こんにちは、YAMA-GO編集部のりょうです。関西を拠点に、北アルプスを中心にULスタイルで山を楽しんでいます。このブログ「YAMA-GO」では、実際に使ったギアのレビューや選び方、山のノウハウなんかを発信しています。
長い下りでつま先が痛くなる。かかとが浮いて靴擦れができる。こうした足のトラブル、サイズだけの問題ではありません。足が靴の中で動いていると、サイズが合っていても同じことが起きます。
そこで効いてくるのが靴紐です。靴紐は一度結んだら終わりではなく、登りと下りで締め直すもの。この一点を知っているかどうかで、下山後の足の状態がだいぶ変わります。
僕自身、初めての富士登山では下りで両足に5か所も水ぶくれを作りました。あの下りを思い出すたび、足元の管理は装備選びと同じくらい大事だなと感じます。この記事では、締め上げの手順から締め分け、ほどけない結び方までをまとめます。
- 締め上げはつま先側から1段ずつ・フックは上から下へ掛ける
- 足首は登りで指3本・下りで指1本を目安に締め分ける
- ほどけない結び方は縦結びの修正から始めるのが最短
- 靴紐で直る痛みと、サイズや足型が原因で直らない痛みの見分け方
登山靴の靴紐は下り前に締めて前ずれを止める
りょう、山でつま先が痛くなるって話、よく聞くよね。靴が小さいってこと?
それが、サイズが合っていても起きるんですよ。下りで足が靴の中を前にずれてしまうことがあって。僕はまず靴紐から見直しました。
結論から言うと、登山靴の靴紐は下りに入る前に締め直すものです。下りは着地のたびに足が靴の中で前へ送られます。足首の上をしっかり締めておけば、この前ずれを止められます。

つま先が靴の先端に当たり続けると、爪の下で内出血が起きます。いわゆる黒爪です。放っておくと爪がはがれることもあります。下山後に爪が紫っぽく変色していて驚いた経験、ありませんか。
登りと下りで変えるのは、くるぶしより上だけ。甲からくるぶしまでは、どちらも緩みなく締めます。
靴紐の解説はたくさんありますが、その多くは「1回きりの正しい締め方」で終わっています。実際の山では、紐は結んだ瞬間の状態を保ちません。だから同じくらい大事になるのが、いつ締め直すかです。1日の行程のどこで手を止めるのかまで決めておくと、ぐっと実用的になります。
この記事は、締め上げの手順、登りと下りの締め分け、ほどけない結び方、痛みの切り分けという順で進みます。まずは「どの靴の話なのか」をはっきりさせておきましょう。
締め分けが効くのは主にハイカット
前提をはっきりさせておきます。登り下りの締め分けが効くのは、くるぶしの上まで覆うハイカットです。ミドルカットは足首の固定力がハイカットほど強くないぶん、締め分けの効果は限定的です(足首上部にフックがあるモデルなら、同じ考え方で微調整はできます)。足首を覆わないローカットは、締め分けの対象外と考えてください。
| カット | 足首の覆い | 登り下りの締め分け |
|---|---|---|
| ローカット | くるぶしより下(足首は覆われない) | 原則不要 |
| ミドルカット | くるぶしが隠れる程度 | 原則不要 |
| ハイカット | くるぶしの上までしっかり覆い固定 | 効く |
呼び名も整理しておきます。ハイキングシューズはローカット中心で、ソールは柔らかめ。トレッキングシューズはミドルカット中心で、重さも中程度です。岩場やテント泊を想定した登山靴になると、ハイカットが中心になります。
では、ローカットしか持っていない人は打つ手なしかというと、そんなことはありません。効いてくるのはダブルアイレットとヒールロックです。かかとの遊びを減らす掛け方は、ローカットでも同じように使えます。
ハイカットは足首を固定するぶん重く、履き口が硬いモデルだと足首に当たって痛くなることもあります。カットは高いほど安全という単純な話でもありません。行く山と自分の慣れで選ぶ、が前提になります。
登山靴の靴紐はつま先から順に締める
締め上げは必ずつま先側から1段ずつ。紐の先端を一気に引いて全体を締めるのは不可です。足首から先に締めるとフィッティングが不均等になり、怪我や靴の破損につながる危険があるとメーカーも指摘しています。(出典:キャラバン公式『登山靴の正しいフィッテング方法』)

- 紐をつま先側までしっかり緩めてから足を入れる
- かかとを地面に軽くトントンと当て、ヒールカップの一番奥にかかとを収める
- つま先を軽く浮かせ、つま先側のクロスから1つずつ引いて締め上げる
- 1段締めたら1つ下の交点かアイレット付近を指で押さえて緩み戻りを止めてから次の段に進む
- 足首の折れ曲がる部分では、紐をいったん靴の後ろ側へ引いてテンションを作る
