こんにちは、YAMA-GO編集部のりょうです。関西を拠点に、北アルプスを中心にULスタイルで山を楽しんでいます。このブログ「YAMA-GO」では、実際に使ったギアのレビューや選び方、山のノウハウなんかを発信しています。
ゴアテックスの登山靴を買ったものの、防水スプレーまでかけるべきか迷っていませんか。「ゴアテックスなら要らない」という声もあれば、「かけないと濡れる」という声もあります。正直けっこう迷いますよね。
かけたら蒸れて、せっかくの透湿性が落ちるのでは?という不安もあると思います。僕自身、終日雨の槍ヶ岳をゴアテックスの登山靴で下ったことがあり、そのときの体験が今回の話の出発点です。
この記事では、その体験とゴアや靴メーカーの公式な説明をもとに、スプレーが要る理由と要らない理由を整理しました。蒸れない選び方から、かけるタイミング、安全な吹き方まで順番に見ていきます。
- ゴアテックス登山靴に防水スプレーが「要る・要らない」の本当の答え
- メンブレンが無事でも足が濡れたと感じる仕組みと、原因の見分け方
- 透湿性を落とさないスプレーの選び方と、フッ素・シリコンの違い
- かけるタイミング・手順・安全な吹き方と、寿命を疑うサイン
ゴアテックス登山靴に防水スプレーは必要?結論から
結論から言うと、防水のためのスプレーは不要ですが、表地の撥水(DWR)を保つためのスプレーは必要です。靴の中に水を入れないのは、内側のゴアテックス膜の仕事。スプレーをかけても、膜の防水性が上がるわけではありません。

スプレーの本当の役目は、表地に水を吸わせないことです。表地が水を吸うと透湿が止まり、蒸れて「濡れた」と感じやすくなります。つまりスプレーは、防水ではなく快適さを守るための手入れなんです。
ネットで「要る」「要らない」の意見が割れるのは、話している対象が違うからです。「要らない」派はメンブレンの防水を、「要る」派は表地の撥水を指しています。この2つを分けて考えると、迷いはかなり減るかなと思います。
防水はメンブレンが担い、スプレーは表地の撥水用
ゴアテックスの登山靴は、役割の違う2つの層でできています。水を通さない防水透湿の膜(メンブレン)は、靴の内側のライニングにあります。その外側にある革や合成繊維の表地には、水を玉にして弾く撥水加工がされています。
LOWAの公式説明でも、ゴアテックスのライニングは靴の内側にあり、表地の手入れとは直接関係しないとされています。一方で同じLOWAは、ゴアテックスの靴でも素材に応じた洗浄や撥水処理が定期的に必要だとも書いています。防水は膜、撥水は表地と、担当がはっきり分かれているわけです。
ちなみに膜が水を通さないのは、孔の大きさに理由があります。従来のePTFEメンブレンについてのゴアの説明では、孔は水滴の2万分の1ほどで、水蒸気の分子の700倍以上の大きさ。雨粒は通さず、汗の水蒸気は外へ逃がせる仕組みです。
| 防水 | 撥水 | |
|---|---|---|
| 意味 | 裏側に水を通さない | 表面で水を玉にして弾く |
| 担う部分 | 内側のメンブレン | 表地の撥水加工(DWR) |
| スプレーで変わるか | 変わらない | 落ちたら回復できる |
| 落ちる・失われる原因 | 使用による穴・裂けなどの損傷 | 歩くうちの摩耗、泥や皮脂の汚れ |
市販の「防水スプレー」も、多くは表面に撥水樹脂を付ける撥水剤です。名前に防水とあっても、メンブレンの代わりにはなりません。スプレーは「表地の撥水を戻す道具」と考えると、すっきり整理できます。
もう一つ知っておきたいのが、ゴアテックスの製品保証の範囲です。ゴアの保証は、耐久撥水(DWR)の低下を対象外にしています。撥水を保つのは使う側の手入れ、というのが公式の整理なんですね。
終日雨の槍ヶ岳でもGTX靴は浸水ゼロだった
