横になれる1人用) |
| 防寒着とレインウェア上下 | 保温と、風・雨を防ぐ層 | ― |
| 行動食の残りと水 | 体で熱を作る材料 | ― |
| スマホ+モバイルバッテリー、ホイッスル | 連絡と合図 | ― |
ここから紹介する2つは、僕自身がビバークで使ったものではありません。メーカーや販売店の公式情報をもとにした紹介です。
軽量なツェルトの例だと、アライテントの「ビバークツェルト ソロ」が105g(公式・税込8,250円/2026年9月時点)。設営時の大きさは80×70×90cmで、寝転べる長さはありません。座って頭から被る使い方が前提のサイズです。
横になりたいなら、全長200cm以上のツェルト1クラスが目安。そのぶん重さは増えるので、軽さと快適さのどちらを取るかの選択になります。
張る場合は、トレッキングポール2本・ペグ・張り綱を使います。底をペグで固定し、ポールで天井を支え、張り綱で補強する順番です。風が強い時は無理に張らず、頭から被って座る「被り方式」に切り替えます。
アライテントは「ツェルトは『おまもり』ではない」として、買ったら家で使い方を練習するよう求めています。持っているだけで安心せず、一度は家で広げてみるのが大事だと僕も思います。
アライテント ビバークツェルト ソロ
105gの座って被るタイプ。寝転べる長さはないので、使い方を家で試してから山へ
価格目安:8,250円(税込・2026年9月時点の公式価格)
エマージェンシーシートは、軽いものなら約50gからあります。SOLの「ヒートシート エマージェンシーブランケット(1人用)」は、142×213cm・82g。体が放射する熱の90%を反射するとうたわれています(輸入元・販売店の表記)。
SOL ヒートシート エマージェンシーブランケット(1人用)
82gで142×213cm。ツェルトの中でくるまる使い方と組み合わせたい1枚
持っていない時の代替と一晩冷えない過ごし方
ツェルトやシートがなくても、着込む・地面から離れる・風を止める・食べ続けるの4つで熱の逃げ道をふさぎます。どれも代わりの手段にすぎず、夜の冷え込みや雨風があれば低体温症のリスクは残ります。
一晩を過ごす手順は、次のとおりです。
- 着られる物はすべて着込み、首・頭・手足の先を覆う。濡れた服は、乾いた着替えがあれば交換する
- 地面に直接座らず、ザック・マット・枯れ葉などを敷いて地面から離れる
- 防寒着の上からレインウェア上下を着て、風を止める
- ザックカバーやゴミ袋、パックライナーを体に巻く・下に敷く
- 空にしたザックに足を入れ、体を丸めて冷える面積を小さくする
- 行動食と水を少しずつとり、熱を作る材料を切らさない。ただし意識がぼんやりして、うまく飲み込めない人には無理に口に入れない
- 複数人なら身を寄せ合い、眠り込まないよう互いの様子を見る
注意したいのは、雨具は防寒具ではないという点です。トムラウシ山遭難事故の調査報告書が、そう明記しています。薄い服1枚の上に直接雨具を着ると、強風で肌との間の空気の層がほとんどなくなるからです。(出典:日本山岳ガイド協会『トムラウシ山遭難事故調査報告書』)
同じ報告書では、雨具の下にフリースを重ね着したことが、自己判断でビバークした参加者の生還理由の一つに挙げられています。防寒着は、持っているだけでなく早めに着ることが大切なんですよね。
僕も槍ヶ岳の2日目は雨で寒く、フリースかインナーダウンが欲しくなりました。友人のジャケットを借りてしのいだ、ちょっと恥ずかしい失敗談です。
富士山でも、登り始めは暑かったのに、8合目あたりでは5℃以下まで冷え込みました。ご来光を待つ間は本当に寒く、止まっている時の冷えは歩いている時とは別物です。
目安として、松本の平年値から換算した涸沢(標高約2,300m)の10月の日最低気温は、概算で約−1.8℃です。ここに風が加わると、体感はさらに下がります。
震えが活発で意識がはっきりしているうちは、軽度の段階です。暖まらないまま震えが止まるのは、軽くなったのではなく悪化のサイン。意識が鈍ってきたら、迷わず救助を要請してください。
通報すべき?迷ったら早めに家族・警察へ連絡
遅れが見えた時点で家族へ、自力で下りられないと判断した時点で110番か119番へ。迷ったら早めに連絡するのが基本です。救助ヘリが活動するのは基本的に日の出から日没までなので、明るいうちの判断ほど救助の選択肢が多く残ります。

でも、ケガもしてないのに通報したら、大げさだと思われないかな?