- Dリングとフックには上から下へ紐を掛けていく
- 履き口の一番上のフックは締め込みすぎない
飛ばされやすいのが4番目の「押さえてから次へ」です。上を締めているあいだに下が緩むと、結局つま先側がスカスカのまま仕上がります。ここは急がば回れですよね。
締めすぎは血流を妨げる
履き口の最後のフックまできつく締め込むと、血流を妨げます。紐には横方向に力を加えて締め上げ、ストッパー付きのサイドホックには力を加えずに引っかけるのが基本です。
同じ靴でも、紐の通し方で締まり方と圧迫感は変わります。今の締まり具合に不満があるなら、通し方から見直す手もあります。
| 通し方 | 通し方向 | 特徴 |
|---|---|---|
| オーバーラップ | 穴に上から下へ通す | 締まりがよく緩みにくい。しっかりホールドできる |
| アンダーラップ | 穴に下から上へ通す | 圧迫感が少ない。甲が高い人向け |
| パラレル | 左右に平行に渡していく | 荷重が分散して疲れにくいとされる |
パラレルは警視庁が「疲れにくい靴ひもの結び方」として紹介している通し方でもあります。ただし通し方ごとの効き方は靴専門店の解説と公的機関の紹介をまとめた整理で、比較試験のデータは確認できていないのが実情です。目安として試してみてください。(出典:警視庁『疲れにくい靴ひもの結び方』)
登山靴のフックは上から下へ掛ける
Dリングとフックには、紐を上から下へ掛けます。上から掛けると抵抗が働き、引く力を緩めてもある程度絞った状態が保たれるからです。下から掛けると、手を離した瞬間に戻ってしまいます。
順番も大事です。足首の折れ曲がる部分では、紐を一度靴の後ろ側へ引いてテンションを作ってから、フックに引っかけます。先に掛けてから引くと、摩擦でうまく締まらないうえ、無理な力でフックが壊れる恐れもあります。
登りでくるぶしより上を緩めたいときは、途中で紐をいったん止める操作が要ります。くるぶし付近のフックに紐を3回巻き付けて横に引く方法が知られています。最近の登山靴は滑りのよい丸紐が主流なので、これくらい巻かないと止まりません。平紐なら2回で止まる場合もあります。
紐を通す部分は、下から順にアイレット・Dリング・フックの3種類が組み合わされています。アイレットは摩擦が大きく張力が保持されやすい。Dリングは動くぶん締め上げの力が伝わりやすい。金具ごとに効き方が違うと知っておくと、緩む場所の見当がつきます。
ダブルアイレットでかかとを固定する
一番上のアイレットの横に、もう1つ穴が並んでいませんか。これがダブルアイレットです。この穴で紐を折り返すと甲のホールドが上がり、かかとの遊びが減ります。
かかとの遊びが減れば、つま先が靴の内側先端に当たりにくくなります。足幅が細い人、かかとが細くて靴が合いにくい人向けの穴という位置づけ。ローカットのシューズにも付いていることが多いので、一度履き口を覗いてみてください。
ヒールロック(レースロック)の掛け方
追加の穴か上2つのフックを使い、同じ側で紐を折り返して輪を作ります。左右の紐を反対側の輪へ上から下に通し、あとは通常どおり結ぶだけ。甲を強く締めつけずに、足首だけを固定できるのが利点です。
- かかとの浮きを抑える
- 足が靴の中で前へ滑るのを防ぎ、足指・爪のトラブルを減らす
- 靴擦れを予防する
- かかとの遊び=靴の実効的な長さを調整できる
ここまでの効果は、フィッティングやランニングの専門店の解説をまとめた整理です。比較試験のデータが公表されているわけではないので、目安として受け取ってください。合うかどうかは、自分の足で確かめるのが確実です。
足首の靴紐は登りで指3本 下りで指1本
締め加減は数字の目安を持っておくと迷いません。登りは結び目の下に指3本、下りは足首上部の紐に指1本がギリギリ入る程度。動かすのは、くるぶしより上だけです。

| 場面 | くるぶしより上 | 目安 | ねらい |
|---|---|---|---|
| 登り | 緩める | 結び目の下に指3本が入る程度 | 脛を前に倒しやすくして足首を曲げられるようにする |
| 下り | しっかり締める | 紐に指1本がギリギリ入る程度 | 足首を固定し、足が前へずれるのを止める |
登りで足首を緩めるのは、脛を前に倒す動きを邪魔しないためです。傾斜に合わせて足首が曲がると、それだけで歩きが楽になります。逆に下りは足首を止めて、足が前へ送られるのを防ぎます。
ただし、下りで足首がまったく曲がらなくなるほど締めてはいけません。抵抗をつけて、ゆっくりなら動く。この状態が目標です。ガチガチに固めると平坦な道で疲れやすく、膝への負担が増えるという声もあります。
「足首」はどこから?