僕がこの役割分担を実感したのは、2018年8月の槍ヶ岳です。新穂高温泉から1泊2日で登り、2日目の予報は「曇のち雨のち雷雨」でした。山頂へは小雨の合間に往復し、強風と雨で記念撮影だけして下りています。
そこからの下山は、まさに終日雨。槍ヶ岳山荘から新穂高温泉まで、休憩込みで6時間45分を雨の中で歩きました。それでも、履いていたキャラバンのゴアテックス靴は靴の中への浸水が一切ありませんでした。
モデルはC1_02Sで、当時1万5,000円以下で買えた入門モデルです。高価な靴でなくても、膜が健在なら丸一日の雨に耐えてくれる。本格的に何度も通うのでなければ十分、というのが正直な感想です。
ただ、この1回だけで「スプレーは要らない」とは言えません。雨の中で靴の中が守られたのは、メンブレンの防水が働いたからです。表地の撥水が切れていれば、同じ雨でも蒸れて「濡れた」と感じる可能性はあります。その仕組みを次の章で見ていきます。
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終日雨の槍ヶ岳を、浸水なしで下りきれたゴアテックス搭載の入門モデル
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ゴアテックスなのに足が濡れる原因は撥水切れ
ゴアテックスの靴で足が濡れたと感じたら、まず疑いたいのは膜の破れではなく汗と透湿のバランスです。ゴアテックスは汗が出る速さ以上には水蒸気を外へ逃がせず、そこへ表地の撥水が切れて水を吸うと透湿がさらに止まり、汗が靴の中にこもります。もう一つが履き口からの浸入で、メンブレンの損傷は最も可能性が低いとされています。

ゴアテックスって水を通さないんでしょ?なのに足が濡れることがあるの?
そう思いますよね。膜が破れていなくても、濡れたと感じることはあるみたいですよ。
へえ、不思議だね。靴の中で何が起きてるんだろう?
仕組みを順番に、一緒に見ていきましょう。
表地が水を吸うと透湿が止まり汗が結露する
ゴアテックスの透湿は、靴の中の水蒸気が膜を通って外へ抜けることで成り立っています。ところが表地が水を吸ってびしょびしょになると、その出口がふさがれてしまいます。アークテリクスは、表地が水で飽和したこの状態を「ウェットアウト」と呼んでいます。
靴の中で起きることを順番に並べると、次のようになります。
- 歩くうちに、表地の撥水が摩耗や泥汚れで落ちる
- 雨や朝露の草、ぬかるみで、表地の生地や革が水を吸う
- 濡れて水の膜ができた表地は、水蒸気を通さなくなる
- 足の汗が外へ出られず、冷えた表地側で結露する
- 靴下が湿り、「浸水した」と感じる
ニクワックスも、表地の生地や革が水を吸うと靴の透湿性は低下すると説明しています。膜は水を通していないのに、中はじっとり。これが「ゴアテックスなのに濡れた」の正体です。
足の裏は汗腺が多い部位で、両足で1日にコップ1杯ほど(約200ml)の汗をかくといわれます。あくまで目安ですが、行き場を失えば靴下が湿るには十分な量です。ゴアテックスでも、汗が作られる速さ以上には外へ出せないとされています。
夏山を歩くと、汗の量の多さは毎回実感します。汗の量そのものは撥水では減らせませんが、表地を濡らさなければ、透湿まで止まって蒸れが悪化するのは防げます。撥水を保つのは、雨対策であると同時に汗対策でもあるわけです。
ゴアも靴の表地には、水を吸い上げない素材であることを求めています。表地が水を運んでしまうと、ライニングの内側へ水が回りやすくなるためです。表地を乾いた状態に保つことは、靴づくりの段階から重視されているわけですね。
撥水切れか履き口か、原因を潰す順番
足が濡れたと感じたら、靴を疑う前に濡れ方を観察してみてください。どこから、どんなふうに濡れたかで、原因はかなり絞り込めます。下の表の上から順に確認していくのがおすすめです。
| 確認すること | こんな状態なら | 疑う原因 |
|---|---|---|
