こんにちは、YAMA-GO編集部のりょうです。関西を拠点に、北アルプスを中心にULスタイルで山を楽しんでいます。このブログ「YAMA-GO」では、実際に使ったギアのレビューや選び方、山のノウハウなんかを発信しています。
北アルプスの縦走にあこがれはあるけれど、自分の体力と経験で行っていいのか分からない。正直、そこがいちばん迷うところですよね。僕も同じで、初めての登山は2017年7月の富士山でした。
そこから1回に1段ずつ上げていって、奥穂高岳、槍ヶ岳、西穂高岳、ジャンダルムと歩いてきました。普段は軽い筋トレくらいで、体力自慢でもスポーツマンでもありません。この記事では、その順番の組み立て方を、公式の評価と自分の実測タイムの両方から具体的にまとめます。
- 初心者が槍・穂高に届くまでの1回1段のステップアップ順
- 体力度と難易度の2軸で自分の現在地を測る方法
- コース別の歩行時間と泊数、小屋泊とテント泊の選び分け
- 8月の山小屋予約と登山届など出発前にやること
初心者の縦走も1回1段で槍と穂高へ
北アルプスの縦走は、初心者でも段階を踏めば手が届きます。大事なのは順番で、いきなり槍や穂高を目指さず、1回に1段ずつ上げていくことです。僕自身、初登山から2年でジャンダルムまで行きましたが、間の時期はほとんど山に登らず、本番だけを重ねてきました。

並べてみると派手に見えるかもしれませんが、1回ごとに新しく増えた負荷は1段ぶんだけです。何ができるようになった状態で次に進んだのかを、順に整理してみます。
| 時期 | 登った山 | 日程 | そこで新しく増えたもの |
|---|---|---|---|
| 2017年7月 | 富士山(吉田ルート) | 1泊2日 | 10時間を超える連続行動と高所の寒さ |
| 2017年8月 | 奥穂高岳(上高地〜涸沢) | 1泊2日 | 北アルプスの長い接近路と山小屋泊 |
| 2018年8月 | 槍ヶ岳(新穂高温泉) | 1泊2日 | 岩とハシゴの穂先、連日の疲労 |
| 2019年6月 | 西穂高岳 | 日帰り | 岩稜そのものへの慣らし |
| 2019年7月 | ジャンダルム | 1泊2日 | 一般登山道の外へ出る判断 |
増えているのは、基本的に毎回ひとつだけです。ただ正直に書くと、富士山(体力度5・B)から奥穂高岳(体力度7・C)へは体力度で2段・難易度で1段を一度に上げていて、ここだけは後述の原則を外していました。だからこそ、この順番をさらに飛ばしていたら、たぶんどこかで痛い目に遭っていたと思います。
天候とその日の体調で同じルートも別物になる、という前提のうえでの話ですが、段を飛ばさずに積めば体力自慢でなくても北アルプスの主要な山に手が届きます。ただし飛ばした段は、あとから別のかたちで請求されます
富士山の次は燕岳から常念をつなぐ
富士山を歩き通せた人が次に選ぶなら、技術的な難易度をBに据え置いたまま、体力度だけを上げる常念山脈の稜線が現実的です。鎖場やハシゴがほとんど出てこないので、増えるのは技術ではなく歩く時間になります。
| ルート(登山口) | 体力度 | 難易度 | 合計コースタイム | ルート定数 |
|---|---|---|---|---|
| 富士山(スバルライン五合目・吉田ルート) | 5 | B | 11.0時間 | 42.7 |
| 涸沢(上高地) | 5 | B | 11.3時間 | 42.0 |
| 燕岳(中房温泉) | 4 | B | 7.8時間 | 31.9 |
| 縦 燕→常念(中房温泉・一ノ沢) | 7 | B | 16.5時間 | 62.0 |
富士山と涸沢は、数値の上ではほとんど同じ負荷です。つまり富士山に登れた人にとって、上高地から涸沢まで歩くのは未知の挑戦ではなく、すでに経験した重さの繰り返しということになります。
僕の初登山だった富士山は、五合目から七合目までが約1時間、七合目から八合目までが約2時間でした。この2時間が全行程でいちばんつらく、岩場の段差が続いて何度も休憩を挟んだのを覚えています。
八合目でも気温は5度以下で、下では暑いと感じていたのに上では本当に寒かったです。風を通さない一枚があるかないかで、待ち時間の体感がまったく変わります。
正直に言うと、富士山はずっと同じ景色が続いてルートとしては面白みに欠けます。それでも、長時間歩き続ける感覚と高い所の寒さを一度に味わえるので、北アルプスの前段としては役に立ちました。
失敗もありました。下山は3時間ちょっと、砂利の坂で自分の足だけでブレーキをかけ続けることになり、両足に5か所も水ぶくれができたんです。トレッキングポールを持っていかなかったことを、あそこで初めて後悔しました。
もうひとつ、山小屋で寝る前にビールを飲んだら軽い高山病のような状態になってしんどくなりました。高い場所でのお酒は、僕の中ではもうやらないことのひとつです。
奥穂と槍から西穂とジャンダルムへ
常念山脈の稜線を歩けたら、次は奥穂高岳と槍ヶ岳で難易度Cの岩とハシゴに慣れる段階です。この2つは難易度がどちらもCで、槍ヶ岳で新しく増えるのは体力の1段だけなので、順番としてつながりが良いんですよね。