境界はくるぶしの高さです。ここから下は登りでも下りでも同じ強さで締めます。つまり登りで緩めるのは、実質いちばん上の1〜2段のフックだけ。全部を緩めるわけではありません。
この指3本・指1本という目安と巻き付け回数は、日本山岳ガイド協会認定の登山ガイド、野中径隆さんが専門メディアの実演解説で示している指導値です。メーカーが公表した規格値ではありません。自分の足で微調整する前提の数字だと考えてください。
僕が締め直すのは歩き出し5分と下降点
僕が実際に手を止めるのは、歩き出して5分ほどのタイミングと、下りに入る直前の2か所です。この2回は、山に行くたびに必ず入れるようにしています。
きっかけは初めての富士登山でした。吉田ルートの下りは、8合目からずっと砂利の坂が続きます。階段がなく、自分の足でブレーキをかけ続けることになります。
結果は、両足で5か所の水ぶくれ。親指と小指に負担が集中しました。3時間強の下りのあいだ、足の指にずっと力がかかり続けていたのは間違いありません。トレッキングポールを持って行かなかったのも、いま思えば失敗でした。
その後、奥穂高岳では下山だけで約8時間、槍ヶ岳では終日雨の中を6時間45分かけて下りました。長い下りほど足元の管理が効いてくる、というのが正直な実感です。
紅葉の時期に涸沢からパノラマコースを下ったときも、岩の道を自分の靴のつま先越しに見下ろしながら歩いていました。ああいう道は、一歩ごとにつま先へ体重が乗ります。下降点で足首を締め直す価値があるのは、まさにこういう場面です。
締め直すタイミングを1日の行程に貼り直すと、下の表のようになります。全部をやる必要はありません。歩き出しの1回と下降点の1回、この2か所だけでも十分に効きます。
| 行程上の位置 | 触る場所 | 何のため |
|---|---|---|
| 登山口(履くとき) | 全段。かかとを合わせてつま先側から | 起点を作る。ここが甘いと以降の調整が全部ずれる |
| 出発から5〜10分後(最初の休憩) | 甲〜足首。初期の緩みを取る | 靴と足が馴染んだぶんの緩みは必ず出る |
| 急登の取り付き | くるぶしより上を緩める | 脛を前に倒す動作を邪魔しない |
| 稜線・平坦区間 | 触らない(緩みだけ確認) | 平坦での締めすぎは疲労になる |
| 下降点(下りの入口) | くるぶしより上を締め直す。甲は締めすぎない | 足の前ずれを止める |
| 長い下りの途中の休憩 | 足首の締まりと甲の圧迫を両方確認 | むくみで圧迫が強くなる時間帯と重なる |
| 下山口 | 緩める | 締めっぱなしにしない |
行動中は血液やリンパ液が下半身に溜まり、足がむくみます。増えるのは長さではなく幅と厚みです。だから朝の締め具合のままだと、午後は同じ紐が急にきつく感じます。
つまり締め直しは、緩みを取る作業であると同時に、きつくなりすぎを逃がす作業でもあります。休憩のたびに足首の締まりと甲の圧迫を両方見ておくと、後半がぐっと楽になりますよ。
そもそも紐が緩むのは、歩行の振動と屈曲、フィット不足、紐の形状と結び目の向きという3つが重なるからです。丸紐は平紐より滑ります。結び目が縦に立っていると、テンションの変化で動きやすくなります。
なお、締め直しの節目は登山用品店や専門メディアの解説をまとめた整理で、公的な規格があるわけではありません。行程は人それぞれなので、自分の足が痛くなる場所を1回覚えておくのがいちばん確実です。
ほどけない結び方はまず縦結びを直す
ほどけない結び方って、やっぱり難しいやつを覚えないとダメなの?