| 表地の色・重さ | 表地が濃く変色し、靴が重い | 撥水切れ(表地が水を吸っている) |
| 濡れ始めの場所 | 靴下の上部(足首・すね側)から濡れている | 履き口からの浸入 |
| 濡れの広がり | 足全体がじっとり湿る、指先側だけ冷たい | 汗の結露 |
| 毎回同じ場所か | 屈曲部やかかと内側の一点が毎回濡れる | メンブレンの損傷(最後に疑う) |
履き口からの浸入は、意外と見落としがちです。足首やすねの靴下が雨や濡れた草の水を吸い、靴の中へ運んでしまいます。レインパンツの裾を靴にかぶせる、ゲイターを着けるといった対策が効く部分です。
僕は富士山の下山で、砂利対策にゲイターがあった方が無難だと感じました。ゲイターは小石だけでなく、履き口から入る水を減らすのにも役立ちます。撥水の手入れとあわせて、足首まわりの備えも見直してみてください。
メンブレンの損傷を最後に回すのには理由があります。ゴアは公式の試験で、試作靴を最大20万回(約400km相当)曲げています。水を満たして高速回転させ、微小な穴を探す試験もあります。新品や使い始めの靴に穴が開いている可能性は低い、と考えてよさそうです。
「濡れた=膜が破れた」と即断せず、撥水切れ→履き口→汗の結露→膜の損傷の順に確認しましょう。
防水スプレーで透湿性は落ちる?蒸れない選び方
靴に使える撥水スプレーなら、透湿性を大きく落とす心配は少ないと考えてよさそうです。メーカーが透湿性に影響するとして避けるよう案内しているのは、ワックスやグリス、オイルのように表面をふさぐもの。選ぶときは、樹脂の種類より先に「靴に使える」表示を確認するのがいいかなと思います。

スプレーをかけたら、靴が息できなくなって蒸れたりしないの?
そこ、気になりますよね。何を塗るかで違うみたいですよ。
塗るものによって違うんだね。一緒に確かめてみよう!
撥水スプレーは透湿を保ち、塗膜型の防水は蒸れる
ゴアの公式な靴の手入れ方法では、撥水の再施工に水性のスプレーを使うよう案内しています。同時に、撥水ワックスやグリスは靴の透湿性に影響する可能性があるので使わないように、とも書いています。(出典:GORE-TEX公式『フットウェアのお手入れ方法』)
LOWAも、純粋なオイルやグリスは革を柔らかくしてほぼ防水にするものの、革の孔をふさぐと説明しています。その結果、靴の安定性と透湿性が失われるので使わない、という指示です。表面を膜でふさぐタイプの防水剤は、ゴアテックスの靴とは相性が悪いと覚えておきましょう。
革の登山靴だと、昔ながらの防水ワックスやクリームを厚く塗りたくなるかもしれません。でもゴアテックスの靴では、せっかくの透湿を自分でふさぐことになりかねません。
| 種類 | ゴアテックス登山靴への使用 | 理由 |
|---|---|---|
| 靴用の撥水スプレー(水性など) | 使える | ゴアが靴の撥水の再施工に水性スプレーを案内 |
| 撥水ワックス・グリス・オイル | 避ける | ゴア・LOWAが透湿性を損なうとして使わない指示 |
| ウェア用の撥水スプレー | 表示を確認 | 布靴・皮革を対象外とする製品がある |
見落としやすいのが、ウェア用スプレーの流用です。たとえばモンベルのO.D.メンテナンス はっ水スプレーは、防水透湿素材の性能を損なわないと表示しています。その一方で、皮革・人工皮革・布靴・靴のゴム底は使えない素材に挙げられています。
レインウェアの手入れ用が手元にあっても、そのまま靴に使わないのが無難です。「靴(布・革)に使える」と書かれているかを先に確かめてください。
フッ素とシリコンどっち?フッ素は剥がれやすい
撥水スプレーの樹脂は、大きくフッ素系とシリコーン系に分かれます。泥や皮脂、地面の油分にさらされる登山靴なら、水も油もはじくフッ素系のほうが汚れで撥水が落ちにくいと考えられます。ただしフッ素系は摩擦で剥がれやすいので、こまめにかけ直す前提です。
東京都の報告書の整理をもとに、2つの違いを表にまとめました。