| ルート(登山口) | 体力度 | 難易度 | 合計コースタイム |
|---|---|---|---|
| 奥穂高岳(上高地・涸沢経由) | 7 | C | 17.7時間 |
| 槍ヶ岳(上高地) | 8 | C | 20.0時間 |
| 西穂高岳(上高地) | 5 | D | 12.2時間 |
| 西穂高岳〜奥穂高岳(ジャンダルムを含む区間) | 評価対象外 | 評価対象外 | — |
僕が奥穂高岳に行ったのは、富士山のわずか1週間後でした。上高地を6時前に歩き出して穂高岳山荘に着いたのが14時半ごろ、休憩を含めて8時間半ほどの行程です。
登山者が目指す山と聞いていたので身構えていましたが、実際の感覚は「難しい」より「長くてしんどい」でした。技術的に怖い場面は少なく、効いてくるのは接近路の長さです。
ただ、1泊2日は初日が本当にきついです。一般的には涸沢で1泊して翌日に山頂を往復する組み方が多いようで、同行の友人も含めて、あと1泊あれば余裕が違ったなと感じました。
翌年の槍ヶ岳は新穂高温泉から1泊2日で、標準8時間30分の行程に9時間ちょっとかかりました。槍平小屋から山荘までの最後の区間で運動不足がはっきり出て、標準4時間のところを4時間半かかっています。
穂先の往復は登り30分・下り20分の50分ほどでした。前年の奥穂高では恐怖をまったく感じなかった僕でも、強風と断崖絶壁の組み合わせはさすがに少し怖かったです。同じ難易度Cでも、その日の天気で体感はかなり変わります。
西穂高岳は、ジャンダルムに向けた慣らしとして日帰りで登りました。西穂は体力度5で富士山と同じですが、難易度はBではなくDです。体力ではなく技術の段を上げるための1回でした。
そして西穂高岳から奥穂高岳の区間は、長野県の公式評価ではそもそも一般的な登山道として評価の対象から外されています。難易度Eの大キレットが表に載っているのに、この区間は表の外側という位置づけです。
実際に歩くと、馬の背は踏み外したらそのまま真っ逆さまだと本気で思う場所で、中腰でカニ歩きをして通過しました。ロバの耳は、ほぼ命綱なしのボルダリングをしているような感覚です。
僕の実感として、最低でも槍ヶ岳や奥穂高岳を歩いた経験がないと危ない場所だと思います。ここは初心者の延長線上ではなく、別の入口だと考えたほうがいいかなと思います。
憧れの山ほど順番が効く
ジャンダルムや大キレットは、体力の段だけを上げても届きません。岩稜での判断と技術は、難易度Cのルートをいくつかこなし、そのうえでDを経験してからやっと候補になる領域です。少しでも無理だと感じたら、引き返す判断のほうがずっと価値があると思っています。
体力度と難易度の2軸で実力を測る
自分が縦走してよいレベルかどうかは、感覚ではなく2つのものさしで測れます。しんどさを表す体力度(1〜10)と、難しさを表す技術的難易度(A〜E)は別々に動くので、片方だけを見て判断すると足をすくわれます。

体力に自信がない人は、そもそも縦走なんてやめておいたほうがいいのかな?
そこはよく誤解されるところみたいですよ。しんどさと難しさは別ものなので、しんどくないのに難しい山もあるんです。
じゃあ、自分がどっちの段にいるのかを測ればいいんだね。
長野県・山梨県・富山県が公表している山のグレーディングは、まさにこの2軸でルートを並べた表です。同じ体力度でも難易度がまるで違う例を抜き出すと、2つの軸が独立していることがよく分かります。(出典:長野県『信州 山のグレーディング』)
| ルート(登山口) | 体力度 | 難易度 | 合計コースタイム |
|---|---|---|---|
| 富士山(吉田ルート) | 5 | B | 11.0時間 |
| 西穂高岳(上高地) | 5 | D | 12.2時間 |
| 縦 表銀座(中房温泉・上高地) | 9 | C | 25.3時間 |
| 周 大キレット(上高地・北穂→槍) | 9 | E | 25.2時間 |
| 縦 裏銀座(高瀬ダム・上高地) | 10 | C | 32.3時間 |
富士山と西穂高岳は、しんどさで言えば同じくらいです。それでも西穂は難易度が2段上で、体力が足りていても技術が足りなければ通用しない典型になります。
表銀座と大キレットも体力度は同じ9ですが、難易度はCとEで別物です。県内でいちばん体力を使うルートと、いちばん技術を要するルートは一致しない、ということでもあります。
もうひとつ大事なのが、2つの軸は埋め方が違うことです。体力度の1段はトレーニングと泊数で埋められますが、難易度の1段は経験と技術でしか埋まりません。体力自慢の人がいきなり難易度Dに入って事故になるのは、この非対称が理由かなと思います。
2つの軸を同時に2段上げないこと。上げるのはどちらか一方の1段だけにすると、次の山が急に別物にならずに済みます
グレーディング表には、ルート定数という共通のものさしも載っています。コースタイム・距離・登り下りの標高差から計算される数値で、そこに自分の体重とザックの重さを掛けると、そのルートで使うエネルギーの目安が出せます。
ルート定数の使い方