それが、順番が逆みたいですよ。新しい結び方を覚えるより先に、今の蝶結びの向きを見るほうが早いんです。
最初にやることは、今の蝶結びが縦になっていないかの確認です。縦結びは蝶結びより強度が劣り、ほどけやすい結び方。手間はほぼゼロなのに、効果はいちばん大きいところです。

見分け方は簡単です。結んだあとの結び目とループが、靴の長手方向に対して縦に立っていたら縦結び。正しい形は、左右に水平に寝ます。いま履いている靴を見てみてください。
直し方も1か所だけ。最初のひと結びの向きか、輪を作ってからの巻きつけの向き、どちらか一方だけを逆にします。両方変えると元に戻るので、いじるのは片方だけです。
ここから先は、覚える手間が少ない順に並べます。上から試して、自分の紐が緩まなくなったところで止めれば十分ですよ。
| 段 | やること | 追加の手間 | 効果 |
|---|---|---|---|
| 0 | 今の蝶結びが縦になっていないか見る | ほぼゼロ | 手間に対して効果が大きい。ここだけでほどけやすさが大きく変わる |
| 1 | 蝶結びの後、左右の輪でもう1回片結び(二重蝶結び) | 1操作 | すぐ真似できる定番 |
| 2 | ベルルッティ結び(巻きつけを2回にする) | 蝶結びの延長 | 末端を引けばほどける。紐がねじれにくい |
| 3 | イアンセキュアノット | 手順を覚える | 考案者の試験で標準の約2倍の張力に耐える |
| 補 | イアンノット | 手順を覚える | 速さと対称性。ほどけにくさは標準の蝶結びと同じ |
靴紐は解け始めると一気に全部解ける
靴紐は、じわじわ緩んでからほどけるわけではありません。走行実験では、崩壊が始まってから1〜2歩で完全にほどけました。だから「歩きながら気づいて直す」は、そもそも間に合わないんです。
これは2017年、カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが高速度撮影とトレッドミル・振り子実験で確かめた内容です。英王立協会の学術誌に発表されました。靴紐がほどける過程を実験で扱った、数少ない研究になります。(出典:カリフォルニア大学バークレー校『Shoe-string theory: Science shows why shoelaces come untied』)
ほどけ方には順番があります。脚を振り出すときの慣性が、結び目から先の余った紐にかかり、結び目の中心を開く方向に働きます。そこへ、かかとの着地衝撃が加わって結び目が変形します。
中心が開くと摩擦が下がり、紐同士が動けるようになります。衝撃のたびに余った紐が少しずつ引き抜かれ、慣性がループを保つ力を上回った瞬間、一気に崩れる。長いあいだ何も起きないのに突然ほどけるのは、このためです。
実験では、歩行時に結び目にかかる衝撃はおおむね重力加速度の6〜8倍とされ、比較は約7gに揃えて行われました。後方から衝撃を与え、余った紐に3gの重りを付けた条件では、縦結び型の失敗率が100%。本結び型で急な失敗が起きたのは15回中8回、53%でした。
つまり、新しい結び方を覚える前に向きを直すだけで、ほどけにくさは目に見えて変わるわけです。順番として、いちばん割に合うところですよね。
もうひとつ効いていたのが、余った紐の重さでした。重りを1g・2g・3gと増やすほど、早くほどけています。紐が長く垂れているほど慣性が増えて不利になるということです。
だから余りは短くまとめます。見た目の問題ではなく、ほどけ防止の一手として扱ってください。垂らしたままにしなければ、引っかけや踏みつけによる転倒も同時に防げます。
そもそも紐が長すぎないかも確認したいところ。片側の穴数からの目安は下の表のとおりですが、必要な長さはモデルとサイズで変わります。今の紐を外して実測するのが確実です。
| 片側の穴数 | 長さの目安 |
|---|---|
| 5〜6穴 | 120cm |
| 6〜7穴 | 140cm |
| 7〜8穴 | 160cm |
| 8〜9穴 | 180cm |
| 9穴以上 | 200cm |