| 項目 | フッ素系 | シリコーン系 |
|---|---|---|
| はじくもの | 水と油 | 水(油はほぼはじかない) |
| 持ちのよさ | 摩擦で剥がれやすい | 剥がれにくく長持ち |
| 見た目への影響 | 変色は少ない | 白っぽくなる・変色する場合がある |
| 吸い込んだとき | 肺に悪影響あり | フッ素ほどではないが悪影響あり |
| 登山靴との相性 | 皮脂など油汚れもはじく。剥がれやすく、早めのかけ直しが前提 | 長持ちするが、油汚れで撥水が落ちやすい |
「シリコン系は透湿性をつぶす」という説明も、ネットではよく見かけます。ただ、公的な整理やメーカーの公式な文言では、そこまでは確認できませんでした。シリコーン系だから即ダメ、と決めつけなくて大丈夫です。
樹脂の種類と同じくらい大事なのが、靴の素材との相性です。ナイロンメッシュなどの合成繊維が主体か、ヌバック・スエードか、表面がなめらかなスムースレザーかで、合う製品が変わります。LOWAも、アッパーの素材に応じて手入れや撥水処理をするよう案内しています。
もう一つの流れが、フッ素不使用(PFASフリー)への切り替えです。PFASは有機フッ素化合物のことで、規制の動きを受けてアウトドアメーカーの撥水剤は非フッ素化が進んでいます。靴用品メーカーの汎用スプレーにもフッ素系とフッ素不使用の両方があるので、成分表示で確認してください。
ゴアの指定どおり水性で、PFASフリーのものを選ぶなら、ニクワックスのファブリック&レザープルーフが一例です。布と革の両方に使える水性・不燃の撥水剤で、清潔で濡れた靴に約15cmの距離からスプレーします。淡い色の生地や革は濃く変色することがあるので、目立たない所で試してから使ってください。
非フッ素系は皮脂などの油汚れに弱いぶん、洗ってから施工すること、こまめにかけ直すことがより大事になります。どちらを選ぶにしても、「靴に使える」表示と自分の靴の素材に合うかが最優先ですよ。
ニクワックス ファブリック&レザープルーフ
布と革の登山靴に使える、水性・PFASフリーの撥水剤。洗った後の濡れた靴に吹き付けるタイプ
関連記事:100均の防水スプレーは登山靴に使える?専用品との違い
関連記事:アメダス防水スプレーは登山靴に使える?効果と使い方
新品時と山行後、頻度は水滴テストで決める
新品の登山靴へのスプレーは必須ではありませんが、革の靴なら最初の山行前に撥水をリフレッシュしておくのは理にかなった予防策です。その後は回数で決めず、山行後に水を垂らし、玉にならず染み込んだらかけ直すのが目安になります。

新品について、LOWAは「最初の山行前に追加の手入れは不要だが、革の撥水をリフレッシュするのは理にかなう」としています。「新品に最初にかけないと水が染みる」という話もありますが、防水を担うのはメンブレンなので誤解です。
山行後の判断基準は、ゴアが案内している水滴テストがシンプルです。乾いた靴の表地に水を垂らし、玉になって転がれば撥水は生きています。玉にならず吸い込まれるようなら、かけ直しのサインです。
頻度の数字は、ゴアは示していません。LOWAはレザーの撥水について、効果は約3週間で落ちてくるので次の山行の前にかけ直すのがよい、としています。山へ行く回数が多い人ほど、山行ごとにテストする習慣をつけると安心かなと思います。(出典:LOWA公式『Care tips』)
山行後の手入れの流れ
泥を落とす → 汚れていれば洗う → 陰干しで乾かす → 水滴テスト → 弾かなければ製品の表示どおりの状態(乾いた靴/濡れた靴)でスプレー → しっかり乾かしてから次の山行へ
洗って陰干し後にスプレー、ドライヤーの熱はNG
スプレーは、汚れを落としてからかけるのが大前提です。泥や皮脂の上からかけても、撥水剤は定着しません。ゴアの手順も「洗う→乾かす→撥水を再施工」の順番になっています。