消費エネルギー(kcal)=ルート定数×(体重+ザックの重さ)という式が公開されています。体重60kgでザック8kgの人なら、涸沢の往復(定数42.0)で約2,856kcal、表銀座(定数89.2)で約6,066kcal。数字にすると、表銀座が涸沢の2倍以上であることが一目で分かります。
コースタイムの1.5倍で歩けるか
現在地を測るいちばん簡単な方法は、日帰りの山を小屋泊と同じ重さのザックで歩き、地図のコースタイムの何倍かかったかを見ることです。初心者はコースタイムの1.5倍かかる前提で計画を組む例が一般的で、2倍かかるならその山はまだ早い、という目安になります。
そもそも地図のコースタイムには前提があります。40〜60歳の登山経験者が2〜5人のパーティーで、小屋泊の装備、夏山の晴天時に歩いた場合の時間で、休憩は含まれていません。写真を撮ったりお昼を食べたりする時間は、最初から入っていないわけです。
| 判定の材料 | 目安と考え方 |
|---|---|
| コースタイム比1.2倍以内 | 休憩を入れても計画どおり動けている状態。公式の基準ではなく、僕が次の段を考えるときの目安 |
| コースタイム比1.5倍 | 初心者が計画に見込む標準的な係数。この前提で行程を組む |
| コースタイム比2倍 | その山が現時点の自分には厳しすぎた可能性がある |
| 到着時刻 | 山小屋は遅くとも16時までの到着が推奨されている(燕山荘公式) |
| 鎖場・ハシゴが未経験 | 難易度Cから上には進まず、Bのルートで段を積む |
僕の実測だと、槍ヶ岳は標準8時間30分に対して9時間ちょっとで、倍率にすると1.1倍でした。奥穂高岳のときは休憩込みで8時間半、歩いていた時間だけなら7時間ほどです。
この数字を自分で持っていると、次の計画がぐっと立てやすくなりますよね。逆に言えば、一度も測らないまま25時間のコースに申し込むのが、いちばん危ないパターンだと思います。
もうひとつの目安が到着時刻です。山小屋は16時までの到着を勧めていて、夏の午後は雷雨になりやすいので、稜線での行動は午前中に済ませる配分が基本になります。1日の行動時間が長すぎる計画は、この時点で無理があるということです。
次の段の縦走コースは歩行時間で選ぶ
コース選びは、初心者向けという看板ではなく合計の歩行時間と難易度の組み合わせで選ぶのが確実です。同じように紹介されているコースでも、合計コースタイムは11時間台から25時間台まで幅があります。

北アルプスで初心者が現実的に選べる縦走は、大きく3系統に整理できます。鎖場のほとんどない常念山脈、ゴンドラやリフトで標高を稼げる後立山連峰の南寄り、そして憧れの槍・穂高へ向かう系統です。
| 縦走ルート(登山口) | 体力度 | 難易度 | 合計コースタイム | 公式の泊数目安 |
|---|---|---|---|---|
| 縦 蝶ヶ岳・常念(三股・一ノ沢) | 5 | B | 11.8時間 | 1泊以上 |
| 縦 唐松・五竜(八方池山荘・アルプス平駅) | 5 | C | 12.1時間 | 1泊以上 |
| 縦 蝶ヶ岳・常念(上高地・一ノ沢) | 6 | B | 15.0時間 | 1〜2泊以上 |
| 縦 燕→常念(中房温泉・一ノ沢) | 7 | B | 16.5時間 | 1〜2泊以上 |
| 縦 表銀座(中房温泉・上高地) | 9 | C | 25.3時間 | 2〜3泊以上 |
| 縦 裏銀座(高瀬ダム・上高地) | 10 | C | 32.3時間 | 2〜3泊以上 |
こうして並べると、最初の縦走は難易度Bの行から選ぶのが安全側だと分かります。鎖やハシゴが出てこないぶん、増える負荷が歩く時間と連日の疲れだけに絞られるからです。
パノラマ銀座は鎖場がなく難易度B
燕岳から大天井岳、常念岳、蝶ヶ岳をつなぐパノラマ銀座は、稜線に鎖場やハシゴがほとんどなく、公式の難易度がBで揃っているのが初めての縦走に向いている理由です。体力的に楽だから初心者向けと呼ばれているわけではありません。
安曇野側の公式ガイドが示すモデルコースは3日間です。ただ、日程の中身を見ると1日の負荷にかなり差があります。
| 日程 | 区間 | コースタイム |
|---|---|---|
| 1日目 | 三股 〜 蝶ヶ岳 | 5時間5分 |
| 2日目 | 蝶ヶ岳 〜 常念岳 〜 大天荘 | 9時間15分 |
| 3日目 | 大天荘 〜 燕山荘(燕岳往復) 〜 中房・燕岳登山口 | 6時間 |
2日目だけが9時間を超えていて、ここが計画の急所になります。中房温泉から入って三股へ下りる逆コースも一般的ですが、その場合は初日に合戦尾根の登りをこなす配分になりますよ。
区間の目安としては、一ノ沢の登山口から常念小屋まで約4時間30分で標高差はおよそ1,200m。中房温泉から燕山荘までは約5時間、燕山荘から大天荘までが約3時間30分です。
つないだときの負荷にも注意が必要です。燕岳・蝶ヶ岳・常念岳はそれぞれ体力度4ですが、燕岳から常念岳までつなぐと体力度は7、コースタイムは16.5時間に跳ね上がります。難易度が低いことと楽であることは、別の話なんですよね。