ハイカットの登山靴では、おおむね150〜170cm前後が必要になることが多いようです。この目安表はアウトドア専門誌と販売店の解説を突き合わせた値で、規格化された基準ではありません。
衝撃の向きでも差が出ています。横方向から衝撃を受けた結び目は、後方から受けた場合より軽い重りでほどけました。着地衝撃が大きい下りほど、結び目には不利な条件が揃うわけです。
下降点で足首を締め直すついでに、余った紐の始末も見ておく。力学から見ても理にかなった手順です。
二重蝶結びとベルルッティ結びを足す
縦結びを直してもまだ緩むなら、蝶結びに1操作だけ足します。二重蝶結びとベルルッティ結び、どちらも蝶結びの延長で覚えられる結び方です。
二重蝶結びは、蝶結びを作ったあとに左右の輪を持って、もう1回片結びするだけ。激しい運動でも解けにくく、警視庁が災害時の避難靴や子どもの運動靴向けに紹介している結び方でもあります。(出典:警視庁『靴ひものほどけにくい結び方』)
弱点はほどきにくさです。指がかじかんだ状態や手袋のままだと、ほどくのに少し手間がかかります。下山後に紐がほどけなくてもたついた経験、ありませんか。
ベルルッティ結びは、輪を作ってからの巻きつけを2回にする結び方です。結び目が2つできるぶん、紐を持って靴を持ち上げても解けない程度の強さになります。それでいて、末端を引けば素早くほどけます。
締め込む過程でテンションが均一になりやすく、紐がねじれにくいのも利点です。丸紐で緩みに悩んでいるなら、まずこの結びから試してみてください。
それでも滑って緩むなら、紐そのものを替える手があります。丸紐(ラウンド)はスムーズに引かれるので均一に圧をかけやすい一方、滑るぶん結び方の工夫が要ります。平紐(フラット)は面で接して抵抗がかかるので、部分ごとの締め分けがしやすく緩みにくいのが特徴です。
登山靴用の交換シューレースは、2本1組でおおむね450〜850円程度の価格帯。長くなるほど高くなります。素材はポリエステルが一般的で、モデル専用のクイックレース類だけは別の価格帯になります。
交換の判断材料は、一番上のアイレット周辺の傷みです。擦れて細くなっている、毛羽立っている、ほつれている。そんな状態なら、切れる前に替えてしまいましょう。交換は片足ずつ行うと、通し方が分からなくなるのを避けられます。
イアンノットは速さ セキュアノットは張力2倍
ここは誤解が多いところです。イアンノットは「ほどけにくい結び」ではありません。完成形は標準の蝶結びと同一で、ほどけにくさも同等とされています。
では何が利点かというと、速さと対称性です。左右で同時に輪を作り、互いに通し合って一気に締める。考案者は通常の約3分の1の時間で結べるとしていて、対称に締まるぶん紐の摩耗も少ないと説明しています。
つまりイアンノットが効くのは、手が冷えているときや手袋をしたままのとき。山では地味に助かる場面ですよね。ほどけにくさを求めるなら、次のセキュアノットになります。
イアンセキュアノットは、左右に輪を作り、片方は前から、もう片方は後ろから巻きつけて中央の穴に通す結び方です。対称な二重巻きになります。考案者の試験では、標準の蝶結びやイアンノットの約2倍の張力をかけないとほどけないとされています。
結ぶ速さはイアンノットに劣りますが、手順は覚えやすい部類です。端を引けばほどけるので、緊急時にも困りません。
この2つはオーストラリアのイアン・フィーゲンさんが公開している結び方で、名称も手順も比較試験も、考案者本人の解説が一次情報にあたります。数値は本人の試験によるもので第三者の追試ではない、という点だけ頭に置いておいてください。
そしてどの結び方でも、最初のひと結びを逆向きに結ぶと仕上がりが斜めになります。斜めになったら、ひと結びの向きを変える。結局ここに戻ってきます。
靴紐で直る痛みと直らない痛み
紐で直るのは、足が靴の中で動いて起きる痛みだけです。サイズや足型が合っていない痛みは、どれだけ締めても直りません。それどころか、締めすぎて別の症状が出ます。

見分け方はシンプルです。締め方を変えて改善するかどうか。1回の山行で、だいたい判断がつきます。
| 症状 | 紐で改善が見込める場合 | 紐では直らない可能性が高い場合 |
|---|---|---|