ゴアの公式な洗い方は、次の4つの工程です。
- 靴ひもを外し、中の砂や小石を振り落とす(できればインソールも外す)
- スポンジやブラシで泥を落とし、ぬるま湯と少量の液体洗剤でブラッシングして、よくすすぐ
- 直接熱を当てず、適度な温度で自然乾燥させる
- 水が玉にならなくなっていたら、撥水スプレーをかける
洗うときは、漂白剤やシミ抜き剤を使わず、洗濯機にも入れないようにします。革の靴は、メーカーの指示を優先してください。濡れたまま長く放置しないことも、ゴアの注意点の一つです。
乾かし方で気をつけたいのが熱です。ウェアの撥水回復では、乾燥機やアイロンの熱で撥水を立ち上げる方法が案内されることがあります。ネットでは、これを登山靴に当てはめてドライヤーを勧める記事も見かけます。
でも靴については、ゴア自身が「直接熱を加えない」と書いています。LOWAは日なたや暖房器具のそば、高温の車内に置かないよう案内し、濡れた革は焼けて修復できない亀裂が入るとしています。ニクワックスも、急速に乾かすと革が割れると注意しています。
接着剤への影響も気になるところです。スカルパはクライミングシューズについて、熱で接着する接着剤で組み立てていると説明しています。そのため高温の車内では、剥がれが起きると明言しています。登山靴で同じ温度の目安を公表しているメーカーは見つかりませんでしたが、ソールを接着で組み立てる作りが主流なのは同じです。
温風を直接当てる、ストーブのそばに置くのは避けましょう。早く乾かしたいときは、ゴアも使ってよいとしている送風式(対流式)のブーツドライヤーが選択肢になります。それ以外は、風通しのよい日陰でじっくり乾かすのが基本です。
スプレーをかけるときの靴の状態は、製品のタイプによって違います。
| タイプ | かけるときの靴の状態 |
|---|---|
| 汎用の靴用防水スプレー(溶剤系) | 乾いた清潔な靴 |
| 溶剤系の含浸スプレー(LOWAなど) | 少し湿った革(効果は約24時間後に最大) |
| 水性の含浸スプレー(LOWAなど) | 乾いた革にも使える |
| ニクワックスの水性撥水剤 | 清潔で濡れた靴 |
乾いた靴にかけるものが多い一方で、水性剤には濡れた状態でかけるものもあります。吹き付けは約15cmの距離から、ムラなく薄く。乾かしながら何層にも薄く重ねるのがコツで、最終的には手元の製品の使い方表示に従ってください。
関連記事:登山靴の撥水スプレーの選び方|防水との違いとかけ方
玄関で吹かない。吸入事故の6割は靴用
防水スプレーは、玄関など屋内で吹かないでください。東京都の報告書では、東京消防庁が救急搬送した吸入事故(18件)の使用対象は靴が61%で最も多く、使用場所の77%が屋内でした。日本中毒情報センターへの相談事例でも、靴用スプレーが半数近くを占めています。靴にスプレーする場面こそ、いちばん事故が起きやすいわけです。(出典:東京都商品等安全対策協議会『防水スプレー等の安全対策』報告書(2021年3月))
同じ報告書によると、2015〜2019年の5年間に集まった吸入事故の事例は412件。都民アンケートでも、ヒヤリとした場所は「玄関(室内)」が35.1%で最多でした。
怖いのは、吹いた本人だけの問題ではないところです。被害の36%は家族など本人以外で、玄関先で靴に吹いたあと、家族にも咳き込みが出た事例も報告されています。症状は咳や息苦しさのほか、吐き気やめまいが出ることもあります。
スプレーを吹くときの注意
風通しのよい屋外で、風上から吹くのが基本です。屋外でも事故は起きているので、風下から吹かないようにします。車内や浴室など閉め切った場所、人や顔の近く、幼児やペットのいる所では使わないでください。
フッ素系もシリコーン系も、吸い込めば肺に悪影響があるとされています。咳や息苦しさが続くようなら、無理をせず医療機関に相談してください。手入れは天気のよい日に、屋外の風上でまとめて済ませるのが安心ですよ。