同じ山でも登山口で体力度が変わるのも面白いところです。常念岳は一ノ沢からなら体力度4、三股からだと5になります。コース名だけでなく、どこから入るかまで確認しておくと安心です。
唐松岳や白馬の山域は遭難が最多
意外に思われるかもしれませんが、長野県内の遭難がいちばん多い山域は、初心者向けの山が並ぶ後立山連峰です。憧れの槍・穂高より、入りやすい山のほうが件数は多いというのが実際の数字です。
| 山域(2026年1月1日〜7月20日) | 発生件数 | 県内比率 |
|---|---|---|
| 北アルプス 計 | 71件 | 50.4% |
| うち 後立山(唐松・白馬・五竜など) | 46件 | 32.6% |
| うち 槍穂高 | 15件 | 10.6% |
| 八ヶ岳連峰 | 18件 | 12.8% |
| 中央アルプス | 10件 | 7.1% |
長野県内で起きた遭難のちょうど半分が北アルプスで、その中の3分の2近くが後立山です。技術的に難しいイメージのある槍穂高が15件なのに対し、唐松岳や白馬岳を含む後立山は46件と3倍以上です。これは個別の山ごとではなく山域単位の集計ですが、計画を立てる前に知っておきたい事実だと思います。(出典:長野県山岳遭難防止対策協会『島崎三歩の「山岳通信」第454号』(令和8年7月21日))
何が起きているのかを見ると、理由が見えてきます。同じ期間の内訳は転落・滑落が41件、転倒が20件で、合わせると全体の4割強。いっぽうで落石と落雷はどちらも0件でした。
つまり、岩が落ちてくる・雷に打たれるといった外からの災難よりも、自分の足元と体力に原因のある事故が圧倒的に多いということです。実際の事例も、八方池から下山中に岩につまずいた、雪渓でスリップした、といったものが並びます。
雪渓の怖さは僕も身に染みています。ジャンダルムからの下山で天狗のコルから岳沢へ下ったとき、7月なのに残っていた雪渓の斜度がきつく、アイゼンを着けていたのに5mほど滑りました。岩に当たって死ぬのかな、と本気で思った数秒でした。
唐松岳そのものは体力度3・難易度Bで、往復のコースタイムは7.1時間。ゴンドラとリフトで標高1,830m台まで上がれるので、北アルプスの中ではかなり入りやすい山です。入りやすいぶん、油断が入り込む余地も大きい場所だと思っています。
白馬岳も、猿倉から大雪渓を登れば難易度C、栂池自然園からなら難易度Bと入口で1段変わります。大雪渓を通るなら軽アイゼンとヘルメット、そして落石が起きにくい早朝の通過が鉄則とされています。
表銀座は行けてもキレットは別物
表銀座は常念山脈の次の段として人気ですが、体力度9・難易度Cで、終盤に岩とハシゴの核心部が来る構成です。ここを歩けたからといって、キレットが次の候補になるわけではありません。
合計コースタイムは25.3時間、公式の泊数目安は2〜3泊以上です。中房温泉から燕山荘、ヒュッテ西岳、槍ヶ岳山荘とつないで上高地へ下りる4日間がモデルになります。
気を張るのは後半です。核心の東鎌尾根がどれくらいの長さなのか、区間で見ておきましょう。
| 東鎌尾根の区間 | コースタイム | 区間の中身 |
|---|---|---|
| 大天井ヒュッテ 〜 槍ヶ岳山荘 | 約7時間 | 表銀座の後半にあたる区間 |
| ヒュッテ西岳 〜 槍ヶ岳山荘 | 約3時間30分 | 長いハシゴ・木の階段・岩稜が連続 |
| ヒュッテ西岳 〜 ヒュッテ大槍 | 約3時間 | トイレも補給ポイントもない |
水俣乗越から先はハシゴが続き、「窓」と呼ばれる箇所の長いハシゴは後ろ向きで降ります。浮き石も多く、長野県がヘルメット着用を奨励している区域に入ります。
補給の面でも注意が要ります。ヒュッテ西岳からヒュッテ大槍までの約3時間は、トイレも補給ポイントもない区間です。水と行動食は西岳で整えておく前提で計画を組んでおくと安心です。小屋の営業時間や在庫は時期によって変わるので、途中の補給を当てにするなら各小屋の公式情報で事前に確認してください。
一方の大キレットは体力度9・難易度E。体力度は表銀座と同じでも、難易度はCから2段跳びます。西穂高岳〜奥穂高岳や北鎌尾根にいたっては、特に条件の厳しいルートとして評価の対象から外されています。
2026年7月には北鎌尾根で、5人パーティーのリーダーが脱水と疲労で行動不能になり、残る4人も技量不足で動けなくなって全員がヘリで救助された事例が公表されています。同じ週には、難易度Cの東鎌尾根でも3人パーティーが疲労で行動不能になりました。
難易度Cのルートでも、体力の段が足りなければ結果は同じになるということです。表銀座を計画するなら、燕→常念のような16時間台の縦走を先に1本入れておくと安心かなと思います。
北アルプス縦走は何泊で組むか
泊数は好みではなく、選んだルートの体力度で決まります。公式のグレーディング表には体力度ごとの適当な日程が示されているので、そこから逆算するのがいちばん確実です。(出典:長野県『信州 山のグレーディング』マトリックス表(令和8年4月更新))

縦走って、やっぱり2泊3日が基本なの?