そこ、気になりますよね。ためらって暗くなるほうが、救助は難しくなるみたいですよ。
そっか。じゃあ誰に、いつ連絡するのかを整理しておこう!
連絡の段取りを、状況ごとにまとめました。
| 状況 | 連絡先 | 伝えること |
|---|---|---|
| 遅れが見えた(まだ明るい) | 家族・下山連絡先 | 遅れる見込み、現在地、下るか止まるかの予定 |
| オンラインで登山届を出している | コンパスなどの登山届システム | 下山通知や予定の変更 |
| 山小屋が近い | 山小屋 | 到着が遅れること、泊まれるかどうか |
| ビバークを決めた(けがなし) | 家族(電波があれば) | 朝まで留まること、翌朝の行動予定 |
| 自力で下山できない・道が分からない・けが | 110番(警察)か119番(消防) | 「山岳遭難です」、場所、人数、けがの有無、装備 |
令和7年の遭難では、76.3%が現場から携帯電話や無線機で救助を要請しています。一方で、約4件に1件は現場から通信手段が使われていません(圏外や電池切れなどを含む)。電波が入るうちに連絡しておく意味は大きいですよ。
110番は警察、119番は消防につながり、どちらに通報しても関係機関で情報が共有されます。家族経由の通報は位置の特定に時間がかかるため、できれば本人から直接かけるのが望ましいとされています。
日帰り低山でも遭難扱いになる?通報の目安
はい、自力で下りられずに救助を求めれば、けががなくても遭難として扱われます。警察庁の統計でも、令和7年の遭難者3,623人のうち50.0%は無事に救出された人でした。遭難は「大けがをした人」だけの話ではないんです。
低山も例外ではありません。令和7年は、高尾山などで遭難者が過去5年平均より増えています。長野県警の山岳通信も、例年秋に起きる遭難への注意を呼びかけています。日帰りの予定でも日没になり、ライトがなく道に迷って動けなくなるケースです。
通報を考える目安は、「自分では対処できない」と感じた時です。埼玉県警は、まず落ち着いて状況を把握し、自力で対処できなければ110番で救助を要請するよう案内しています。そのうえで、無理にその場を動かず救助を待つのが基本です。(出典:埼玉県警察『登山の基本』)
通報を考えたいサイン
道が分からず、来た道にも戻れない。けがや体調不良で自力で歩けない。ライトがない、または電池が切れて動けない。震えが弱まる・意識がぼんやりするなど低体温症のサインが出た。どれか1つでも当てはまれば、通報を考える段階です。
山岳医療救助機構も、ためらうと日暮れで救助が難しくなるとして、夜間でも必要なら迷わず要請するよう勧めています。判断に迷う時点で、すでに通報を考えてよい段階なのかなと思います。
通報では、最初に「山岳遭難です」とはっきり伝えます。次に場所です。GPSの緯度経度が分かればそれを伝え、尾根か樹林か、目印からの所要時間なども添えます。途中で電波が切れても、場所さえ伝わっていれば早く探してもらえます。
要請したら、原則として現在地から動きません。スマホは胸や腹に入れて温め、電話は救助隊とのやり取りだけに使います。ホイッスルは10秒間隔で1回を1分間吹いて1分休む、の繰り返しが合図。ライトの点滅も同じパターンで使えます。
救助を要請したあとは、通報先の指示に従ってください。自己判断で移動すると、捜索の範囲から外れてしまうことがあります。
ビバーク明けの翌朝は連絡してから動く
ビバーク明けは、明るくなってから現在地を確かめ、家族や救助隊に連絡してから動くのが順番です。連絡なしに動くと、救助隊があなたを見つけられなくなります。
- 行動食と水をとり、体を温めてから動き出す
- 地図とGPSで、明るい中で現在地を確かめる
- 電波があれば家族へ連絡する。救助を要請していたら救助隊と連絡を取り、自力で下りられるなら要請を取り下げる
- 救助を要請している間は、原則その場で待つ。移動するなら救助隊の指示に従う
- 自力で下る時も、道迷いが原因なら沢は下らず、分かっている道まで登り返す
- 下山したら、登山届の下山通知と家族への無事の連絡を忘れずに出す
夜のうちに要請していれば、朝になってヘリが飛ぶこともあります。尾根や開けた場所は上空から見つけやすく、ヘリの音が聞こえたらあきらめずに何度も合図を送ります。近づくのは、パイロットや隊員の合図を待ってからです。
オンライン登山届のコンパスは、下山予定時刻を過ぎても下山通知がないと、3時間ごとに本人へ督促メールを送ります。7時間を過ぎると、緊急連絡先に「下山未確認」のメールが届く仕組みです。