撥水を戻しても濡れるなら登山靴の寿命を疑う
洗ってスプレーをかけ直し、履き口の対策もしたのに濡れるなら、靴そのものの寿命を疑うタイミングです。撥水は手入れで戻せますが、メンブレンの損傷やソールの劣化は、スプレーでは直せません。
登山靴は、製造からおおむね5年程度が耐用の目安とされます。あくまで一般的な目安で、使い方や保管状態で前後します。撥水ばかりに気を取られず、靴全体の状態も確認してください。
寿命のサインはライニングの破れとソールの劣化
寿命のサインは、大きく分けて内側と靴底に出ます。内側では、ライニングの穴や裂け、毎回同じ一点から濡れるといった症状が目安です。これはメンブレンの損傷を疑うサインで、撥水をいくら戻しても改善しません。
靴底で注意したいのは、ポリウレタンのミッドソールの加水分解です。ポリウレタンは履いていなくても空気中の水分と反応し、少しずつもろくなります。ソールの剥がれの多くは、このミッドソールの経年劣化か接着剤の劣化が原因です。
| 見る場所 | 寿命を疑うサイン |
|---|---|
| ライニング(内側) | 穴・裂けがある。毎回同じ一点から濡れる |
| ソール | 剥がれ・ひび・ゴムの硬化 |
| ソールの接着部 | 浮きがある |
| 製造からの年数 | おおむね5年を超えている(目安) |
長く眠っていた靴をいきなり本番に使うと、山の中でソールが剥がれる事故につながることがあります。シーズン前には、ソールと接着部をひと通り点検しておきたいですね。購入時期を控えておくと、何年経ったかがすぐ分かります。
保管の仕方でも、劣化の早さは変わります。高温多湿の場所や直射日光、箱やビニール袋に入れっぱなしの状態は劣化を早めるとされています。山から帰ったらしっかり乾かして、風通しのよい場所にしまいましょう。
買い替えか修理か、ソール張り替えの判断基準
判断の軸は、傷んでいるのがソールだけか、内側や表地まで傷んでいるかです。表地とライニングが健在で、傷みがソールに限られるなら張り替えを相談する価値があります。
ソールの張り替えに対応しているかは、メーカーやモデルによって違います。まずは購入店かメーカーの修理窓口に、靴の状態を見てもらうのが確実です。費用や期間も靴ごとに変わるので、見積もりを聞いてから決めましょう。
| 靴の状態 | 考えたい選択 |
|---|---|
| 撥水が落ちているだけ | 洗ってスプレー(手入れで回復) |
| ソールだけがすり減り・剥がれ、表地とライニングは健在 | ソールの張り替えを相談 |
| ライニングから浸水している、表地に亀裂がある | 修理の可否を相談しつつ、買い替えも検討 |
| 製造から年数が経ち、全体が劣化している | 買い替えが現実的 |
ゴアテックスの製品保証「GUARANTEED TO KEEP YOU DRY」も確認しておきたいところです。ハングタグ付きの新品が対象で、防水性などに満足できない場合は、修理・交換・返金のいずれかで対応してもらえます。ただし撥水の低下や手入れ不足、耐用年数を超えたものは対象外です。(出典:GORE-TEX公式『GUARANTEED TO KEEP YOU DRY 保証』)
買い替える場合、初心者向けの登山靴は1.5万〜3万円あたりが相場としてよく挙がります。ゴアテックス搭載モデルは、同等の非防水モデルより目安で5,000〜15,000円ほど高くなりやすいようです。値段は時期や販売店で変わるので、最新の価格は公式サイトや販売店で確認してください。
僕のC1_02Sのように、入門モデルでも丸一日の雨に耐えてくれる靴はあります。新しい靴は足に合うかが何より大事なので、できれば登山用品店で試し履きしてから選んでください。迷ったら、店頭のスタッフに山域や季節を伝えて相談するのが近道ですよ。
ゴアテックス登山靴と防水スプレーのよくある質問
DWR(耐久撥水)とは何ですか?