それがそうでもないみたいですよ。1泊で足りるルートもあれば、3泊は欲しいルートもあるので、公式の目安から決めると安心です。
| 体力度レベル | 想定される日程 | このあたりのルート |
|---|---|---|
| 1〜3 | 日帰りが可能 | 唐松岳(体力度3) |
| 4〜5 | 1泊以上が適当 | 蝶ヶ岳・常念の縦走(体力度5) |
| 6〜7 | 1〜2泊以上が適当 | 燕→常念(体力度7) |
| 8〜10 | 2〜3泊以上が適当 | 表銀座(体力度9) |
泊数を1つ増やすと、1日あたりの行動時間はそのぶん短くなります。逆に日数を削れば、削ったぶんが毎日の行動時間に上乗せされる。予約の都合でコースを無理に短縮するのは、いちばん避けたい組み方です。
泊数の差がいちばん出るのは、1日の行動時間が飛び出している日をどこで割るかです。同じルートでも、日程の組み方で1日あたりの負荷はここまで変わります。
| ルート | 日程の組み方 | 1日あたりの行動時間 |
|---|---|---|
| パノラマ銀座 | 2泊3日(公式モデル) | 5時間5分/9時間15分/6時間 |
| パノラマ銀座 | 3泊4日(常念小屋で分ける) | 6時間前後にならせる |
| 表銀座 | 3泊4日(公式モデル) | 5時間/5時間35分/4時間40分/7時間20分 |
| 表銀座 | 2泊3日に詰める | 3日とも10時間前後 |
パノラマ銀座は2日目だけが飛び出しているので、そこを常念小屋で切ると全体が平らになります。表銀座は逆で、1泊削るとすべての日が10時間前後まで押し上げられる。削った1泊は、どこかの日に必ず戻ってきます。
槍ヶ岳を1泊2日で歩いたときに強く思ったのも、まさにそこでした。この日程は気力で押し切るものだな、と。2泊3日なら余裕を持って登れる、というのが正直な実感です。
夏の午後は雲が湧いて雷雨になりやすいので、稜線での行動は午前中に済ませる「早立ち早着き」が原則です
小屋泊とテント泊は費用より重さで選ぶ
初めての縦走なら山小屋泊が定石です。理由は費用ではなく、荷物の重さがそのまま消費エネルギーに跳ね返るから。1泊あたりは明らかにテント泊のほうが安いのに、初回に勧められないのはここが理由です。
| 観点 | 山小屋泊 | テント泊 |
|---|---|---|
| 1泊あたりの費用 | 1泊2食で16,000円前後 | テント場2,000円+食料・燃料代 |
| ザックの容量 | 30〜40Lで足りる | 50L前後 |
| 予約 | ほぼ全ての小屋が予約制 | 予約不要の小屋が多く到着順 |
| 悪天のとき | 屋根の下で停滞できる | 稜線の風雨に自力で対処する |
| 食事 | 夕食・朝食・弁当を頼める | 自炊。テント泊者に夕食を出さない小屋もある |
費用だけを見ればテント泊が圧倒的に安く、2泊なら2万円以上の差がつきます。それでも初回に小屋泊を勧めるのは、荷物が軽いぶん行動に集中でき、時間の余裕が生まれるからです。
先ほどの式に当てはめると分かりやすくなります。体重60kgの人がザック8kgで表銀座を歩くと約6,066kcal、テント泊装備で10kg増えると約6,958kcalです。900kcalほどの差は、そのまま最終日の脚に出てきます。
小屋の実際も少し書いておきます。2018年に泊まった槍ヶ岳山荘は、自販機のビールが360mlで500円、食堂の生ビールが1杯1,000円でした。談話室はストーブが効いていて暖かく、乾燥室もあります。
そのとき、食事の提供が14時30分までだと知らずに10分遅れて到着し、注文できたのはおでんだけでした。冷えた体にはそれでも十分ありがたかったのですが、小屋でご飯を食べたいなら14時30分までの到着を目安にする、というのは僕が身をもって覚えたことです。
予約の仕組みは小屋ごとに違います。燕山荘はテント場も予約制、常念小屋・大天荘・槍ヶ岳山荘グループ・涸沢ヒュッテのテント場は予約不要というように、同じ縦走路の中でも扱いがばらばらです。料金や制度は改定されるので、最新の情報は各小屋の公式サイトでご確認ください。
装備一覧は安全を残して重さを削る

装備は「軽くする」の一言で片づけず、減らしてよいものと、減らしてはいけないものを分けるのが先です。僕はUL寄りの考え方ですが、軽ければ正義とは思っていません。安全に関わるものを残したうえで、それ以外を見直します。


| 分類 | 装備 | 押さえるべき点 |
|---|---|---|
| 足回り | 登山靴・替えの靴下 | ソールのしっかりしたミドル〜ハイカット。替えの靴下は濡れによる靴擦れと冷えの対策 |
| 荷物 | ザック(30〜40L)・ザックカバー | 小屋泊縦走は30〜40Lが目安。稜線は横殴りの雨になるので防水スタッフバッグと併用する |
| 雨具 | レインウェア上下 | 防水透湿素材の3層構造が推奨される。稜線は風が強く、ポンチョでは対応できない |
| 防寒 | フリースまたはインナーダウン | 稜線は8月でも冷える。朝晩と小屋泊で必ず使う |
| 防寒 | 手袋・ニット帽 | 稜線の風対策。標高2,700〜3,000m級は夏でも朝晩が冷え込む |
| 行動 | ヘッドランプ+予備電池 | 早出と、行程が遅れたときの必需品 |
| 行動 | 地図(紙)+コンパス | 難易度B以上は地図読みが求められる。アプリと併用する |
| 安全 | ヘルメット | 岩稜帯やキレットは着用奨励山域。表銀座の東鎌尾根も対象 |
| 安全 | ファーストエイド・エマージェンシーシート | けがの手当てと、動けなくなったときの保温に |
| 水・食料 | 水と行動食 | 稜線に水場のない区間がある。補給できる場所を事前に確認する |
| その他 | 現金・耳栓・日焼け止め | 売店やトイレチップは現金。小屋は相部屋が基本 |
レインウェアの大事さは富士山で覚えました。あのときは雨に降られなかったのに、ご来光待ちの防寒と防風で唯一活躍したのがレインウェアだったんです。使ったのはコロンビアの上下でした。
防寒着で失敗したのが槍ヶ岳です。2日目が終日雨で寒く、フリースかインナーダウンが欲しくてたまらず、結局は友人のジャケットを借りて凌ぎました。夏でも山頂付近は5度くらいまで下がると思っておいたほうがいいです。
ヘルメットについては、僕は奥穂高岳のときに持っていませんでした。ただ、ザイテングラートや山頂へのアタックは他人の落石をコントロールできない場所です。涸沢には滑落した方のヘルメットが展示されていて、あれを見てからは岩稜に入るなら必須だと考えています。