ただし、警察へ自動で知らせる仕組みではありません。家族を不安にさせないためにも、動ける状態になったら自分から連絡を入れておきたいですね。
下山予定時刻は日没2時間前|引き返す時刻も決める
同じ状況を招かないためには、下山予定時刻を日没の2時間前に置くのが基本です。そこから逆算した「引き返す時刻」も、出発前に決めておきます。現場での判断を軽くしてくれるのは、結局のところ計画です。

日本気象協会(tenki.jp)の山岳コラムは、下山を日没の1〜2時間前としています。難易度の高い山は2時間前、整備された里山は1時間前という使い分けです。迷ったら早いほうを取っておけば、多少の遅れも吸収しやすいですよね。コースタイムの一般的な目安でも、下山予定は「遅くとも日没の2時間前」とされています。
コースタイムに休憩が含まれていない点も要注意です。僕がジャンダルムを越えた日は、歩いた時間6時間4分に対して、休憩が5時間18分ありました。ご来光待ちや山頂での長い滞在を含むとはいえ、行動時間は歩いた時間の倍近くまで膨らんだことになります。
引き返す判断は、出発前に決めておくほど迷いません。槍ヶ岳の2日目は、予報が「曇のち雨のち雷雨」でした。ご来光登頂はやめ、小雨のタイミングを見て7時に出発。ひどかったら撤退する前提で山頂へ向かい、強風と雨の中で記念撮影だけして下りています。
登山届には、下山予定時刻とエスケープルート、ヘッドランプやツェルトの有無も書いておきます。捜索する側が「どれだけ持ちこたえられるか」を判断する材料になるからです。家族にも「この時刻までに連絡がなければ警察に相談して」と、具体的な時刻を伝えておきましょう。
秋の日没は10月で40分早まる|引き返す時間を逆算
秋は、10月の1か月だけで日の入りが約40分早まります。9月初めから11月末までの3か月では、約1時間40分。夏と同じ計画で歩くと、同じ山でも日没に食い込みやすくなるんです。
| 日付(2026年) | 東京の日の入り | 下山予定の目安(日没2時間前) |
|---|---|---|
| 9月1日 | 18時09分 | 16時09分ごろ |
| 9月15日 | 17時49分 | 15時49分ごろ |
| 10月1日 | 17時26分 | 15時26分ごろ |
| 10月15日 | 17時06分 | 15時06分ごろ |
| 10月31日 | 16時47分 | 14時47分ごろ |
| 11月15日 | 16時35分 | 14時35分ごろ |
| 12月1日〜10日 | 16時28分 | 14時28分ごろ |
表は、国立天文台の暦計算室による東京の時刻です。地平線まで見通せる前提で計算されていて、近くの山は考慮されていません。東斜面や谷筋、樹林帯では表より早く暗くなるので、実際にはさらに早めの計画が安心です。(出典:国立天文台 暦計算室『日の出入り 東京 2026年10月』)
地点が変わると、時刻も数分〜数十分ずれます。山行先の時刻は、国立天文台の公式サイトで地点を指定して確認してください。
僕も2021年10月6日、前穂高岳から奥穂高岳を越えて、穂高岳山荘のテント場へ向かいました。奥穂高岳の山頂を出たのが16時21分、テント場に着いたのは17時04分です。その夕方には、雲海に沈んでいく夕日を写真に撮っていました。
山荘まで40分あまりの区間だったから成り立った行程です。もし長い下りが残っていたら、日没と競走になる時刻でした。
引き返す時刻は、次の順番で逆算します。
- 山行先の日の入り時刻を調べ、2時間引いて下山予定時刻を決める
- 下りのコースタイムに、自分のペースの倍率を掛ける(子ども連れは1.5〜2倍が目安)
- 休憩・写真・食事の時間を足す(コースタイムは休憩を含まない)
- 下山予定時刻から、下りの所要時間と休憩を引く。これが山頂を出るべき時刻
- その時刻を過ぎたら、登頂前でも引き返す
例えば、日の入りが16時35分の日なら、下山予定は14時35分です。下りに自分のペースで2時間、休憩を30分見るなら、12時05分が山頂を出る時刻。これを過ぎたら、山頂が目の前でも引き返します。
tenki.jpの山岳コラムには、「計画した行動時間の半分を過ぎたら、山頂手前でも引き返す」という考え方もあります。登山アプリの到着時刻予測や歩行ペース表示を使えば、途中の通過点ごとに遅れをつかめます。
秋は日の出が遅く寒いので、夏より歩き出しが遅くなりがちです。紅葉シーズンは、登山道の渋滞や写真撮影でも時間が延びます。夏より1〜2時間前倒しの計画にしておくと、日没に追われにくくなるかなと思います。
登山で日没に間に合わない時のよくある質問
登山のヘッドライトは何ルーメンあれば夜道を歩ける?