DWRは、表地の表面で水を玉にして弾く撥水加工のことです。ゴアテックスの靴では、内側のメンブレンが防水を、表地のDWRが「表地に水を吸わせない」役目を担っています。歩くうちの摩耗や泥・皮脂の汚れで少しずつ落ちていくので、水滴テストで弾かなくなったら撥水スプレーで補うのが基本です。
ゴアテックスの登山靴は永久保証って本当ですか?
正確には、永久保証ではありません。ゴアの保証期間は「製品として有効に使用できる限り」で、耐用年数を超えたものや撥水(DWR)の低下は対象外と明記されています。利用には購入証明(レシート)が必要で、評価施設への送料は自己負担です。詳しい条件は、ゴアの公式サイトでご確認ください。
PFASフリー(フッ素不使用)の撥水剤でも効果はありますか?
水をはじく効果はありますが、フッ素系に比べると皮脂などの油汚れに弱いとされています。そのぶん、汚れを落としてからかけること、こまめにかけ直すことがより大事です。フランスでは2026年から、PFASを含む衣類・履物とその防水剤の販売などが原則禁止されました(防護用などの例外あり)。アウトドアメーカーの撥水剤も非フッ素化が進んでいるので、成分表示を見て選んでください。
冬や雪の上を歩く日は、撥水していても靴の中が湿るのはなぜですか?
靴の表面が氷点下になると、足の汗の一部が靴の内側で結露し、外へ出られずに溜まるためです。撥水が効いていても起こるので、雪山や冬の早朝は内側が湿りやすい条件だと考えておきましょう。撥水の手入れだけで完全に防げるものではない、と知っておくと戸惑わずに済みます。
撥水スプレーは山行に持っていったほうがいいですか?
基本は自宅で手入れを済ませ、山には持っていかなくてよいと僕は考えています。スプレー缶の噴射剤にはLPGなどの可燃性ガスを使うものがあり、山小屋やテントのような閉め切った空間で吹くのは注意表示に反します。山の上では靴を洗えず、汚れの上からでは撥水剤も定着しにくいです。荷物を減らすUL的な意味でも、出発前の手入れで撥水を整えておくのがおすすめです。
まとめ:ゴアテックス登山靴の防水スプレーは撥水の維持に使う
ゴアテックスの靴でも、スプレーは無駄じゃなかったんだね。
そうなんです。防水は膜に任せて、表地の撥水を保つために使うイメージですね。
ゴアテックスの登山靴は、防水を内側のメンブレンが、撥水を表地が担っています。スプレーは膜の代わりではなく、表地に水を吸わせず透湿を止めないための道具です。最後に要点を振り返っておきます。

- 防水のためのスプレーは不要。表地の撥水(DWR)を保つためには必要
- 「濡れた」と感じたら、撥水切れによる汗の結露と履き口からの浸入を先に疑う。膜の損傷は最後
- 靴に使える表示のある撥水スプレーを選び、ワックス・グリス・オイルは避ける
- フッ素系は汚れに強いが剥がれやすい。PFASフリーなら洗ってからこまめに
- 新品は初回前にかけておくと安心。その後は山行後の水滴テストで弾かなくなったらかけ直す
- 乾かすときは直接熱を当てず、スプレーは屋外の風上で吹く
- 撥水を戻しても濡れるなら、ライニングとソールを点検して修理か買い替えを判断
絶対にこれが正解という話ではありませんが、仕組みが分かると手入れの迷いはぐっと減ると思います。製品ごとに使い方や対応素材は異なるので、正確な情報は各メーカーの公式サイトや製品の表示をご確認ください。靴の状態の判断に迷ったら、登山用品店や修理窓口などの専門家にご相談ください。