長野県が着用を奨励している山域には、槍・穂高連峰の岩稜帯や大キレット、東鎌尾根、不帰の嶮、八峰キレットなどが含まれます。遭難者の4人に1人が頭部を負傷しているという背景があり、槍ヶ岳山荘や穂高岳山荘など有償レンタルのある小屋もあります。
登山靴は、僕は初めての富士山からキャラバンのC1_02Sをずっと使ってきました。ゴアテックス仕様で1万5千円を切る価格でしたが、槍ヶ岳の下山で終日雨に降られても浸水は一切なし。本格的に何度も行くのでなければ十分だなと感じています。
キャラバン C1_02S(登山靴)
僕が初めての富士山から槍ヶ岳まで履いた入門向けの1足。終日の雨でも浸水しなかった防水性が心強かったです。ただし岩稜を長く歩くなら、もう少し底の硬いモデルのほうが足は楽だと感じました
実際、ジャンダルムのように岩稜を長時間歩くと、底が硬い靴のほうが足への負担は少ないと感じました。どの靴でも共通なのは、出発前に履き慣らしておくことと、長く使っていない靴はソールの劣化を確認しておくことです。
軽くする側の話もひとつ。僕がULに興味を持ったのは、北アルプスで出会った人のスタイルがきっかけでした。山と道の5ポケットライトパンツは、2020年に買ったメンズSを自宅のキッチンスケールで量ると116gでした(現行の2026年モデルの公式表記はSサイズ149gで、生地や仕様が変わっているぶん実測値とは差があります)。比較したノースフェイスのアルパインライトパンツは390gなので、公式値の149gで計算しても4割弱、手元の実測なら3分の1以下です。
山と道 Light 5-Pocket Pants
2020年に買ったメンズSは自宅の計量で116g(現行2026年モデルの公式表記はSサイズ149g)と軽く、スマホ用ポケットの位置が秀逸で歩いても揺れません。時期やサイズによっては在庫切れのことがある点と、価格はそれなりにする点は注意です
山と道のパンツは人気で売り切れが多く、公式では再販を待つことになりがちです。サイズの合うものが出てこない時期は、メルカリなどの二次流通で探すほうが早いこともあります。中古を狙うなら、生地のへたりや股・膝の擦れを写真と説明文で確認してからにしてください。
メルカリで山と道のパンツを探す
公式が売り切れの時期でも、二次流通なら在庫が見つかることがあります。出品タイトルの表記ゆれを拾うため「山と道 パンツ」の検索結果に飛ぶので、5ポケットライトパンツ以外のモデルも並びます。出品・価格・商品の状態は都度ご確認ください。
こういう置き換えは、安全に関わらない部分から手をつけるのが基本です。レインウェアや防寒着、ヘッドランプを削るのは軽量化ではなく、ただの手抜きになってしまいますからね。
ザック4kg減で表銀座は357kcal減る
重さを削る効果は、感覚ではなく数値で確かめられます。ルート定数89.2の表銀座なら、ザックを4kg減らすだけで約357kcal分の負担が減る計算になります。
消費エネルギーはルート定数×(体重+ザックの重さ)で求まるので、減らした重さがそのまま掛け算で効いてくるからです。4kgと聞くと大げさに思えますが、着替えの枚数と水の量、それに「念のため」の道具を見直すと、意外に届く数字です。
縦走の初心者がいちばん陥りやすいのは、持ちすぎです。山小屋泊なのに保険で軽アイゼンやヘルメットまで持って、ザックが20kg前後になったという例も紹介されています。心配ごとを全部道具で解決しようとすると、その重さで行動時間が伸びるという逆転が起きます。
僕の場合は水がそうでした。槍ヶ岳では2Lを担いで重さに疲れましたが、途中で給水できるルートだと分かってからは1.5Lで足りています。かわりに、塩タブレットは熱中症対策として外しません。
水は感覚で決めがちですが、量の目安になる式もあります。担ぐ重さを決める出発点になるので、一度だけ計算しておくと楽ですよ。
水分の目安(体重60kgの例)
行動中に失う水分は「体重×行動時間×5」で概算でき、8時間の行動なら約2,400mLになります。体重の1%までの脱水を許容する簡易式だと、補給の目安は1,800mL。高所では1時間に200〜300mL、コップ1〜1.5杯ぶんをこまめに、という案内もあります。
とはいえ、この量を最初から全部担ぐ必要はありません。大事なのは総量より、どこで補給できるかのほうです。水場のない区間があるルートでは、そこに入る前に足す。それだけで背中はずいぶん軽くなります。
行動食も、ゼリー系は重いので食べ物寄りにしたほうが同じエネルギーでも軽く済みます。パッキングはザックの中を4つの区画に分けて考え、水のような重いものは底ではなく背中側に入れると腰の負担が減ります。
削ってはいけないものを、もう一度書いておきます。レインウェア上下、防寒着、ヘッドランプと予備電池、地図とコンパス、そして水。ここを残したうえで、それ以外を1つずつ見直していくのがUL寄りの考え方かなと思います。
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階段とスクワットを週2〜3回続ける
体力の段は、日常のトレーニングで埋められます。階段を20分とスクワットを週2〜3回という、ごく普通のメニューを続けるだけでも、縦走の1日あたりの余裕はかなり変わります。
鍛える対象ははっきりしています。体力度のもとになっているルート定数は、コースタイム(持久力)と累積標高差(登り下りの筋持久力)で決まるので、心肺持久力と下半身の筋持久力の2つに絞れます。
| 方法 | 内容 | 頻度の目安 |
|---|---|---|
| スクワット・腹筋 | 各15回×5セット | 週2〜3回 |
| 階段トレーニング | 1回20分以上 | 週2〜3回 |
| 荷物を背負っての歩行 | リュックに水のペットボトルなどを入れて負荷をかける | 2〜3週間かけて徐々に重くする |
注意点として、運動習慣のない人がいきなり重い荷物を背負うと腰や膝を痛めます。重さは数週間かけて少しずつ増やすのが安全です。持病がある方や不安のある方は、事前に医師などの専門家にご相談ください。
僕自身、普段やっているのは軽い筋トレくらいで、体力自慢ではありません。槍ヶ岳のときは槍平小屋から山荘までで運動不足がはっきり出て、標準4時間の区間に4時間半かかりました。