| 下りでつま先が当たる | 足首側が緩く、足が前へずれている | 平地でもつま先が触れる(つま先の余裕不足) |
| かかとが浮く | 足首側の締めが足りない/ヒールロック未使用 | ヒールカップの形が足に合っていない |
| 甲がしびれる | 締めすぎ。緩めれば戻る | 締めていなくても出る(別の要因) |
| 足全体が靴の中で泳ぐ | 締め上げがつま先側から順になっていない | サイズが大きすぎる・靴下が薄すぎる |
下りでつま先が当たるのは前ずれ
下りでつま先が当たるなら、まず足首側の締めを疑ってください。足首が緩いと、下りのたびに足が前へ送られます。下降点で締め直すだけで改善することの多い症状です。
つま先や爪が靴の先端に当たり続けると、爪の下で内出血が起きます。これが黒爪です。下山中から下山後にかけて爪が紫から黒に変色し、放っておくとはがれることもあります。
疲労も効いてきます。足裏のアーチが落ちると足長が伸びるため、夕方ほど当たりやすくなります。行動後半にだけ痛くなるなら、この線が濃いです。
一方、平地で立っただけでつま先が靴の先端に触れるなら、これは紐では直りません。つま先の余裕そのものが足りていません。いわゆる捨て寸不足で、目安はかかとに指1本ぶん、おおむね1〜1.5cmです。逆に余裕が多すぎても靴の中で足が動くので、大きければいいわけではありません。締め方を変えても改善しないタイプです。
細かいところでは、爪を事前に短く切りそろえておくのも効きます。靴下の厚みを見直して靴の中のガタつきを減らす、かかとが安定するインソールに替える。こうした手も併用できますよ。
かかとが浮くのは足首の締め不足
かかとの浮きも、まずは足首側の締め不足を疑います。ヒールロックを使っていないだけ、ということもあります。登山靴は靴底が硬く、背伸びのような動きでかかとが浮く力が働くため、紐で押さえる前提の靴だと考えてください。
締め分けの基本は、足首はしっかり、甲は適度に、つま先は余裕を残す。かかとが浮くからと全体を締め上げると、今度は甲が圧迫されて別の痛みが出ます。
それでも浮くなら、かかと部分にヒールパッドを足して隙間を埋める方法もあります。靴下の厚みを変えるのも狙いは同じ。靴の中のガタつきの原因は、紐だけとは限りません。
サイズは合っているのにどうしても浮く。締めると今度は痛い。この組み合わせなら、そのモデルのかかと形状が足に合っていない可能性が高いです。サイズが合っているのに痛むときの主な原因は、幅(ワイズ)や足型のミスマッチにあります。かかとの浮きは靴擦れと黒爪の両方につながるので、我慢して履き続けないほうが安全ですよ。
甲のしびれは締めすぎの合図
甲がしびれる、親指と人差し指のあいだの感覚が鈍い。これは締めすぎのサインです。締め直しをすすめる記事である以上、上限もはっきり書いておきます。
紐を強く締めすぎると、足首の前面を通る深腓骨神経が圧迫されることがあります。前足根管症候群(深腓骨神経麻痺)と呼ばれる状態で、原因の大半は靴紐の締めすぎとされています。
症状は、足の甲側に出る第1〜2趾間のしびれや感覚異常。親指と人差し指のあいだの感覚が鈍くなります。まれに短趾伸筋(足の指を伸ばす筋肉)の筋力低下を伴います。圧迫されている部分を叩くと足先に響くのも特徴です。
しびれが続くなら医療機関へ
軽い例では、紐を緩める・別の靴に替えるといった対応や、整形外科で圧迫部位に合わせて処方される厚さ5mm程度のパッドで、2〜3週間ほどでしびれが引いた例が報告されています(改善までの期間には個人差があります)。ただし自己判断は禁物です。しびれや痛みが続く場合は、整形外科など医療機関で相談してください。
ここに書いたのは複数の整形外科の解説が一致している範囲の一般的な目安で、診断ではありません。圧迫の原因が残る場合は、手術で神経を開放することもあるとされています。心配なときは早めに専門家へ相談してください。
「締めれば締めるほど安定する」は間違いです。甲は圧迫しない、足首だけ止める。締め分けという考え方がある理由は、まさにここにあります。
登山靴の靴紐の結び方でよくある質問
余った靴紐が長すぎます。どう処理するのがいいですか?