ナイトハイキングを実践する人の目安では、90〜100ルーメンでも歩けますが、少し暗く感じるそうです。200ルーメン以上がすすめられています。ただしルーメンは光の総量で、遠くまで届くかは配光で変わります。モンベルは照射距離を最低30m、夜間行動が必要なら50m以上を目安にしています。明るさだけでなく、中間モードでの点灯時間も確かめて選ぶと安心です。
山でスマホの電池を長持ちさせるには?
圏外では、スマホが電波を探し続けて電池を大きく消費します。機内モードにすればこれを防げて、GPSの測位自体は機内モードでも使えます(iPhoneはiOS 8.3以降)。ただし位置の共有は止まるので、電波の良い場所で戻す使い方になります。寒さで電源が落ちやすいので、体に近い内側のポケットで保温してください。カイロを直接当てると熱くなりすぎるので避けます。予備には、10,000mAh以上のモバイルバッテリーが推奨されています(ヤマレコ公式)。
山で救助を呼んだら費用はかかる?
警察・消防による山岳救助は公費で行われ、本人に費用が請求されることは一般的にありません。例外は埼玉県です。指定の6区域で県の防災ヘリに救助された場合、飛行時間5分ごとに8,000円の手数料がかかります(令和6年4月から)。民間の救助隊やヘリが関わると費用が発生するので、山岳保険への加入も検討しておくと安心です。費用を気にして通報をためらうのは避けてください。
山小屋への到着が日没に間に合わない時はどうする?
遅れが見えた時点で、電話がつながれば山小屋に到着の遅れを伝え、泊まれるかを確かめます。山小屋泊は、午後3時前の到着が原則とされています。避難小屋や山小屋が近いなら、ビバークより小屋へ向かうのが優先です。ただし小屋までの道に岩場や沢筋が残るなら、無理に進まず止まる判断も必要になります。家族への連絡も忘れずに入れておきましょう。
ソロ登山で日没に遅れそうな時、特に気をつけることは?
単独登山は、遭難した時のリスクが高くなります。令和7年の統計では、単独の遭難者のうち死者・行方不明者の割合は15.3%でした。複数登山の5.5%より、9.8ポイント高い数字です。ひとりだと互いの様子を見合えないぶん、早めの判断と連絡がより大事です。登山アプリの位置共有(見守り)機能を家族と設定しておくと、帰りを待つ側も状況をつかみやすくなります。圏外では位置が送られないので、電波が入るうちに一報を入れておきましょう。
まとめ:日没に間に合わないなら1時間前に決める
暗くなる前に決めるのが、いちばん大事なんだね。
そうなんです。止まれる装備と連絡の段取りがあれば、焦らずに選べるはずですよ。
登山で日没に間に合わない時は、暗くなる前の判断がすべての出発点です。要点を振り返っておきます。

- 判断の締め切りは日没の1時間前。「今いる場所・残り時間・持っている装備」の3つで決める
- 3つすべてが下る側にそろった時だけ、ライトを点けて下る。岩場や沢筋が残るなら止まる
- 暗くなったら、まず止まって点灯・現在地確認。迷ったら沢へ下らず来た道を登り返す
- ビバークはツェルトの中でエマージェンシーシートにくるまる形が基本。ULでも削らない
- 遅れが見えたら家族へ、自力で下りられなければ110番か119番へ。翌朝は連絡してから動く
- 次回は下山予定を日没2時間前に置き、引き返す時刻を出発前に決める
この記事の時刻や数値は、あくまで一般的な目安です。山の状況は天候や体調で大きく変わるので、最新の情報は各県警や国立天文台などの公式サイトで確認してください。不安がある山行は、山岳ガイドなど専門家に相談するのも一つの方法です。
ULで軽さを追うのは楽しいものですが、「止まれる装備」と「引き返す時刻」は軽さと引き換えにできない部分です。明るいうちに決めて、無事に下りてきてくださいね。
行動時間が延びて山で夜を迎える可能性があるなら、トイレの備えも事前に確認しておきましょう。
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