そのときに思ったのは、間の時期に山へ行けなくても、日常で少し動いておくだけで終盤の粘りが変わるということです。しんどくなるのは、たいてい行程の最後の数時間ですよね。
高山病への備えも体力づくりの一部です。標高2,500mを超えると2割ほどの人が軽い症状を訴えるとされ、そこから先は1日に上げる「眠る場所の標高」を300〜500m程度に抑えるのが安全の目安とされています。日中に登る高さではなく、前の晩に泊まった小屋と次に泊まる小屋の標高差の話です。
北アルプスの縦走は稜線の小屋に泊まるので、眠る場所の標高を下げにくいのが難しいところです。初日はゆっくり高度を上げる配分にして、水分をこまめに摂る。僕が富士山でやらかしたように、山小屋でのお酒は避けたほうが無難です。
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8月の縦走は予約と登山届で決まる
8月の縦走は、山小屋の予約が取れるかどうかで日程の骨格が決まります。そして登山届は、長野県も岐阜県も条例で提出が求められる手続きです。この2つは出発前に必ず片づけておきます。
まず時期の話から。北アルプスの一般的な登山適期は7月下旬から9月下旬とされ、2026年の長野県の梅雨明けは7月20日でした。7月中旬までは沢筋に残雪が多く、9月下旬からは初冠雪と低温のリスクが上がります。
その意味で、8月は初めての縦走にいちばん向いた時期です。7月・8月は朝晩の最低気温が15度から10度ある日がほとんどで、標高の高い稜線でも比較的過ごしやすい。ただし、小屋がいちばん混むのもこの時期なんですよね。
やっかいなのは、予約の受付開始日が小屋ごとにばらばらなことです。春先から受け付ける小屋もあれば、宿泊日の1か月前という小屋もあります。
| 山小屋 | 2026年度の予約開始 | キャンセル時の負担 |
|---|---|---|
| 燕山荘グループ | 一般室は3月18日から | 公式サイトで要確認 |
| 蝶ヶ岳ヒュッテ | 4月1日の10時から | 公式サイトで要確認 |
| 常念小屋 | 宿泊日の1か月前から | 公式サイトで要確認 |
| 槍ヶ岳山荘グループ | 宿泊日の1か月前の朝9時から | 予約金制度。WEB予約は21日前以降1,000円、電話予約は2日前以降2,000円。当日15時以降と無連絡不泊は全額 |
| 涸沢ヒュッテ | 公式サイトで要確認 | 前々日まで無料。前日はWEB予約で30%、当日は100% |
縦走で効いてくるのは、この開始日のずれです。泊まる小屋がいくつも連なるので、いちばん受付の遅い小屋の開始日が、実質的に日程を確定できる日になります。
予約金やキャンセル料を導入する小屋も増えました。とりあえず押さえて後で決める、という取り方はしにくくなっているので、行くと決めてから押さえるほうが結局は気が楽かなと思います。
縦走は泊まる小屋が数珠つなぎになるので、1つ取れないと日程全体を組み直すことになります。そこで日数を削ってコースを短縮すると、1日あたりの行動時間が伸びてしまう。予約に合わせて行程を詰めるのがいちばん危ない組み方です。
僕が実際に歩いたのは、奥穂高岳が2017年8月の頭、槍ヶ岳が2018年の8月末、ジャンダルムが2019年7月の梅雨明け直前でした。梅雨明け前は人が少なく、ジャンダルムの周りは自分たち以外ほとんどいなかったです。
ただ、あれは天気の読みがたまたま当たっただけで、狙って行くにはリスクの高い時期でもあります。初めての縦走なら、素直に梅雨明け後の8月に合わせるほうが安全側かなと思います。
登山届は、長野県も岐阜県も条例で提出を求めている手続きです。岐阜県は罰則付きなので、出し忘れでは済まないという点だけは押さえておきたいところです。(出典:岐阜県『山岳遭難防止条例』)
| 項目 | 長野県 | 岐阜県 |
|---|---|---|
| 根拠 | 長野県登山安全条例 | 北アルプス地区及び活火山地区の山岳遭難防止に関する条例 |
| 対象 | 指定登山道を通行する場合 | 北アルプス地区と活火山地区への登山 |
| 罰則 | 条例上の義務(罰則の定めなし) | 5万円以下の過料 |
| 出し方 | ながの電子申請サービス、登山届システム、FAX、メールなど | 登山届ポスト、持参、郵送、FAX、メール、オンライン |
上高地から入って新穂高へ下りるような県境をまたぐ縦走では、両県の制度が関わります。僕が2018年に槍ヶ岳へ登ったときも、新穂高側の登山センターで提出しました。オンラインで出せる仕組みも整っているので、出発前に済ませておくのがおすすめです。
提出したうえで、家族や知人に詳しい行き先を伝えておくことも大切です。計画書が共有されていないと入山場所や遭難地点の特定に時間がかかり、捜索が遅れると繰り返し呼びかけられています。
2026年は新しい取り組みもありました。長野県は7月18日から8月11日までの25日間、横尾登山口と栂池自然園登山口に啓発ゲートを試験的に設置し、準備が整っていない場合や入山時間が遅い場合には入山の自粛を求めることがある、としています。
遭難が集中する夏から秋には、山岳遭難防止常駐隊も配置されています。2026年は北アルプス北部が18名で7月13日から9月27日、南部が14名で7月13日から10月13日の体制です。登山相談もできるので、不安があれば現地で聞いてみるのもいいと思います。
保険も確認しておきたいところです。長野県の消防防災ヘリによる救助は費用を個人に負担させていませんが、民間の救助隊が出動した場合は費用が発生します。隊員の人数や捜索日数に応じて積み上がっていく仕組みです。
山岳保険は、捜索・救助費用の補填に特化した会員制の仕組みと、傷害保険をベースに救援者費用を補償する商品の2系統があります。年1回程度なら短期型、回数が多いなら年間契約型が向きます。岩稜帯や雪山が対象外の商品もあるので、キレットを含む計画では補償の範囲を必ず確認してください。
出発前の最終確認
登山計画書を出したか、家族に行き先を伝えたか、各日の行動時間はコースタイムの1.5倍で計算しても16時までに小屋へ着けるか、エスケープルートはどこか、雪渓の通過や軽アイゼンの要否はどうか。ここに挙げた数値や制度はあくまで2026年時点の目安なので、最新の登山道の状況・料金・条例は各山小屋や自治体の公式サイトでご確認ください。
北アルプスの縦走を初心者が計画するときのよくある質問
初心者が一人で北アルプスを縦走しても大丈夫ですか?