短くまとめて、垂らしたままにしないのが基本です。余った紐が長いほど、脚を振り出したときの慣性が増えて結び目に不利に働きます。引っかけや踏みつけによる転倒を防げるのも利点。そもそも長すぎる場合は、今の紐を外して実測し、靴に合う長さへ替えてしまうのが確実です。
丸紐と平紐は、どちらを選べばいいですか?
好みではなく性質の違いで選びます。丸紐は紐がスムーズに引かれるので均一に圧をかけやすく、近年の登山靴で最も一般的です。ただし滑るぶん、結び方の工夫が要ります。平紐は面で接して抵抗がかかるため、部分ごとの締め分けがしやすく緩みにくいのが特徴。丸紐で緩みに悩んでいるなら、平紐への交換も選択肢になります。
山で靴紐が切れたら、どうすればいいですか?
下山までの一時しのぎとして、切れた箇所どうしを結んで1本につなぐ、細引きや予備の紐で代用する、テーピングテープを靴底からアッパーにかけて巻く、といった手があります。テープは岩や土で擦り切れるので、1時間おきに巻き直す前提で使ってください。きつく固定すると足が圧迫されるので、時折緩めて様子を見ながら下山を。予備の紐か細引きを持っておくと安心です。
靴紐はどのタイミングで交換すればいいですか?
一番上のアイレット周辺を通る部分が擦れて傷みやすいので、そこを時々確認してください。細くなっている、毛羽立っている、ほつれが出ているなら、切れる前の交換をおすすめします。作業は片足ずつ進めると、元の通し方を見ながら替えられて安心です。
登りで足首を緩めると、捻挫しないか心配です。
緩めるのはくるぶしより上の1〜2段だけで、甲からくるぶしまでは登りでも緩めません。なお履き口の高さと捻挫の発生率については、明確な関係は示されていないという研究報告もあります(バスケットボール選手622名を対象にした1993年の無作為化研究など)。足首の高さだけで安全が決まるわけではない、という程度に受け取ってください。不安な場所では締めておく、無理はしない。最終的な判断はご自身の状況に合わせてお願いします。
まとめ:登山靴の靴紐は下り前に締め直す
結局いちばん大事なのって、どこだった?
下りに入る前の締め直しですね。あとは、今の蝶結びが縦になっていないかの確認。この2つからでいいと思いますよ。
登山靴の靴紐は、一度結んだら終わりの道具ではありません。行程に合わせて締め直す前提で付き合うと、下りのつま先の痛みもかかとの靴擦れも減らしやすくなります。

- 締め上げはつま先側から1段ずつ。Dリングとフックは上から下へ掛ける
- 変えるのはくるぶしより上だけ。登りは指3本、下りは指1本が目安
- 手を止めるのは歩き出して5〜10分と、下りに入る直前の2か所
- 新しい結び方を覚える前に、今の蝶結びが縦になっていないかを確認する
- 余った紐は短くまとめる。長く垂れた紐は結び目をほどけやすくする
- 甲のしびれは締めすぎの合図。緩めても続くなら医療機関へ
ここで挙げた数値はいずれも一般的な目安で、必要な締め加減は靴のモデルや足の形で変わります。正確な仕様はメーカーの公式サイトで確認し、痛みやしびれが続く場合は専門家にご相談ください。まずは次の山で、下降点の締め直しから試してみてくださいね。