初めての縦走は、できれば誰かと一緒に行くことをおすすめします。2026年1月から7月20日までの長野県のまとめでは、遭難141件のうち58件が単独登山で、死者23人のうち13人が単独でした。単独だと、動けなくなったときに通報してくれる人がいないのが大きな差になります。どうしても一人で行くなら、登山計画書の提出と家族への行き先の共有、そして早めに引き返す判断を徹底してください。
縦走の途中で天気が崩れたらどうすればいいですか?
無理に進まず、山小屋で停滞するか、来た道を戻る判断が基本です。夏の午後は雲が湧いて雷雨になりやすいので、そもそも稜線の行動を午前中に終える配分にしておくと、崩れたときに動かない選択が取りやすくなります。予備日を1日見込んでおくこと、稜線に上がる前にエスケープルートを地図で確認しておくことも効きます。テント泊は風雨に自力で対処することになるので、天候が不安定な時期ほど小屋泊のほうが安心です。
縦走の装備はレンタルでもいいですか?
年に1回程度なら、レンタルは合理的な選択だと思います。事業者のセット料金には、7点セットで1泊2日16,000円前後、12点のフルセットで24,000円前後といった例があります。ただし登山靴だけは、サイズが合わなかったり履き慣らせなかったりすると靴擦れの原因になるので、自前で用意して事前に履き慣らしておくのがおすすめです。レンタルのセットは日帰りから1泊向けの構成が中心なので、縦走に必要な容量や仕様かどうかも確認してください。
山小屋の予約が取れなかったらどうしますか?
次の一手はいくつかあります。ひとつはテント場で、大天荘のテント場は約50張、穂高岳山荘のテント場は完全先着順で約60張。燕山荘はテント場が満員のとき、敷地に余裕のある大天荘のテント場を目指すよう案内しています。もうひとつは予約なしでも受けてくれる小屋で、常念小屋は当日利用が4,000円の割増、涸沢ヒュッテは当日予約なしの宿泊に2,000円が加算されます。僕が2017年に穂高岳山荘へ行ったときも、事前連絡なしで普通に泊まれました。ただしどれも確実ではないので、最終的には日程をずらすか別の縦走に替える判断とセットで考えてください。料金や受け入れの扱いは変わるので、最新の情報は各小屋の公式サイトでご確認ください。
北アルプスの縦走にはどれくらい費用がかかりますか?
山小屋泊で2泊3日、公共交通で往復する場合の目安はこうなります。穂高駅から中房温泉までのバスが片道1,500円、山小屋の1泊2食が16,000円前後なので2泊で32,000円、行動食用の弁当が1食1,500円前後、下山後の上高地からさわんどまでのバスが片道1,600円。ここに装備代や行動食が乗ります。テント泊なら宿泊部分は1泊2,000円ですが、装備の初期費用と重量増も計算に入れてください。料金は改定されるので、最新の金額は各社・各小屋の公式サイトでご確認ください。
槍・穂高側から入るなら、山小屋の予約と同じくらい早く決まるのがバスの時刻です。沢渡・あかんだなの駐車料金とシャトルバスの始発、最終便から逆算した行動時間はこちらにまとめました。
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まとめ:北アルプス縦走は1回1段で届く
結局、初心者がいちばん最初にやることって何だっけ?
自分がいまどの段にいるかを測ることかなと思います。そこが決まれば、次の1段は自然に選べますよ。
北アルプスの縦走は、体力自慢でなくても段を踏めば届きます。僕自身、富士山から始めて2年でジャンダルムまで行きましたが、1回ごとに増やしたのは1段だけでした。最後に要点をまとめておきます。

- 体力度(1〜10)と技術的難易度(A〜E)は別の軸。同時に2段は上げない
- 最初の縦走は難易度Bの常念山脈から。パノラマ銀座は2日目の9時間15分を分けると楽になる
- 現在地はコースタイム比で測る。1.5倍で計画し、2倍かかるならその山はまだ早い
- 泊数は体力度で決める。4〜5で1泊、6〜7で1〜2泊、8〜10で2〜3泊以上が公式の目安
- 初回は小屋泊。荷物の軽さがそのまま消費エネルギーと時間の余裕になる
- 装備はレインウェア・防寒着・ヘッドランプ・水を残したうえで削る
- 8月は予約と登山届が計画の骨格。県境をまたぐ縦走は両県の制度を確認する
最後にひとつだけ。ここに書いた数値やコースタイムはあくまで目安で、天気やその日の体調で簡単に変わります。最新の登山道の状況や料金は各山小屋・自治体の公式サイトで確認して、迷ったら引き返す判断を優先してください。無理をしない選択が、いちばん強いですよ。
縦走のルートに涸沢を組み込む場合、紅葉の時期は稜線がもっとも混み合う時期でもあります。予約や日程を紅葉の見頃に合わせて組みたい人は、こちらの記事も参考にしてください。
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